昇平てくてく日記3

中学校編

修学旅行の反省

 火曜日から修学旅行に出発した昇平は、予定通り京都と大阪を回り、木曜日の夜に帰宅しました。

 昇平にとって、親から離れて旅行をするのは初めての経験です。しかも、修学旅行の常で、スケジュールはびっちり。案の定、とても疲れた顔をして、しかも落ち込んだ様子で貸し切りバスから降りてきました。
 解散した後、家に向かう車の中で旅行の様子を聞いてみると、「いろいろと本当に大変だった」と言います。フィールドワークで行った先でうどんを食べている人を見て、おいしそうだと思って勝手に注文して、班長から叱られた。お土産屋さんで選ぶのに時間がかかりすぎて、バス時間に遅れそうになって班の全員でダッシュで走った。飛行機の中でうるさくして注意された。帰りのバスの中でも騒いで叱られた。……まあ、出るわ出るわ。トラブル続出の修学旅行だったようです。

 ネガティブな内容ばかり話すので、「それじゃ、旅行で楽しかったことは?」と聞いてみると、体験で自分で作った八つ橋がおいしかった、USJ(ユニバーサルスタジオジャパン)のアトラクションがめっちゃ怖くて面白かった、班のみんなにすごく迷惑かけちゃったけれど、二日目の夜は自分でちゃんと布団を敷いたよ――などと話してくれました。楽しかったことを思い出すうちに、顔と声も少しずつ明るくなってきました。

 予想はしていましたが、やはり、班になった子どもたちだけで京都市内を回るフィールドワークが、昇平にとっては非常に大変だったようで、そこで疲れ切って、後半叱られるような行動が増えたような感じでした。三日目のUSJでは、班を離れて引率の先生と回ったので、おかげで楽しめたようです。班の子どもたちも存分にアトラクションを楽しめたでしょうから、双方にとって良かったと思います。

 それでも、昇平は「修学旅行は大失敗だった」としょげているので、こんな話をしました。
 トラブルや叱られるようなことはたくさんあったかもしれないけれど、昇平くんはこんなに長く自分だけで旅行をするというのは生まれて初めてだからね。初めてだもの、失敗があってもしょうがないんだよ。昇平くんにとっては、修学旅行に最後まで参加して、こうしてみんなと一緒に無事帰ってきたってことだけで、ものすごいことだよ。本当にすごいな、よくやったな、とお母さんは思ってるよ。
 すると、昇平もやっと本当に気持ちが立ち直ってきたようでした。「ぼくもがんばったんだね」と、ようやく本当に明るい顔になって、「あぁ、めちゃくちゃ疲れたぁ〜」と車の座席にもたれかかりました。


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 さて、失敗は成功の元。
 誰かと一緒に旅行などをするときには自分勝手な行動をしてはいけない、周囲に迷惑をかけるようなことをしてはいけない、と昇平は痛感したようですが、聞かされた話の中に、ひとつだけとても気になることがありました。フィールドワークに訪れた先で、うどんを勝手に注文してしまった、ということです。店ではなく、屋外の椅子に座って注文するところで、食べている観光客を見て自分も食べたくなった、ということのようなのですが、「何故、そんなことをしたのか」という部分が問題でした。

 とはいえ、帰ってきてすぐにそれを聞くと、いかにも叱っているように聞こえるので、少し時間をおいてから聞いてみました。「叱るわけじゃなく、これからのことを考えるのに知りたいから教えてほしいんだ……そこでうどんを注文しちゃったのはどうしてかな? フィールドワーク中は、昼食を食べる場所以外での食事は禁止だったよね。それがわかっていたのに、食べたくなって注文しちゃったの? それとも、フィールドワーク中はそういうことをしちゃいけない、っていうのがわからなかったの?」
「班のみんなに連れ出されて、班長からすごく叱られて、やっちゃいけないんだとわかったんだ」
 と昇平は答えます。ということは――
「やっちゃいけないんだってことを、その時には知らなかったんだね?」
 うん、知らなかった、と昇平。

 なるほど。

 もちろん、フィールドワーク中のルールについては、事前学習で何度も説明があったはずです。しおりにも、そのように書かれています。でも、昇平は、そのルールが把握できずにいて、やってしまってから班長に叱られて、初めてそれがルール違反だったことに気がついたのですね。

 昇平はことばで説明された内容を聞いて理解することが非常に苦手です。特に、集団に向かって話されたことは、聞いているように見えても理解できずにいる場合がほとんどです。
 事前学習でフィールドワークのルールを先生から教えられたときにも、その場には座っていても、話は全然頭に入っていなかったのでしょう。また、どういう行動が周りの迷惑になってしまうのか、その具体的なイメージも湧いていなかったのだろうと思います。
 でも、周囲はまさか昇平が理解していないとは思わなかったし、私も、それくらいのルールは学校で教えられて理解しているだろうと思っていたので、家で改めて確認するようなことはしませんでした。その結果が、「うどん注文事件」だったわけです。

 「じゃあ、今度こういうことをしないためにはどうしたらいいと思う?」と話を続けました。
 昇平が説明や話が理解できない原因のひとつに、話に集中しないということがあります。もちろん、ADHDがあるので、集中するのは非常に大変なのですが、それでも改善の努力は必要です。説明されているときには、できるだけ話をよく聞く、というのが目標のひとつになりました。
 あとは?
「わからないときには、まず班長に聞く」
 そうだね。わからないことが出てきたら、勝手に自己判断しないで、わかる人に聞くようにするといいんだよね。

 本当に、失敗は成功の元。
 そして、経験にまさる学びはありません。
 でも、ことごとく失敗してから学ぶようでは、本人のセルフエスティームは下がる一方で、改善よりやる気をなくすことのほうが先に起きてしまいます。
 失敗がほどほどの適量ですむように、「ちゃんと聞こえているかな?」「聞いているように見えるけれど、ちゃんと理解しているかな?」ということを丁寧に確認してあげるのが大事だな、と改めて考えました。


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(写真は昇平のお土産。私たちやおじいちゃん、おばあちゃんにはお菓子。家を離れている兄ちゃんにはマスコットのストラップを買ってきました。)

[10/04/17(土) 09:45] 学校

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