先日、『自閉症とセクシャリティに焦点をあてた家族プログラム』というものを受講しました。
セクシャリティ=広義の意味の性
指導してくださった先生は精神保健福祉士を取得の社会人であり、現在は大学院の博士課程で学んでいらっしゃる学生さんでもあります。私たちは研究段階のモニター的な存在で参加させていただきました。 →【補足】
先生曰く、8週ほどかけて取り組みたいプログラムですが、8週続けて(週1回)の受講は、受講する側にとっては容易いことではなかろうとの周りからの助言を受け、3回の受講で終了となるようにしましたとのことです。
ですので、部分的にはとても駆け足的なところもありましたが、それは仕方のないことと。しかし、1回2〜3時間の受講内容としては、受講者それぞれに得たものは決して少なくなかったのでは……と、思えるものでした。
前置きが長くなりましたが、まず第1回目の資料から。
「はじめに ハンディのある子のセクシャリティを支援すること」、と題したページからこのプログラムは始まります。
(注:以下太字はワークブックのダイジェスト版からの抜粋転載です。プログラムを開発した先生のご許可を得て行っています)
自分の思春期の頃、「性的なこと」は、大いに自分をワクワクさせてくれることでした。そんな自分のワクワクが、人を傷つけたり、不快な思いをさせてしまうことがあると気付いたのは、だいぶ大人になったつい最近のことです。
クリニックやボランティアで関わってきた子どもたちが、思春期・青年期を迎え、その子たちと一緒に「性」と向き合わなければならなくなったとき、多くのとまどいをおぼえました。どんなことが適切で、何が不適切なのか。いつ、どのように、どんなことを支援していけばいいのか。おそらく不適切であったであろう自分の経験則では手に余ります。
専門職の養成トレーニングの過程にもそのような指針はありません。
ましてや、目の前で困っているのは、自閉症やアスペルガー症候群という固有の事情を抱えた子どもたちとその周りの支援者なのです。
このワークブックは、これまでの国内外の研究で言われていること、ハンディのある子たちに実際に関わってきた多くの支援者の声を集めて作られました。
このワークブックのタイトルは、『自閉症とセクシャリティに焦点をあてた家族プログラム』といいます。
このワークブックは、自閉症のお子さんの思春期・青年期を支援している親御さん向けのグループワーク用のプログラムと、いくつかの宿題プログラムで構成されています。性的な行動に焦点をあてていますが、話は、お子さんの体験している思春期や青年期である現在やこれからの生活や家庭環境に及びます。
人間の性・セクシャリティに関する科学的な知見は、これからもきっと更新されていくことでしょう。ハンディのある子への有効な支援方法についても、もっともっと良い方法が蓄積されていくはずです。ですから、このワークブックは2009年の現段階で、有効であろうとか、適切であろうと評価されていることをまとめているに過ぎません。
性のことを、自信を持って、子どもたちに伝えられる人は少ないと思います。さらに、自閉症は症状もさまざまな出方があり、知的なレベルや活動性もさまざまであり、伝えることにより多くの困難が伴います。
どうぞ、このワークブックを使って、一緒に学び、また、性を通して、生きることを実感し、自己肯定感を育んでいきましょう!
次に……
『これまでの子育ては、まちがっていない』
と、いう内容が続きます。
思いっきり内容を抜粋しますと……
「いつの場合でも、その時点において自分で正しいと思ったことを一生懸命することしかない」のだということを、私たちは確認したいと思います。
今まで「障害のあるお子さんのために一番良いと思ったことを愛を持って一生懸命やってきた」と認め、自分を労ってください。
さあ、はじめましょう!
と、次ページからがプログラムの始まりとなります。
プログラムの流れは、
第1部 子どもの思春期 子どもと親のあたらしい関係性 (1日目)
第2部 障がいのある子の思春期・青年期 (2日目)
第3部 子どもとセクシャリティについて話すこと (3日目)
プログラムの目標として、このプログラムに期待できること、このプログラムに期待できないことの説明があった後、
@ひみつを外で話さない A自分の気持ちを自由に話す B認め合い、助け合う
というグループのルールを確認しました。
第1部では、まず、子どもの様子を思い浮かべながら、思春期や青年期にあった親子の距離について考えました。
例えば……
思春期を迎えたお子さんに対しても、小さい子どもに働きかけるように
人前で親が『「こんにちは」は?』と働きかけるのは……?
声がけされたのが自分だったらどう感じるだろうか、と置き換えて考えてみる。
次に、『あなたメッセージ』から『わたしメッセージ』に置き換えて言ってみる。
普段、私たちは無意識的に子どもたちに対して
「○○しなさい(そのほうが、あなたの為よ)」
「△△したほうがいいんじゃない?(そうじゃないと、また失敗するわよ)」
というように『あなたが……だから、わたしは』といった話し方をしていませんか?
これが、あなたメッセージです。
これに対して、
「わたし(お母さん)は◎◎してくれると嬉しいな」
「□□のほうがわたしは良いと思うのだけれど」という言い方は、わたしメッセージ。
わかりやすいかどうか……ひとつの例として記します。
今、目の前に起きているある状況があったとします。
それがある人にとっては「まったく!あんたはまたこんな事をして」と、
思う出来事かもしれません。
同じことでも、別の人は「あ〜あぁ、しかたないよね……よしよし」と思うかもしれません。
同じ状況でも、受け取り方によって反応が変わってきます。
この受け取り方や考え方をより適切な子育てに向けるために「わたしメッセージ」は役立ちます。
次に、このわたしメッセージを使ったロールプレイをしました。
性教育を中心にしたプログラムということで、セクシャリティに関連した
「わたしメッセージ」の練習を行いました。
(「わたしメッセージ」とは、ペアレント・トレーニングの1つである『親業訓練』の主要な柱です、と説明書きがあります)
設定は、授産施設に通う我が子(それぞれの家庭に応じた設定で)が、実習先に短期入所に来ている異性の方(女性または男性)と初デートでカラオケに行く……という内容です。
ここでの「わたしメッセージ」のポイントは、
1)子どもの問題行動を非難がましくなく
2)その行動によって親が受ける影響を具体的に
3)その影響によって、親が感じる感情を正直に伝えること
子どもと親の役を交代して行った後で、子ども役になったときの感想と親の役をやったときの感想を用紙に書き、順番に発表していきました。
子どもを疑似体験する訳ですが、場合によってはすごく想像を膨らませて行う必要もあった課題でした。
ここでは
「あなたメッセージ」では親の本当の気持ちは、子どもには伝わらない。
本当は、自分(親)がいやなのなのだから、相手の行動をとがめ、制御し、規制する「あなたメッセージ」を、「わたしメッセージ」に置き換えて伝える……という
ことを学びました。
第1日目を終了し、「適切な距離」(工夫・エピソード・定義などなんでも)と「過干渉・放任」(警告サイン・エピソード・定義などなんでも)の覧に書き込んだ思春期・青年期の子どもたちと私の「適切な距離」チェックリストと、私メッセージをやってみた感想(子ども・親の両方の)とワーク全体の感想を書いた紙の2枚を提出しました。
最後にワークシート(宿題)が1枚だされました。
@ 次週の勉強会までの1週間でつい言ってしまった『あなたメッセージ』を3つ書いてみましょう。
A そのうちの1つを取り上げ、そのときのあなたの気持ち、ホンネを書いてみましょう。
B 『わたしメッセージ』では、どのように伝えられるか、例を書いてみましょう。
それぞれの覧に書き入れて、次週に提出します。
先生がコメントを書いてくださって、後日、返却されます。
以上が、第1日目のプログラム内容です。
【補足】
このプログラムにモニターとして参加するに当たって、次のような説明がありました。
「本研究で作成したプログラムは、先行研究で有効性が検討された介入について、実施責任者および分担者によって、思春期・青年期年代の自閉症を有する子ども、あるいは知的障害のある子どもを持つ家族を対象としたプログラムにパッケージ化したものです。プログラムの実施においては、安全性に配慮し、慎重に実施されるため、調査による身体的、精神的な危険性はほとんどないと予想しています。
しかし、プログラムには、性科学など発展途上の領域を扱うこと、わが国において有効性や安全性が確認されていない介入プログラムを、今後本研究によって有効性や安全性を検討していく内容が含まれていることなど、みなさまに不利益(将来的に誤った科学的見解を伝える、結果的に有効でないプログラムに時間を拘束された等)を及ぼす可能性が存在します。
調査研究への協力は、いつでもやめることができます。調査に同意された後でも、気持ちが変わった場合には、お申し出ください。お申し出に基づき、調査の中止・データの抹消等、ご希望に従って対応いたします。また、万が一、調査中に気分が優れないなどなんらかの異常を来たした場合もお申し出ください。安全を確保し、相談等の精神医学的な対応をいたします。これらのご要望を出されても、不利益を被ることはありません。」
(プログラム開発・実施担当:菊池春樹)
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