昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

ADHDの重さ

昇平はADHD。
注意力が不足していて、集中が続かなくて、気が散りやすくて、落ちつきがない。
おまけに、ことばも社会性の発達も遅れているから、彼の行動は実際の年齢より2〜3才くらい幼く見える。
その一方で、彼はひらがな・カタカナをすべて読み、2年生程度までの漢字ならかなりのものが読め、10までの数の足し算や引き算は軽くこなし、パソコンを駆使して自由にお絵かきを楽しんだりゲームをしたりすることができる。
ある部分ではものすごく遅れていて、ある部分ではものすごく進んでいて、両方を足し合わせると、数値的には平均・・・というのが、彼の実体。

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そんな彼は、20人に1人はいると言われるADHDっ子たちのなかでも、かなり症状の重い方に入るのだと思う。
ADHDを持っていても、薬物治療を受ける必要がなく、生活や指導の工夫で症状が改善されていく子たちもたくさんいるのだけれど、昇平の場合は薬の助けなしでは、簡単なしつけさえすることができなかった。

彼が2,3才の頃は多動のピークで、まわりがまったく見えていない上に、ことばもあまり理解できていなかったので、本当にすさまじい状態だった。
スーパーへ買い物に連れていくと、チャイルドシートのついたカートになどおとなしく乗っていない。降ろせ降ろせと大騒ぎ。
下に降ろされるや、たーーーっと走っていって、たちまちどこかに見えなくなってしまう。探し回ると、ストッキング売場で繰り返し流す販促ビデオに見入っていたり、ベーカリーコーナーに入り込んで、陳列してあるドーナッツを勝手に手づかみで食べていたり・・・。
人のいるところに昇平を連れていくのは、本当に気苦労が多くて、一時期は買い物に行くのも控えて、食材の宅配を頼んでいたこともあった。

家の中は、いつも昇平が散らかしたおもちゃで、台風が過ぎ去った後のよう。
お兄ちゃんの友だちが遊びに来て「どうしてこの家はいつもこんなに散らかってるの?」と不思議そうに尋ねたこともあった。

ことばを話さない。尋ねても返事をしない。うなずくことさえしない。
自分の欲しいものは、人に頼らず、自分で勝手にとってしまう。自分でとれないときには、大人の手をつかんで、その手にものを取らせようとする。
これが、クレーン現象と呼ばれる、自閉症などの発達障害児に特有の行動だと知ったのは、かなり後のことだった。
実際、人にあまり関心を払わなかったし、自分の興味のあるものにばかり集中していたので、自閉症ではないか、と言われたことも、何度もあったのだ。

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大半のADHDっ子の場合、ここまで症状は重くない。
たいていは普通の子どもたちとそう変わりはなくて、言葉が遅れることもあるけれど、逆にものすごくよくしゃべることもあるし(お口も多動らしい。笑)、そこそこの社会性や生活習慣は身についていることが多い。
ただ、それが常にうまくできるわけではなく、社会性の方も年齢より未熟なことが多いので、叱られたり、トラブルが起こったりしてしまうのだ。

それがADHDのせいだと分かっていないと、原因は子ども自身のせいにされてしまう。
「なんて怠け者の子どもだろう!」「わがままで、意地悪で!」「だらしないったら、ありゃしない!」
「おまえ、脳味噌ちゃんとあるのか?」なんて先生から言われたことのある子さえいる。
子どもが、一念発起して生活を改めようとしても、やっぱりうまくいかない。・・・それはそうだ。だって、そういう障害を抱えているのだから。

本当は、障害の特性に合わせた生活ややり方を工夫しなくちゃならないのだけれど、その子は自分をまさかADHDだとは思わないから、自分は本当にダメな人間なんだと思いこんでしまう。
そうして、自分自身へのマイナスイメージが積み重なっていった結果、やがて二次障害が起こってきてしまう・・・。

これが、軽いADHDを持つ子供たちに起こりやすいパターン。
ADHDそのものの症状は軽くても、そこから引き起こされてくる二次障害は、決して軽くはない。
むしろ、「普通」と思われて、周囲の大人たちから叱咤激励され続けたせいで、二次障害が重くなることさえある。

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昇平は今、とても素直に育っている。
相変わらずチョロ助だし、うっかりも激しいけれど、愛嬌があって、まわりの人からもかわいがられている。
でも、それは、彼のADHDが重かったために、親も周囲も「普通の子どもではない」と気づいて、それなりの対応をしてきたからじゃないかと思う。

ADHDの引き起こす問題の大きさと、症状そのものの重さとは、必ずしも比例しない。症状が軽くても重くても、ADHDを持つ子供たちには、理解と手助けが必要なのだ。
彼らが、より深刻な二次障害を引き起こしてしまわないために・・・。

[02/04/22(月) 15:35]

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