昇平てくてく日記3

中学校編

授業参観

 昨日は午後から授業参観と学級懇談会がありました。

 今回参観した授業は「体育」。中学校に入ってからは初めてです。内容は、体育館を使ってのサッカーで、2クラスの男子が合同でパスなどの練習をし、後半は短時間での試合をしました。

 昇平は運動が極端に苦手です。
 協調運動というようですが、体の各部分を目的に合わせてスムーズに動かすことができないのですね。体の動きを見ても、走る姿を見ても、充分に動いていなくて、ぎこちないのがすぐわかります。走るのも遅いし、球技は球の動きに目がついていきません。お手本を示してくれる人の動きを見て真似る、ということも、本当に苦手です。
 ですから、昇平は体育の授業が嫌いです。私自身も、昇平ほどではないけれど、やっぱり協調運動に困難を抱えているので、昇平の気持ちはよくわかります。さて、その苦手な体育の授業を、昇平がどんなふうに受けているか……。そのあたりに注目しながら見学しました。


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 体育の教科担任は、学年主任のH先生です。この日記にもたまに名前が挙がりますが、子どもへの指示がとてもお上手な先生だと思います。
 教科が教科なので、声かけのことばづかいは体育会系ですが、子どもたちに「何をするか」「どうするか」を短く的確に伝えているし、ゴールの赤いコーン、試合時間の残りを示すデジタル時計と、目で見てわかりやすい工夫もいろいろされています。狭い体育館の中で大勢でパスの練習をするときには、隣のグループのボールと間違わないように、わざと模様の違うボールを渡しておられたようです。
 子どもたちが指示に従わないで勝手に遊び始めそうなときには、すかさず再集合させて「はい、巻き戻し。もう一度最初からやり直しだ」
 体育の授業では、これは特に大事なのだろうな、と思いました。先生の指示を聞かずに勝手なことをすれば、授業が成立しなくなるだけでなく、怪我などの事故が起きる可能性だってあるわけですから。「勝手なことを続けるなら、何度でもまたやり直しさせるからな」と先生に言われて、子どもたちは一度で指示に従うようになりました。


 さて、そんな中、昇平はどうしていたかというと、最初はグループに入らずに別の場所にいました。
 全体がパスの練習を始めたところで、H先生が昇平に柔軟体操を指示。一緒に体を動かしてみせてくれました。
 先にも書いたとおり、昇平は協調運動が悪い子どもです。訓練の必要性は感じていましたが、スポーツの得意な子に教える場所はあっても、昇平のように動きの苦手な子に運動を楽しく教えてくれる場所はなかったので、ずっとそのままで来てしまいました。家庭で教えてあげられれば良かったのですが、親である私たちも体を動かすことは苦手で、教えようもなく……。
 ごく簡単な柔軟運動でも、昇平にとってはとても貴重な訓練ですし、サッカーに取り組む前段階の練習にもなります。こんなふうに、常にその子の能力に合わせたカリキュラムが組める体育の授業だったら、すばらしいだろうなぁ、と思いました。


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 柔軟体操の後は、昇平もグループに混ざってパスの練習をしていました。ボールがとんでもない方向に行くこともしばしばでしたが、たまにまっすぐ飛ぶこともあって、昇平としてはまんざらでもない感じでした。
 ところが、グループ対抗のミニ試合になると、昇平が少し怒り出しました。先生に何かを言われてなだめられ、試合に混ざっていたと思うと、急に抜け出して、体育館の入口で見学していた私のそばに座り込みます。そのまま何も言わないので、私も何も言わずに知らん顔していました。『どうしたの、って聞いてもらいたいなぁ』と期待しているのがわかったからです。何か手助けしてほしいことがあるならば、あるいは、不満や不安があるならば、それを自分のことばで訴える。それも今の昇平の大切な発達課題の一つです。
 しばらく待っていると、やっと口に出して言いました。「どうしていいのかわかんない」
 そこで、「どっちが自分のチームのコートかわかる?」と聞いてみると、「わかんない」。
 これも障害特性ですが、昇平は人の顔を覚えるのが極端に苦手です。ついさっきまで一緒にパスの練習をしていたお友だちも、みんな一緒になってしまうと、誰が誰かわからなくなってしまいます。誰が敵か味方か、どっちが自分の味方の守るゴールか、そもそもそれが見分けられないのですから、試合に参加できるはずもありません。
 「昇平くんは帽子をかぶっているチームだよね。だから、かぶってない方が敵チーム。帽子のない子が守っているあっちのゴールにシュートすればいいんだよ」と教えると、「わかった!」と目を輝かせて飛び起き、走って試合に戻っていきました。あとは脇目もふらず、敵にも味方にも目をむけずにゴールを狙い続け……。まあ、今の昇平の段階から言えば、それだけできれば上出来ですね。(笑)


 あとでH先生に確認したところ、先生もそれは把握していたのだけれど、全体への指示が忙しくて昇平にきちんと説明する時間が作れなかったのだそうです。「ちょっと待っててね」と昇平に話していたのが、先の、昇平をなだめていた場面だった、というわけです。
 こういうところに、ちょっとした手助けがほしいんだよなぁ、と改めて思いました。
 本人はやる気がないわけではないし、反抗して試合を抜けてきたわけでもありません。ただルールがわからなかった。それも、「どちらが味方のチームかわからない」という、基本中の基本の部分でつまずいていた。
 例えば、同じチームのお子さんが、「昇平くん、今度はこっちが攻めるゴールだよ」と一声かけてくれれば、昇平も(そして、忙しい先生も)とても助かるのだろうな、と思いました。ただ、整列の時には、空間把握が苦手な昇平に同じ列の子が声をかけて、立つ位置を教えてくれている場面を、何度も見ました。


 試合の待ち時間には、昇平はデジタル時計をスタートさせる「時計係」を先生から任命されていました。
 時間はきっちり守りたい昇平です。先生の合図と同時に時計を動かしていました。
 こんなふうに、自分に合った役目を任されたのも嬉しかったのでしょう。苦手なはずの体育の授業でしたが、終わったとき、昇平はとても良い顔をしていました。連絡帳の反省欄にも「がんばったぞ!」と書いていたので、自分でも達成感があったのだと思います。


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 昇平は今、「がんばればできる自分」というものを、家庭でも学校でも実感しています。

 週末には、「運動して痩せたいから」と言って、片道30分かかる床屋や店屋まで一人ででかけて、本当に自分の足で往復しました。そんな長距離を一人で歩いたことはなかったので、家族全員が驚いて感心したので、そのことにまたとても満足したようです。

 学校では、かんしゃくを起こしそうになっても、すぐ気がついて落ち着く、反省する、ということを続けています。今学期になって、大パニックはまだ一度も起こしていません。授業は同級生のL子ちゃんと別々の教室で受けているようですが、それぞれの進度や課題が違っているので、かえって勉強しやすいようです、と懇談会では担任の長谷田先生から聞かせていただきました。そうやって、落ち着いて授業を受けることができるので、休み時間には穏やかに友だちの関わりを持てる場面も増えてきた、という話で、本当に安心させられました。
 「昇平もL子ちゃんも、それぞれに課題があるので、様子を見ながら、あの手この手でちょっとずつ上を目ざしていかせたいな、と思います」という長谷田先生のお話に、心から頭を下げました。


 やっといろいろな歯車が噛み合い始めたと感じていた中学校ですが、それはやっぱり本当でした。
 昇平にとっても、学校にとっても、実り多い2学期になっていってほしい、と改めて願っています。

[09/09/15(火) 10:52] 学校

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