昇平と犬
最近、毎日のように犬の話をする昇平。
本当に犬に興味を持つようになった。
そもそものきっかけは、児童館にあった一冊の絵本。
タイトルは『ボスがきた』(偕成社/たけうちまさき絵・まじまかつみ字・ふくいたつう編 )。
「知恵遅れ施設の園児が生んだ本。話のできない雅輝君が、犬と少年の交流を明るい強烈な色彩で描き、読者の心を打ちます。」と、私がよく利用するネット書店のコメントにはある。
以前から昇平が犬の絵を描くようになったことは時々報告してきたが、実は、この絵本に強い影響を受けて、児童館や家で絵本の複写(といっても、思い出し描き。ところどころにオリジナルやアレンジも入り込んでいる。)をしたものだったのだ。
児童館の先生に頼んで絵本を見せてもらったところ、昇平の描く絵が非常にそっくりだったので、びっくりしてしまった。この本のどこが昇平の心の弦に触れたのかわからないけれど、たぶん、鮮やかではっきりした絵と、非常にシンプルでわかりやすい文章が、彼にとても理解しやすかったからだろうと思っている。
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絵本では、施設にやってきた犬のボスが、初めてご飯を食べ、たぶん、園児たちといろいろ交流はあったのだろうけれど、やがて病気になって死んでしまう。ラストシーンでは、色とりどりの犬たちが羽根をはやして空を飛んでいる。
それを読んでいるせいで、昇平は「犬は死ぬもの」というイメージを強く持ちすぎるようになった。「犬を飼いたいなぁ」とつぶやく一方で「犬は死んじゃうの? ワンと鳴かなくなるの? 死んだらどうなるの?」と、ちょっと極端なくらい「死」を意識していた。
「愛犬との別れ」は交流の最後に出会わなくてはならない儀式であって、本当の交流は、犬とふれあったり遊んだり散歩したり走ったり、することのはず。
これは、なんとしても本物の犬と触れさせてあげなくては・・・と、母は強く思うようになった。
仔犬が卵から生まれる、という思い込みを修正するチャンスも狙っていた。
かわいい仔犬の絵や写真は、いろいろなところで目にするけれど、本当に仔犬が生まれてくる瞬間は、犬を飼ってでもいなければ見る機会がない。
ことばだけで説明して納得させたくはなかったので、なにか良いものはないかと、ずっと探し続けていた。
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本当は、家で犬を飼えれば問題はすべて解決なのだが、残念ながら、おじーちゃん(義父)が犬嫌い。なんでも、小さい頃によその家の飼い犬に噛まれた体験があるのだそうだ。
というわけで、昇平が触ろうとしても怒らないような、穏やかな犬を飼っている家を、ご近所に探していた。
・・・あった!
一昨年、子供会の役員をいっしょにやったSさんのお宅。
そこには小学3年生と4年生の男の子たちがいて、私のこともよく知っている。
ということで、今朝の10時過ぎ、散歩がてらSさんの家に行った。
庭につながれていたのは、毛足の長い雄のシェルティー(ミニコリー)。二人の兄弟が大歓迎してくれた。お母さんのSさんも出てきて、客に興奮している犬をなだめて触らせてくれた。
昇平はもう大興奮。「わぁ〜〜、犬だ犬だ〜!!! お手してよ、お手!!! ○○なの? △△なの? ×××・・・!!!」と大騒ぎするものだから、犬のほうも興奮してしまって、なかなか落ちつかない。
昇平にじゃれついてくるので、昇平が逃げ回る。
なんとか犬を落ちつかせて「お手してごらん」と言うと、昇平は遠くから手を差し出した。「それじゃ手が届かないよ」と弟くんが笑った。
とはいえ、こういう昇平の反応は、実は予想済み。これも、犬とつきあえるようになるための大事な1ステップだと思っている。
シェルティーくんとは、母がしっかり仲良くなったので(母は犬好き。笑)、また今度来たときには、もう少し落ちついたつきあい方ができるようになるだろう。
昇平自身は、犬の毛を触ったか触らないかの程度だったけれど、それでも生きている犬や本物の犬小屋を見ることができて、とても満足したようだった。
Sさんや二人の兄弟も「またおいでよ」と言ってくれた。
本当に、また犬と遊ばせてもらいに行こうと思っている。
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一方、犬が卵で生まれると思っていた件には、常連さんから良い絵本を教えてもらった。
『こいぬがうまれるよ』(福音館/ジョアンナ・コール文 ジェローム・ウェクスラー写真)。
題名通り、仔犬が生まれてくるその瞬間が、しっかりと写真でおさめられている。
もちろん、卵なんかでは生まれてきていない(笑)。仔犬は袋(羊膜)に入った状態で生まれてくる。
熱心にその絵本を眺めていた昇平、絵本を真似て、箱に紙を破いて敷き詰めた巣を作って、そこにぬいぐるみの犬を入れたり、「子供が生まれるんだ」と言いながら、小さな猫のぬいぐるみ(犬のがなかったので)をビニールに入れたり。彼なりに、再現遊びをして楽しんでいる。
追記:
Sくんの家に行ったとき、弟くんが昇平を指して「この子、いくつなの?」と聞いてきた。「小学1年生だよ」と教えると、「え?」と不思議そうな顔。そりゃそうだ。地元にいるのに、同じ小学校に通ってきていないんだから。
そこで、昇平はことばなどが遅れていること、普通の1年生のクラスでは勉強がわからなくなるので、隣の小学校のゆめがおか学級に行っていることを教えた。
「ふ〜ん」とつぶやく弟くん。
犬は、昇平が地域の一員になっていく手伝いもしてくれるかもしれないな。
[02/07/24(水) 16:18]