昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

説明

先日、学校の帰りに昇平とスーパーマーケットに寄った。
暑い日で、豆腐売り場では発泡スチロール箱に豆腐と氷を入れて冷やしながら売っていた。
氷が大好きな昇平、さっそく氷を手にとって遊び始める。さわるだけならまだしも、それを持ってきてしまう。
氷が手の中で溶けると、また取りに戻ろうとするので、声をかけた。
「もうやめさない」
ところが昇平はいうことを聞かない。にやにやしながら、また氷のところへ行く。
何度でも氷を取りに行きそうな気配だった。

そこで、昇平をそばに呼んで尋ねた。
「氷は何のために入れてあると思う?」
責める口調ではなく、あくまで質問の調子で。
「冷やすため」
と昇平が答える。
「そうだね。それで、何を冷やしてるの?」
「お豆腐」
「氷がなくなって、お豆腐を冷やせなくなったら、どうなるかな?」
「うーん・・・・・・わかんない」
やはり、ここが想像できなかったのか。

「お豆腐はね、冷たくしておかないとすぐに悪くなっちゃう食べ物なんだよ。今日は暑いでしょう? 冷やしておかないと、お豆腐はみんな腐って食べられなくなっちゃうんだよ」
と説明してから、昇平に聞いてみた。
「昇平くんがあそこから氷をたくさん取ってきてしまうのは良いかな? 悪いかな?」
「ダメ」
「どうしてダメ?」
「豆腐、くさっちゃう」
「そうだね。氷を取っていったら、早く氷がなくなっちゃうから豆腐が腐っちゃうかもしれないもんね。氷はいじらないでおこうね」
説明を聞いて納得した昇平、あとはもう絶対に豆腐の氷には手を出さなかった。

   ☆★☆★☆☆★☆

この理路整然とした説明は、実は割と最近になってから意識的に始めたもの。
それまでは、ごく普通のやりかたで昇平にルールを教えようとしてきた。
たとえばただ「お豆腐の氷を取ってきてはダメなのよ」「お店の人に叱られるよ」「この氷はお店のものなの。昇平くんのものではないですよ」・・・
ところが、そういう説明の仕方ではなかなか昇平が行動をやめないので、診察の際、なんども主治医に相談してきた。
すると、主治医はきまってこう言った。
「すぐには分からないでしょう。どうしてダメなのか、きちんと説明してあげるといいですよ」
説明はちゃんとしてるんだけどなー・・・。
毎回、不満に感じていた。

ところが、昇平をいろいろ観察するうちに、彼が意外と基本的なことを理解していないことが分かってきた。
きっかけはなんだっただろう・・・今となっては忘れたけれど、森村先生が学級で子どもたちにSSTをすると、意外なくらいみんな正解(正しい行動)を知らない、と連絡帳に書いてきたことだっただろうか。それとも、昇平には認知障害がある、とはっきり分かったからだろうか。
とにかく、あるときふと、気がついた。
「もしかしたら、今までの説明の仕方が悪かったんだろうか? 主治医は私に、もっと昇平に分かる形で説明しなさい、と言っていたんだろうか?」と。

ちょうど昇平自身も成長して、筋道立てた理解ができるようになってきていた。
「○○したら△△になるの?」とか「××だったからこうなったの?」なんてセリフが、時々昇平の口から出てくる。
この感じだと、因果関係で説明すると分かりやすいのかもしれない、と思いついて始めたのが、前述のような説明の仕方だった。
分かりやすいように・・・とにかく、本人に分かりやすいように。それを意識して説明すると、昇平も意外なくらい素直に納得してくれた。
今までなかなか言うことを聞かなかったのは、反抗していたからじゃなくて、単純に「どうしてそれをやってはいけないか」とか「どうしてそれをやらなくちゃいけないか」という基本的な部分が理解できなかったからなんだなぁ、と改めて思った。
言うことを「聞かなかった」んじゃなくて「聞けなかった」んだね。

   ☆★☆★☆☆★☆

とはいえ、なぜ禁止されるのかを分かっていても、感情が言うことを聞けないこともある。
いくら理路整然と説得されても、やりたくないことはやりたくない! って時だってある。
それはそれ。誰にだって、そういうときはある。
そういうときには、子どもと話し合いながら、向こうが折れたり、こちらが折れたり、共に妥協して折り合いをつけたり・・・普通の子育てと同じようにやっている。
子育ての仕方に唯一の正解っていうものは存在しないんだなぁ、というのも、最近よく感じていること。
だからこそ、子育てはおもしろいんだけど。(笑)

[03/06/03(火) 14:02]

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