昇平てくてく日記3

中学校編

自分の場所でできること

 昨日の朝のこと。
 登校した昇平が学校から半泣きで電話をかけてきました。
「もうイヤだ。家に帰る」

 どうしたのかと思って話を聞くと、どうやらまたクラスメートのL子ちゃんが関係しているようです。でも、どうして? 先週の土曜日にL子ちゃんが上級生のT君と一緒に遊びに来てくれて、午後中3人で楽しく遊んだばかりなのに。
 すると、昇平「ちょっと待ってて」と一度電話を切り、今度は学年主任のH先生を呼んできました。先生の話によると、朝自習の時間にL子さんの指導をしていたら、無関係なはずの昇平が「もういやだ、家に帰る」と泣き出したとのこと。
 なにしろ、聴覚過敏があって場面認知が悪くて非常に繊細な昇平です。指導されているのは他の子でも、自分のことのように心に響いてしまうのですね。なるほど、と思いながら、昇平に、「つらくなっちゃったんだね。それじゃ、昇平くんとL子ちゃんの二人ともが落ち着くまで、別の教室にいるといいよ」と話しました。学級の隣には、こういう時のための避難所として、多目的教室があります。
 この頃には昇平も少し落ち着いてきたようで、「隣はイヤだ。図書室がいい」と言いだしたので、「それじゃ先生に断って図書室にいて、落ち着いたら教室に戻るといいよ」と言い聞かせ、昇平も、「うん」と承知して電話が切れました。

 それから30分後、H先生から報告の電話がかかってきました。昇平は図書室に行き、L子ちゃんは教室にいて、それぞれ落ち着いた様子になったとのこと。さらに、下校してからの連絡帳には、昇平が2校時目からは教室に戻り、後はL子ちゃんと仲よく過ごしていたことが書かれていました。
 昨日はたまたま担任が休みで、学年主任のH先生が彼らのクラスを見てくださっていました。昇平の言動にはさぞ気を揉み、二人とも落ち着いたので、ほっとされたことでしょう。昇平も、トラブルを乗り越えてL子ちゃんと仲よく過ごせたので、晴ればれとした顔で帰ってきました。


  ☆彡☆彡☆彡☆彡


 昇平が思春期に突入して、こういうことがしょっちゅう起きるようになりました。たいていは予想もしない出来事なので、即座に状況を把握して、判断、対処しなくてはなりません。昇平が学校に行っている間、携帯電話は手放せません。
 もし私が外で仕事をしていたら、とてもこれだけの対応はできなかったし、トラブルのたびに職場にも迷惑をかけただろうと思います。私が働くとしたら教育関係の職場です。相手の子どもに責任を持つ仕事ですから、とても昇平の子育てと両立はできません。
 だから、私は働いていません。いつでも駆けつけられるように、自宅待機しています。もちろん、用事や勉強のために出かけることはありますが。自分は「先生」ではなく「母親」であることを選んだんだなぁ、とつくづく思います。

 でも、そんなふうに、まったく家の中だけにいて、社会から隔絶されるのもつらいものです。
 家事をして子どもを育てているんだから、それで充分じゃないか、ともよく言われますが、やっぱりもう少し社会に関わる何かがしたい、と思います。家事や子育て以外の何か。私にしかできない何か。
 そう考えて見つけたのが、小説を書くことでした。
 家から離れられなくても、これだけは続けることができます。いえ、むしろ、ずっと家にいたほうが好都合です。
 作品を読んだ人が「面白かった」「楽しかった」と言ってくれると、とても嬉しくなります。「元気の出てくる物語ですね」と言ってもらえることもあって、そうすると、私自身もものすごく元気が湧いてきます。仕事とは言えなくても、書くことで、なんとなく社会に少し役に立っているような気持ちになれるからです。


 「人は自分に配られた手札で勝負をしなくちゃならないものなのさ」
 そう言ったのはスヌーピー。それを紹介してくれたのは、ニキ・リンコさん。
 そういうことなのだと思います。
 自分にできることを、自分の場所でやっていく。それが生きるってことでもあるのでしょう。


 昇平は、「今日はきっといい日になるね」と言って、また元気に登校していきました。
 今のところ、学校からトラブルの電話はかかってきていません。


[09/10/27(火) 10:26] 家庭

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