昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

ことばの教室.4

◎11月7日の記録

 リタリン  1回目 8:30  2回目 12:30
 デパケン  1回目 8:30  2回目 19:00

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ことばの教室の指導日だった。
昇平はO先生と会話をしながらすごろくの絵を描いたり、それで一緒にすごろくをしたり、カルタ取りをしたり。
前回、昇平は自分がカルタを取れないと怒って、先生に「取るな!」と言っていたのだけれど、今回は最初から「取れなくても怒らない、泣かない」と約束してから始まったので、前回よりは落ちついて遊べていた様子。
とはいえ、すごろくの方では、自分が勝つために勝手にルールを作り変えていたようで、先生が先にゴールしていたのに、自分がいる方向に新しくゴールを作ってしまったらしい。
また、すごろくをする際に、四角い大きなサイコロを見つけてきたのだけれど、それが「5〜10」までの目の、特殊なサイコロだったので、自分が作ったすごろくと合わなくなり、しばらくごねていた。先生に別なサイコロを持ってくればいい、と言われても受け入れられず、結局、自分のすごろくのなかの数字の方を「先生に」消して直させてしまった。(「1がでたら進む」を「10がでたら進む」というように。)
たぶん、本人は「四角い形で数字が書いてあるサイコロ」を使いたかったので、この条件に合うのは「5〜10」までのサイコロしかなかったのだろう。でも、数字ではなく、●で数を表したサイコロも別にあったのだから、本当はそちらを使えば良かった話。このあたりの融通性に関しては、もう少しというところ。

ゲームをしていると、昇平は、ルールを無視したり相手の権利を侵害したり、という行動が多くなる。そのたびに、O先生は文句を付け、昇平と口論になると泣きまねをしてみせる。すると、昇平はあわてて「泣かない!」「やらない!」と言って、先生の頭をなでていた。面白かった。(^o^)

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指導の後、昇平は隣のプレイルームに遊びに行き、私は先生と話をした。
指導内容が遊びばかりになっていることを、O先生は気にして、それが昇平には必要なのだと説明なさる。
どうやら、この手の指導をしていると「全然指導しないで遊んでばかりいる」と文句を付ける親が多いらしいな、と察しがつく。(^_^;)
確かに昇平は会話能力が遅れているけれど、それはことばそのものを教えたり、会話文を教え込んだりして解決する問題ではないのだ。もっと基本的な、人とのコミュニケーションのとり方を覚えなくては、「自分たちの役に立つ会話」ができるようにはならない。
でも、コミュニケーション能力を伸ばすために、いきなり子ども同士で関わらせると、昇平がルール違反をしたとたんにケンカになって、遊び集団からはじかれてしまう。
そこで、大人が相手になって、「こういうときにこういう行動をすると受け入れてもらえないのだ」とか「こういう行動をすると受け入れてもらえるのだ」という、人との関わり方の模擬体験をさせる必要がある。
今、昇平がことばの教室で受けている指導は、まさにこれなのだ。
だから、遊びが中心になるし、一番コミュニケーション能力が問われる「ゲーム」というものを体験することが多くなる。
昇平には今これが一番必要なことだから、と私が言うと、O先生は、我が意をえたり、というように、ほっとなさっていた。(笑)

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子どもに寄り添って指導をしていきたい、とO先生は言われる。
教師のやり方に子どもを引っ張り込むのではなく、子どもの特性や子どものやることを重視しながら、それに合わせてこちらも指導を考えていくようにしたいのだ、と。
なるほど、それが最初の「すごろく作り」だったのか。すごろく作りは先生が指示したのではなく、昇平が自発的に作り始めていたもので、先生がそれに乗るようにして、一緒に遊んでいたのだ。
それは、昇平くんに限らず、すべての子どもに対する教育の基礎なのだと思います、と先生は語り続ける。
集団の平均値に合わせた全体的な指導ではなく、(もちろん、それだけで大丈夫な子どもたちもいるけれど)やっぱり、一人一人の子どもの能力や特性に合わせた教育をしていくことが大事なのだ、と。
「障害児教育は、すべての教育の基礎だと私は思います」と語るO先生の口調が熱っぽい。
いいなぁ、この先生。大好きだわ。(*^^*)

「本当はそれが一番大切なんです。いわゆるIEP(個別教育計画)ですね」と先生が言われる。今の日本の教育にはIEPが必要なのだ、とも。
確かにその通りだけれど、現状の教育現場では1人の教師に対する子どもの数が多すぎて、とてもその実現は不可能。「だから、一クラスは20人くらいがいいと思うんですよね」という先生のことばに「私も本当にそう思います!」と私も力を込めて賛同してしまった。(笑)

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帰り道、O先生のことばを思い出しながら、ふと気がついた。
保育園での昇平への対応は、まさしくこのIEPだったんだ、と。
園の先生方は、そんな理論的なことを考えながらやってきたわけではないのだろうと思う。理論を説明されたことはなかったから。
でも、実際に昇平が受けてきた対応は、「昇平くんはどうしてこういう行動をとるのだろう」「昇平くんはどういう子どもなんだろう」「なにに興味があるんだろう」ということを踏まえた上で「でも、昇平くんにはこういうことを覚えるのが大事なんだから、それを身につけていこうね」と指導されることだった。
これは「個々の特性に合わせて必要な指導プログラムを組む」というIEPの考え方と、まったく一致しているんじゃないだろうか。
だから、昇平は保育園の中でめざましい成長を遂げてきたのだ。
きっと、子どもに本当に必要なものを探し続けれると、自然と正しい指導法に到達して行くということなんだろう。

昇平はいい先生方に恵まれて幸せだな、と改めて思ったのだった。

[01/11/08(木) 05:48]

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