昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

ことばの教室

◎6月13日の記録

 リタリン  1回目 8:30  2回目 12:00
 
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隣町にある、ことばの教室に行って来た。

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前回、相談(というか、お試し体験)に行ってみて、昇平はことばの教室が大のお気に入りになってしまった。
今日はことばの教室だよ、と教えたら、朝からもうワクワクで、朝食もいつもよりずっと素早く食べ終わり、出かけるまでの時間ごほうびとしてゲームをしていいことにしたら、予定の時間のたっぷり5分前に自分からゲームのスイッチを切って、「お母さん、時間だからことばの教室に行こう」と言った。

行く前に、前回覚えた先生の名前を言わせてみた。
「N先生!」と真っ先にでてきたのは、担当の先生ではなく、母が先生と話している間、遊戯室で遊び相手をしてくれていた男の先生の名前。とはいえ、母にはなんとなく予想がついていたので、「やっぱりね」と思わず笑ってしまったのだが。(^o^;)
「一緒に間違い探しとかやった先生の名前はなんだっけ?」と聞いたら、ちゃんと「O先生」と答えられた。よしよし。担当の先生の名前を忘れちゃったら、O先生、ガッカリしちゃうもんねぇ。(笑)

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さて、ことばの教室についたのは、予約時間の15分前。
建物の玄関にO先生が出迎えにでてくれた。
昇平、朝のご挨拶。・・・相変わらず、視線は合いにくいけれど、ちゃんと適当な大きさの声で言えました。
O先生、壁の時計を指さして「昇平くん、9時半になったら始めようね。今は時計の針が3に来ているでしょ? あれが6になったら、始めるからね。それまで待っていてね」
当たり前のことかも知れないけれど、昇平に時間を教えるのには、一番適切なやり方。
さすがことばの教室の先生、と感心した。


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時間まで遊戯室で母と遊んで(N先生はその時、別の子の指導をしていた。でも、昇平はN先生がいなくても別に平気なようだった。)それから、昇平は指導室に呼ばれた。
母は廊下から窓越しに指導の様子を観察。
窓にはマジックミラーが張ってあるので、中から廊下は見えなくなっている。その窓に面して、廊下にテーブルと椅子があるので、私は座りながら、居心地良く大好きな「観察」をすることができた。(笑)
いいな〜。この環境、最高♪

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実は昇平、建物に入るなり、指導室を覗いて、とある教材を指定していた。
前回見つけて、「この次にやろうね」と約束していたもの。O先生も、それを見て約束を思い出してくれたらしく、指導室にはまず、この教材が準備してあった。
先生が他の教材の準備をしている間に、昇平は目的のものをどんどん箱から出していく。床一面、教材だらけ。(^_^;)
O先生「あらら、いっぱいになっちゃったね。ここじゃやりにくいから、机の上に移動しようよ。全部集めて持っていって」「え〜、できないよ。お母さん・・・先生、やって」「やって、じゃないの。あなたが出したんだから、自分で持っていってちょうだい」 しぶしぶと教材を集める昇平。
「手でもって行くんじゃなくて、箱に集めなさい。その方が楽よ」と先生に言われて、箱に入れ始める。
その様子を窓の向こうから見ながら、私は笑いをこらえるのに必死だった。
あ〜、まるで私と昇平の会話の様子を見ているみたいだぁ!(笑)

昇平には、ひとつひとつのことを丁寧に説明したり、言い聞かせたりする場面がしょっちゅうある。
片づけをするときも、部屋中があまりに散らかっていると、どこから手をつけていいのか分からなくなるのだが(散らかした犯人は、他でもない昇平自身なのだけど。笑)、そんなとき、母が「まず、積み木をかごに入れて」「はい、次は本を集めてね」と1つ1つ具体的に指示を出すと、混乱せずに片づけられるようになる。
ごねる、駄々をこねる、という行為は、実際には本人が「どうやって手を出していいか分からなくて混乱している状態」だから、そこに的確に指示を出せると、昇平だってちゃんとお片づけは出来るし、他のいろいろなことだってできるようになるのだ。
でも、そういう的確な指示を出してくれる大人は、そう多くはない。
O先生が、そういう数少ない「貴重な大人」になっていってくれる可能性を感じて、私は嬉しかった。

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ブリース・ゲームとかいう教材(息でボールを吹いて、枠の中に入れていくゲーム。おそらく、発音のための呼吸訓練に使う教材)でひとしきり遊んだあと、いよいよ指導開始。
O先生が昇平を床の上に招いて、ラジカセからいろいろな音を聞かせてくれた。
それが何の音か当てる、というもの。

電話のベル、車のクラクションと発進音、玄関のチャイム、飛行機が頭上を飛びすぎていく音、目覚ましのベル、etc.
昇平は、意外なくらい、音が分からなかった。
いや、分かる音は分かるのだ。車の音、チャイムの音、工事現場の音も一応分かったらしい。
一方、分からなくて当然の音もあった。タイプライターの音。これは分かれ、という方がちょっと無理。タイプ音とパソコンのキーボードの音は、似ているようで似ていない音だし。
ところが、昇平の年齢でなら当然知っているような音が分からない。例えば、飛行機の音、ジュースをコップに注ぐ音。音を聞いたあと、正解の絵カードを見せてもらうのだが、それを見てようやく「ああ、その音だったのか」と分かるような様子。
そして、とにかく、その課題を早く終えたがる。「むずいよ(難しいよ)」「もうおしまい」「疲れる〜」の連発。
全部で50問あると聞かされると「多すぎるよ〜!」「むずいよ〜!」と声が大きくなる。(悲鳴?)
O先生と昇平の間であれこれ交渉した結果、なんとか12問までやれたが、15問まで、という先生の要望は拒否されてしまった。(^_^;)

これには、本当に考え込まされた。
昇平に分からない音。それは、生活の中で突然起こってくる音。
昇平が準備できないうちに唐突に起こって、昇平が気がつく前に消えていってしまう音。
それは、音に限らない。
人が話しかけてくる声でさえ、昇平は気がつけないことが多々あるのだ。
その人が、昇平の注意を引いたり、昇平が気がつくまで何度も話しかけてくれたりするならばいい。
でも、ちょっと声をかけただけで、反応がないものだからそれきり話しかけるのをやめてしまうと、昇平は話しかけられたことに永久に気がつかないのだ。

それでも、声はまだいい。その気になれば、同じ内容を何度でも繰り返し話しかけることができるから。
生活の中で起こってくる物音は、そうはいかない。
「音が起こるよ、注意して聞いていて!」とあらかじめ注意を促しておくことも難しい。
だけど、耳から入る物音で状況を判断する、という場面は、実生活の中ではとても多い。
物音が理解できない、ということは、想像以上に状況判断に関わってくる、重要な問題なのかも知れない。
周囲の物音に対して、関心を持たせたり、理解を促したりする方法が、何かないだろうか・・・と私は考え始めている。

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一方、意外なくらいできていたこともあった。
3枚の絵を時間の経過に沿って並べ直す、絵画順列。
例えば、手の絵→指輪を買っている絵→指輪を手にはめている絵、という具合。
それがどういう場面かことばで説明するのは、まだまだ不十分だったが、それでも、時間順に並べることは、ほぼ完璧にできていた。
去年の12月に受けたWISC-R発達検査では、絵画順列の数値が低かったのだが、半年の間にここが成長していたことになる。
最近、場面認知や時間の理解が良くなってきた、と感じていたのも間違いではなかったらしい。

しかし、この順列の問題も、昇平は早く終わりたくてしかたがない様子。やればできるのだが、「むずい〜」を連発している。
自信がないのだ。
すぐに正解を先生に聞きたがる。
この自信のなさをどうやって解決していくか。これは大きな課題だな。

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今日の指導を見ていて感じたのは、実体験の必要性。
音の聞き取りも、絵画順列も、ただ音や絵を聞かせたり見せたりし、正解を示していれば解決する問題ではないのだ。
実際の生活の場から、音や映像の情報を拾い上げ、それを整理していく訓練をしなくてはならない。
訓練、というと、特別なことのような気がするけれど、そうじゃない。実際に、そういう体験をさせることが大事なのだ。

例えば、花の種をまくと良い、とO先生が指導のあとで話してくれた。
花の種をまき、芽が出て、葉が伸びる、草丈が伸びる、やがてつぼみが付き、花が咲き、花びらが散って枯れていく。
その過程を昇平の目で確かめさせることが、ひいては、絵画順列などの理解を促すことになるのだ、と。
絵画順列は、すなわち、場面の時間の経過の理解。原因と結果の理解。
生活していく上で、とてもとても大切な能力。

その話を聞きながら、昇平が育てているおじぎ草を思いだしていた私だった。
自分で種をまき、水をやり・・・芽が出て葉が伸びて、大きく育っている、昇平のおじぎ草。
その過程を観察するうちに、昇平が植物の成長を理解し、種まきする絵本を喜んで読んだり、苦手だったトウモロコシを食べられるようになったことは、以前、この日記でも紹介したが(「種まきとトウモロコシ」)、まさしく、そういう体験がもっともっと必要だ、ということなのだろう。

ただ体験させればよい、ということではないけれど、本人の受けとめられる形で様々な実体験を積ませることが、一番効果がある道なのだろう。
とりあえず・・・今年の夏は、絶対にキャンプに連れていってやろう。
絵本で見てから憧れになっている「たき火」と「バーベキュー」も体験させてやろう。
川の中で素足で水遊びをしたり、石を拾って投げたり・・・。
きっと、楽しめることだろう。
それ以外にも、もっともっと、いろいろできることはあるだろう。
自分たちの生活を、もう一度新たな目で見回してみよう、と、そんなことを考えながら帰路についたのだった。

[01/06/14(木) 05:37]

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