昇平てくてく日記
幼児〜小学校低学年編
リタリンの話・1
今日は、ADHDを治療するお薬の話をしてみましょう。
昇平が毎日飲んでいるのは「リタリン」。これは商品名で、一般名は「メチルフェニデート」と言います。
その薬がどうしてADHDに効くかという話をするには、まずADHDが起こる原因をお話ししなくてはなりません・・・。
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人間の脳の中ある、何億という脳細胞。
それらは細い神経の糸を出し合ってそれぞれに手をつないでいるのだけれど、倍率の高い顕微鏡でよく見てみると、神経の手と手の間にすきまがあいている。
脳細胞が情報の電気信号を送り出すと、その神経の手のひらからごく小さな物質がボールのように飛び出してきて、向こうの神経の手のひらにキャッチされる。そうすると、それがまた情報の電気信号に変わって、向こうの脳細胞に伝わっていく・・・。
漫画的に考えると、こんな様子になるかな。
脳細胞くんが、ある情報を小さなボールに書き込んで、向こうの脳細胞に投げ渡した。
受け取った脳細胞くんは、ボールに書いてあった情報を読んで、自分のボールに同じ文面を書き写して、また次の脳細胞くんにそれを投げ渡した。
受け取った脳細胞くんは、またその文面を読んで・・・以下同文。
そんな情報の受け渡しを繰り返すことで、人間の脳はものを見たり、聞いたり、考えたり、体を様々に動かしたりしているのだという。
そう。こうしている今この瞬間にも。
人間の体って偉大だなぁ、と思う。
この情報を受け渡す役割をしているボールには、いくつか種類があるらしいが、まとめて神経伝達物質と呼ばれている。ADHDに関係しているボール(神経伝達物質)の名前は「ドーパミン」。(他にも何種類かあるらしいけれど、これが一番有名。)
ADHDを持つ人の脳は、なぜだか、このドーパミンを受け止めるのがうまくないらしい。
投球の方は問題ないらしいのだけれど、キャッチする方が下手なものだから、結果として、ボールの取りこぼしが多くなる。そうすると、脳から脳へきちんと情報が伝わらなくなり、脳がうまく働かなくなってしまう。
それも、脳全体が下手なのではなく、ある一部分だけが下手くそ。つまり、脳という野球界が、とても下手な野球チームをひとつ抱えていているようなものらしい。
それが、何かに注意力をずっと向け続けたり、集中力を持続させたり、自分の行動をコントロールしたりする働きを受け持つチーム。
ゆえに、不注意、集中困難、多動、衝動的というADHDの症状が起こってくる。
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本物の野球界であれば、下手なチームは他のチームから歓迎されるかもしれないが、人間の脳ではそう言うわけにはいかない。各チームがちゃんと協調しないと、人間の体はうまく活動できないから。
ADHD治療薬のリタリンは、このドーパミンのボールを「受け止めやすく」しているのだと言われている。
リタリンのおかげでキャッチボールがうまくなった脳の最下位チームは、まともなプレイができるようになり、受け持ちの仕事をちゃんとこなせるようになる。
周囲がよく見えるようになり、根気強くなり、落ち着いた行動ができるようになる・・・というわけ。
ところが、このリタリン。残念ながら効果時間が短い。
服用後30分〜1時間くらいから効き始めるのだが、どんどん体内で分解されていって、だいたい4時間前後で効き目がなくなってしまう。
そうすると、チームはたちまち最下位グループに逆戻り。また不注意で集中力が続かなくて落ちつきのない元の状態に戻ってしまう。
リタリンは、根本的な治療薬ではなく、対処療法的なお薬なのだ。
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でも、人間の脳というのは、よくできている。
一度「よい」状態を経験すると、意識的にその状況をまた再現しようとする。
たとえば、「落ち着いて座っていたら、先生がたくさんほめてくれた。まわりのお友だちもぼくに優しかった。そうか、授業中はきちんと座っていた方がいいんだな。この次もがんばって座っていることにしよう。」と考える。
もともとは「動き回りたい」という性質を持っているのだけれど、理性の力で自分をコントロールできるようになってくるのだ。
たぶん、脳の他のチームが、最下位チームのサポートのしかたを覚えるんだろうな・・・。(笑)
それに、最下位チームだって、いつまでも下手くそのままとは限らない。特に子どもの場合は、体の成長に合わせて脳もどんどん成長して行くから、幼いときにはものすごい多動だった子どもが、いつの間にか落ちついて行動できるようになっていた、なんて話はよく聞く。
最下位チームが年と共に上手になっていったわけだな。(笑)
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さて、お薬の話はまだまだつきませんが、そろそろ紙面がつきました。この続きはまた次回といたしましょう。
今回はリタリンの良いところだけ書きましたので、今度は副作用の話などを・・・。
[02/05/14(火) 23:23]