昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

うちでのこづち

昨夜、布団に入ってから昇平にリクエストされて「一寸法師」の物語りをした。
小さかった一寸法師も、鬼が落としていったうちでのこづちを振って背を出したら、大きく立派な若者になって、めでたしめでたし。
ハッピーエンドに昇平もニコニコしていた。

話し終わってから、昇平に聞いてみた。
「もしここに、うちでのこづちがあったら、昇平くんなら何を出したい?」
一寸法師みたいに大きくなりたい、と言うかな? それとも、なにかゲームのソフトでも出したい、と言うかな?(笑)
すると、昇平、しばらくの間え〜と・・・と考えてから、こう答えた。
「間違って困っちゃったときに、使いたい」
「間違ったとき、って・・・・・・お勉強して問題をまちがえちゃったときのこと? それとも、お勉強のときだけでなく、いろんなことをしているときのこと?」
「うん。いろいろ」
昇平の表情は真剣だった。

   ☆★☆★☆

間違って困っちゃったとき、というのは、毎日の生活の中で、意味が分からなかったりうまく行かなかったりして、失敗したときのことを指しているのだろう。
失敗してしまった、とは分かるのだけれど、どうやったらそれがうまくできるようになるのか分からなくて、困惑してしまう。あるいは、失敗したことが取り返しのつかない結果を招いてしまって、どうしていいのか分からなくなってしまう。

きっと、昇平にとって、そういう体験はとてもたくさんあるのだと思う。
そのたびに、ああ、またやっちゃった、と思い、密かに困り果て、悲しくなっているのだろう。
うちでのこづちがあったら、そんなふうに失敗しないようになりたい。
昇平はそう考えたのだ。

   ☆★☆★☆

私は何も言えなかった。
昇平が、こんなことを考えていたとは思っていなかったから。
何も言わなかったけれど、ADHDの困難さを自分自身でも感じていたんだね。
そして、まわりのお友だちのように、失敗なくいろいろなことをこなせるようになりたい、と思っていたんだね。

うちでのこづちはお話の中にしかない道具だけれど、昇平のまわりにいる人たちは、みんな心の中に小さなうちでのこづちを持っているんだよ。
森村先生も、お母さんも、お父さんも、おじいちゃんも・おばあちゃん・お兄ちゃんも、お友だちも、病院のY先生も・・・。
みんなで、そのこづちを昇平の上に振り続けているんだよ。
「昇平くんが少しでも生きやすくなるように、力よ出ろ、知恵よ出ろ、勇気よ出ろ、優しさよ出ろ・・・」
小さなこづちだから、本物のように劇的には効かないけれど、少しずつ、少しずつ、効いてくるはずだからね。
そして、いつかは、自分自身の力で困ったことにも立ち向かえるようになるはずだから・・・・・・。

暗くなった部屋の中、私はそんなことを昇平に心で話しかけていた。

[02/05/10(金) 12:47]

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