昇平てくてく日記
幼児〜小学校低学年編
帽子
久しぶりの更新です。ただ今、WEB同人誌の編集作業が、終盤にさしかかってきているもので・・・。(笑)
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さて、昇平の小学校には制服がある。他所から来た方は皆驚くのだが、男児は皆、中学生のような詰め襟の学生服。それはそれで、なかなか格好良かったりする。
そこに学生帽をかぶるのだが、一年生は黄色い安全帽を使用する。男の子のは、ひさしの付いた野球帽型。
ところが、昇平の帽子のかぶり方が、いやに目深(まぶか)なのだ。
ひさしを思い切り下に引き下ろし、足下だけを見るような形で歩いている。
まあ、学校へは母が車で送っていて、昇平自身が歩く距離は少ないので、それでも何とかなるのだが、見ているとちょっと危なく感じられる。
そこで、時々、ひさしを上げて帽子をまっすぐにしてやるのだが、昇平はすぐにまた帽子を深くかぶり直してしまう。
明らかに、自分の意図でそうしているのだ。
「どうしてこんなふうにかぶるの?」と本人に聞いてみた。
ことばは不完全だったが、「落ちつくから」というようなことを答えてきた。
ああ、やっぱりそうか、と思った。
自身が高機能自閉症とADHDを持ちながら、主に障害関係の書物の翻訳家として活躍している、ニキ・リンコさん。うちの掲示板でもおなじみの方だけれど。
リンコさんが、以前、帽子について同じようなことをおっしゃっていたのだ。
彼女は、仕事など集中したい場面では、家の中でも帽子をかぶり、視界に入ってくる情報を制限しているのだという。
昇平の様子を見ていると、彼の帽子も、同じ役割をしているように感じられたのだ。
ひさしを思い切り下げ、足下だけは見えるようにして、周囲の雑踏や混雑、さまざまな目新しい情報をさえぎって、自分が混乱しないようにしているんじゃないかな・・・と。
もちろん、そうするとあたりがよく見えなくなってしまうから、昇降口の雑踏などでは、前の人に気づかなくてぶつかってしまうこともある。
それでも、大勢の子どもたちの喧噪と混雑に巻き込まれて、わけが分からなくなってくるよりは、ずっと安心できるのかもしれない。
そういえば、外出して人混みの中に行くと、昇平はすぐに「おんぶ」をしたがるが、そのときにも、大人の背中に顔を半分隠して、視界を制限しながらあたりを見ている。
仙台の八木山動物園に行ったときもそうだった。
終始、父の背中におんぶしていたのに、生け垣にはさまれた細い遊歩道に入って、周囲の人の数がぐんと減ったとたん、背中から下りて、自分の足で生き生きと歩き出したっけ。
あれも、入ってくる視覚的情報を、「おんぶ」という手段で自分から制限していたのに違いない。
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ADHDに多い特徴のひとつとして、視覚過敏がある。
目についたものに即反応して、そちらに気を取られてしまうという特性だ。
その特性が、衝動性や多動性といったADHD特有の行動を引き起こしてくる。
昇平も、そのご多分に漏れず視覚過敏。目に映るものが気になって、すぐに気が散る、すぐに夢中になりすぎる・・・結果として落ちつかなくなる。
学校や外出先といった場所は、視覚刺激の多いところだから、その中で少しでも快適に過ごすためには、見えるものを制限すればいい、と昇平は自分で気がついたのだろう。
今朝、教室に送っていったとき、担任の森村先生とその話をしたら、協力学級である1−3のクラスで体育を行うときにも、やっぱり昇平は帽子を忘れずにかぶっていくのだそうだ。
視覚過敏+混乱、というADHDの特徴は、生まれつき彼に備わっているものだから、そのことを変えることはできない。
でも、彼は彼なりに考えて、そういう自分の特性と折り合って、快適に過ごすための方法を発見しているのだ。
今日も、昇平は帽子を目深にかぶって登校していく。
私は、半分浮いていた帽子をしっかり頭にはめてやっただけで、ひさしはそのままにして置いた。
障害特性の理解と対応、というのは、こういうことなのかもしれないな、と思う。
[02/11/07(木) 10:12]