虫捕り

「お母さん、お母さん、観察に行こう」と昇平が唐突に言い出したのは、水曜日の夜。
「観察？　なんの？」と聞くと、「虫を捕りに行こう」と言いながら、これこれ、と学習雑誌の付録の自然図鑑を持ってきた。
ははぁ、なるほどね。図鑑の中に、自然観察のスタイルや準備物がイラストで載っている。

準備物の中には、クレヨンや鉛筆、スケッチブックなどがあった。
「スケッチブックがないから、ぼく、これにするね」と昇平が棚から取り出したのは自由帳。母にリュックサックを出してもらって、図鑑のイラストを見ながら、筆記用具やノート、懐中電灯、小さなルーペなどを自分で入れていった。「ぼく、虫の絵をいっぱい描くよ」とはりきっている。

夏休みになってから学習ビデオを勉強の時間に組み込んできたのだが、その中に「虫の世界」という単元があったので、いつの間にか虫や自然に興味を持ち始めていたらしい。
計算プリントやひらがなのお稽古だけではつまらないだろうから、とお楽しみ程度に加えたビデオだったのだけれど、思いがけないくらい効果が出ているようだ。

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さて、一夜明けて翌日。
勉強と掃除をすませ、１１時過ぎには外に出ることができた。
その日、外はものすごい暑さ。最高気温が３９℃近くまで上がったらしい。
昇平はしっかり帽子をかぶり、Ｔシャツこそ半袖だったが、ズボンは図鑑の通り長ズボンをはいていた。背中にはリュックサック、手に虫捕り網。う〜ん、恰好だけは一人前だ。（笑）

ふっと、自分が小学生だった頃のことを思い出した。
虫捕り網と虫かごを持って、よく虫捕りに出かけたものだった。
田圃のあぜ道、田舎道、草だらけの空き地。たくさんの虫を見つけて網を振り回していた。
私は不器用だったから、チョウチョ一匹なかなか捕まえられなくて、虫取りの上手な上級生の男の子を、尊敬のまなざしで眺めたりしたっけ。
昇平のスタイルが、遠い昔のそんな男の子たちの姿とだぶって見えて、なんだかすごく懐かしかった。
そういえば、最近は虫捕りする子どもの姿ってあまり見かけないよね・・・・・・。

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我が家は道路に面しているが、すぐ近くには果樹園や畑が広がっている。ほんの２，３分も歩けば、水田もある。
虫捕りするには暑すぎる天気だけれど、たぶん、どこかに何かはいるだろう。

休耕田のなかの小さなため池。
いたいた！　アメンボだ！！
そういえば、アメンボは「動物の森＋」のゲームにも出てきていたから、昇平にはなじみがある。
昇平は早速リュックサックを下ろし、中からノートとクレヨンを出して、アメンボをスケッチしていた。
色が・・・赤？
「よく見てごらん」と指さすと、「黒だ。白い線もある」と上からクレヨンで重ね塗りしていた。
足の長いところは、いかにもアメンボらしいかな。ただ、本当は４本の足だけが特に長いはずなのに、そこまでの観察はできていない。

次に捕まえたのはヤマトシジミチョウ。
開いた羽根の色は紫なのだけれど、本人は青で描いていた。でも、白いぽつぽつ模様はちゃんと描いていたようだから、それなりに観察はできていたかな。

次はショウリョウバッタ。ビデオにも登場した虫だったので、非常にタイムリー。しかし、絵に描くのは難しかったようで、けっこう苦労していた。
続いて、モンシロチョウも見つけた。何度か逃げられながらも、何とか捕まえてビニール袋に入れ、これもスケッチ。
スケッチした後の虫は、また逃がしてやった。

田圃の上をシオカラトンボが飛んでいたので、それも捕まえたいところだったが、昼食の時間だったし、暑くて咽も乾いてきたので、そこで観察は終わりにして家に戻った。

それにしても、私は鈍くて虫なんて捕まえられない子どもだったのだが、年を食って大人になったら、なんとかチョウやバッタくらいは捕まえられるようになった。
反射神経が発達したのかな？（笑）

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この夏、昇平は次から次に遊びのネタを見つけてくる。
お兄ちゃんの時に買った『工作図鑑』という本を引っぱり出してきては、「ピンボールを作る」と言って、空き箱と押しピンを使って、パチンコ台もどきのようなものを作ったり、紙粘土を買ってきて仔犬を作ったり。仔犬は、ぬいぐるみの犬のボスの子どもにしたいらしい。
一昨日は『怪盗ゾロリ』シリーズの本を読みながら、「お札を作るんだ」と言って、いろいろな種類のお札を作っていた。１０万円札とか、１００万円札とか。
部屋はむちゃくちゃ散らかるけれど、彼の好奇心と発想の豊かさはすごいな、と素直に感心して眺めてしまったりもする。
このあたりは、いかにもＡＤＨＤっ子らしいと思う。


[02/08/02(金) 20:48]