昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

スカートをのぞく 後日談

昇平が「クレヨンしんちゃん」の映画を真似て、クラスメートのHちゃんのスカートをのぞき、Hちゃんを大泣きさせてしまった一件から1週間。
昇平の迎えに行ったら、Hちゃんのお母さんが教室に来ていたので、そばにHちゃんがいないのを確かめてからお母さんに謝りに行った。
Hちゃんに聞かせると、そのときのことを思い出して、また不安になるかもしれないと思ったので。
「先日は本当にすみませんでした。Hちゃん、あの後大丈夫でしたか?」
「すみません。おかげさまでだいぶ落ちつきました」とHちゃんのお母さん。

スカートをのぞかれたくらいで、と一般的には思われるかもしれないけれど、Hちゃんは本当に気持ちの繊細な感じやすい女の子。クラスで一番幼い、ある意味で絶対的に安心できる存在だった昇平に、思いがけないことをされて、かなりのショックを受けてしまったのは間違いないことだった。
「あれくらいのことでうちのHも大げさなんです」とお母さんはおっしゃってくれたけれど、
「いいえ。ものごとの受け取り方、感じ方には個人差があるのだから、決して大げさなことじゃないです」と答えると、それはやっぱり分かっていらっしゃるようだった。

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ところで、スカート事件のあった日の夜、昇平がこりもせず風呂場でしんちゃんの真似をして、母の顔の前でおならをするという「おふざけ」をやらかした。
Hちゃんとの一件は、連絡帳で知らされてはいたけれど、私は直接見ていたわけじゃないので、昇平を叱ることはしないで、学校に対応を任せることしていた。
そこへ、「風呂場でおなら」。
これはチャンス、と昇平をみっちり注意した。
しんちゃんはテレビの中のアニメであること。しんちゃんがやっていても、実際に真似していけないことはたくさんあること。人の顔の前でおならをすること、お尻を出してブリブリ〜とやること、おねいさんのスカートをのぞいておパンツを見ること・・・全部、まねしては絶対にダメなこと!

すると、「おねいさんのスカートをのぞいてはいけない」という部分で昇平が反応した。「え・・・なに、なに?」ちょっと心配そうな顔。
絶対に、昼の一件を思い出していたのだと思う。
そのときは、そのまま知らん顔で話を流して終わったけれども。

すると、その翌日、Hちゃんがいつもの時間に登校してこなかった。
心配になった昇平に、上級生が「昨日スカートをのぞいたから来ないんだぞ」と告げたものだから、昇平は授業もそっちのけでHちゃんに電話をした。
Hちゃんの姿を見た昇平がオーバーに喜んだものだから、Hちゃんも大笑いになったのだという。

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「次の日、Hが学校に行きたがらないでいるところに(昇平君と森村先生から)電話がかかってきて、思い切って登校したら、昇平君が一番に喜んでくれたんだそうです。帰ってきてから『思い切って学校に行ってよかったー』って言っていたんですよ」とHちゃんのお母さんが嬉しい話を聞かせてくださった。
授業中に職員室から電話をかけさせてもらったことの是非はともかくとして、少なくともHちゃんと昇平の関係においては、昇平が電話をかけたこと、電話口でも謝って「学校に来てね」と誘ったことは大正解だったらしい。

悪気はなくても、そんなつもりはなくても、他人を傷つけてしまうことはある。
大事なのは、そうやって人を傷つけてしまったときにはどうしたらいいか、その方法を考えて実行できるようになること。
Hちゃんとの一件を通して、昇平は、算数よりも国語よりも大事なことをひとつ勉強することができたのだと思う。
そして、Hちゃんのお母さんも言ってくださった。
「Hも昇平君も、お互いにいろんなことを経験しながら成長して行くんだと思います。これからもどうかよろしくお願いしますね」
・・・涙が出るくらい、嬉しかった。

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おだやかに時間が過ぎていくゆめがおか学級。
人との関わりがなかなかうまくできない彼らも、ここでなら、安心して人との関わり方を学んでいくことができる。
そしてやがて、学んだことを教室の外に持ち出して、生活全体に拡大していくことができるのだろう。

焦る必要はない。
一歩一歩ゆっくりと、自分のペースで大人になっていければ、それでいい。
そんな一番基本的なことが、当たり前に守られている場所の存在が、とても、ありがたいと思う。


追記:
Hちゃんが遅れてきた翌日、昇平は家でしんちゃんの映画のビデオをかけました。
問題の「スカートをのぞいて『おパンツが見えた!』という場面」にくると、そこだけ何度も巻き戻して眺め、なにやら考え込むような顔をしていると思ったら、3度目の途中で席を立ち、ビデオのある部屋を出ていってしまいました。
その後、あれほどお気に入りだった「大人帝国の逆襲」のビデオはほとんど見なくなりました。
きっと、自分なりに、なにか結論を出したのでしょう。

[02/07/20(土) 00:40]

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