昇平てくてく日記3

中学校編

昇平3行日記・6

※全然3行で収まっていない3行日記。

11月1日(月)
 雨降りで薄暗い朝。なんとか普通に起きて朝の支度をしたが、学校へ送る車の中で落ち込み始め、登校できるようになるまで、学校の駐車場と校門前で20分くらい待った。
 担任を通じて申し込んでいた校長・教務主任・学年主任との相談だけれど、11月10日以降でなければ実現できないと返事が来た。考えてみれば、3学年は今、進路決定で一番大変な時期。こんな時に不登校がらみのことで相談をお願いしても、学校側に受ける余裕はなかったのだわ。今回はもうけっこうです、と相談をキャンセルした。もう少し昇平やL子ちゃんの特性にあった授業を工夫できないか、とお願いしたかったのだけれどね。
 学校では午後から私立高校の高校説明会。昇平も最後まで参加してきた。帰宅後、家庭学習に、昨日一緒にやった二次関数の問題を出してみたところ、一人で完璧に解くことができた。「すごいね、やったねー!」と誉めたら、「ぼく、ここはもうわかっちゃったよ」と昇平。その笑顔が、とても嬉しそうだった。

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11月2日(火)
 連絡帳に「相談はもうけっこうです」と書いたら、朝、担任から電話がかかってきて、今日の夕方ならば時間がとれるので4時から相談でどうでしょうか、と言われた。主人の実母の命日で、夕方は昇平と墓参りをする予定だったけれど、急きょ私だけで墓参りをすませて学校へ行った。
 お願いしていた教務主任や学年主任は、学年会議で出席できなかったが、校長先生と、特別支援教室担任の先生方3人(昇平の担任、知的級の担任、副担任)で相談に応じてくださった。
 こちらから最近の昇平の状態を報告し、パニックを起こさないような先手の対応をお願いしたいことを話し、本人にわかる授業をしてほしいことを、昇平の教科書やノート、私と勉強をしたときのメモやワークブックを実際に見せながらお願いした。
 1時間あまり話し合ったが、パニックへの対応についてはなおいっそう環境整備に心がけていくこと、また昇平の精神状態になお配慮をすることを確認。昇平とL子さんへの学習指導については、担任だけでなく学校全体で特別支援教育に関わる取り組みを始めているという説明を受けた。
 校長先生は今年赴任してきた方で、特別支援教育の経験もあるだけに、子どもたちの状態はよく理解してくれたし、校長が今年の学校経営方針に掲げた内容は、私がその席で先生方にお願いしたのと同じ内容だった。実際には、成果が出てくるまでには時間がかかる取り組みだから、あと4カ月で卒業の昇平やL子ちゃんにどの程度間に合うかは不明なのだが、このあと小学校から中学校の特支学級に入ってくる子どもたちのためにも、ぜひその方針で改善していってほしいとお願いをした。
 現状はすぐには変わらないし、学校側としても人員的な問題などがあって、思い通りに対応できない悩みもあるようだけれど、それでもこちらの話に真摯に耳を傾け、双方の望むものの方向性が一致していることを確認できたのは、とても大きな成果だった。
 つまづいた教科については家庭学習で補っていくので、昇平たちが安心して通える学校であること、「わかった」「できた」の実感のある授業を目ざすことを再度お願いして、5時過ぎに話し合いを終えた。

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11月3日(水)
 文化の日で祝日。昨日期末テストの範囲表が渡ってから、また情緒不安定ぎみになってきたので、さっそく数学と英語を私と一緒に勉強した。理解しにくい場面になると、とたんに不安定になって、嫌なことを思い出してしまうけれど、最終的には今日の内容を理解できて、良い表情で終わった。
 ところが、夜、ネットのニュースサイトで、自殺した小学生に関する記事を目にしたようで、「世の中は人をいじめるようなひどい奴ばかりがいるところだ」とまた不安になって、11時半になっても布団の中で眠れないでいた。本人の話に徹底的につき合って、世の中には人の痛みがわかる人もたくさんいること、特に昇平が行く予定の高校には、いじめなどを経験して傷つき、学校に行けなくなっていた子がたくさん来るし、そういう子どもたちに「うちにおいで」と言ってくれる学校だから大丈夫なのだと説明した。
 昇平の社会に対する不安は、実際には、自分がこの先出ていく社会への不安だから、そんなふうに見通しを立てて説明してもらうと安心できるらしい。1時頃まで話し合ったが、ようやく落ち着くことができて、「これからもまたいろいろ不安になると思うんだけど、そのときにはまたぼくを安心させてくださいね。お母さんに迷惑かけたくはないんだけれど、お願いしますね」と、とても丁寧なことばづかいで言った。うん、大丈夫だよ。そのためにお母さんは君のそばにいるんだから、と答えたら、ようやく本当に安心して眠りについた。

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11月4日(木)
 天気が良かったからか、割と元気に目を覚ました。睡眠不足が心配だったけれど、1校時目の保健体育を見学しただけで、他の授業はちゃんと受けられたらしい。
 私は親の会の「アサーション」学習会へ。アサーションとは他者とうまく折り合いながら自分の意見を伝えるためのテクニック。一昨日の中学校との話し合いは、まさにそのアサーションだった。
 昇平は、夜になって「また嫌なことを思いだした」と不安定になったけれど、「それは脳が疲れたからなんだよ。お母さんも時々なるよ」と教えると安心して、Wii Fitで瞑想をしてから寝室に行った。後でのぞいたら、今夜はよく寝ていた。

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11月5日(金)
 「今日は自分で自転車で学校に行くからね」と言って、自力で登校していった。おお、すごい進歩だ! と思っていたが、10時過ぎに携帯が鳴って、「もう我慢できない。家に帰る」と電話がかかってきた。
 何事があったのかと思い、昇平と担任から代わる代わる話を聞いたら、苦手な数学の単元のまとめの問題をやるというので不安定になり、嫌なことを思いだして、家に帰ると言い出したのだとわかった。次の授業は好きな英語だし(予習してあるので自信がある)、4校時目は午後からの高校説明会の会場準備。午後は公立の高校説明会で昇平には直接関係ないので、「午後の説明会には出なくていいから、給食を食べたら早退しておいで」と言ったら、なんとか承知して電話を切った。連絡帳によると、その後少しずつ落ち着いて、4校時目にはいつもの状態に戻ったらしい。二次関数をまだ始めのほうしか理解していないのに、そのまとめの問題をやると聞いて、不安になってしまったんだよね……。「二次関数はお母さんと勉強するから、次の図形の単元に進んでください、と連絡帳でお願いしてあげるからね」と言ったら、昇平も少しほっとしたようだった。
 昇平が早めに帰宅したので、また悪化してきた口の両脇の炎症を診てもらいに皮膚科へ連れていった。真菌に感染しているので、なかなか完治しない。また抗生剤を処方された。

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11月6日(土)
 週末なので、私と一緒にテスト勉強。特に数学は、新しい内容に進むたびに不安になって落ち込むが、丁寧に教えると理解するので、次第に明るい顔になっていった。
 社会の公民も、社会性の発達が立ち後れている昇平には非常に難しいので、内容を絵に描きながら、ポイントを絞って教えた。裁判所の仕組み。絵で見たから、少しは覚えていられるかな?
 このところの多忙で、私はさすがに疲れた。眠い。

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11月7日(日)
 今日も一緒にテスト勉強。二次関数は変域まで進んだ。だいぶ理解してきた感じがする。
 雲ひとつない快晴。家庭教師との勉強は今日はお休みなので、テスト勉強の後で、マクドナルドとゲームセンターに出かけた。ハンバーガー久しぶり。ゲームセンターはうるさいので、私は駐車場の車の中にいたが、昇平に誘われたので、エアホッケーを2勝負した。
 一日落ち着いて過ごしていたが、夜になってまた不安から精神不安定になり、30分ほど私としゃべった。この世には、他人に対してすぐ「うざい」「消えろ」「死ね」と言うような人が大勢いる。こんな恐ろしい世界には住みたくなかった。みんな、表面はいい顔をしているけれど、心の中ではみんな障害者を馬鹿にして、いなくなればいいんだと思っているんだ。みんなそうなんだ、お母さんたちだってきっとそうなんだろう。そんな話をしてくる。
 それに対してひとつずつ、丁寧に丁寧に説明をして、誤解を解き、世の中を見えるようにしていく。……さすがに、「お母さんだってそうなんだろう」と言われたときには涙が出たけれど。でも、そうやって自分の中の不安や心配や疑問を口に出してくれるようになったから、こちらもそれに対して話をして、混乱を整理してあげられるようになってきた。とうとう、一番の不安の元に解決方法を見つけた昇平。「(混乱の整理を)手伝ってくれてありがとう」と何度も何度も言った。こちらのほうこそ、話してくれてありがとうね。

[10/11/08(月) 07:36] 3行日記

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