昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

ゲームキューブ劇場

日曜日の午前中、私が掃除にとりかかっていると、昇平が呼びに来た。
「おかあさん、あのね、あのね、ゲームキューブ劇場なんだよ」
「はい?」
「ゲームキューブ劇場」
「なにそれ?」
「えっとねー、キューブ君がねー、劇場するのー」
「・・・・・・で、お母さんにどうしてほしいわけ?」
「お母さん、一緒に来て、見て」

なんのことやら分からなかったけれど、昇平について二階に上がってみた。
部屋には配線から外したゲーム機が集められていた。キューブ、64,スーパーファミコン、そして、アドバンス・・・。
「キューブ君とねー、64君とねー、スーパーファミコン君とねー、アドバンス君なの。ぼくね、これで劇場するよ」
ああ、わかった。ゲーム機を人格化して、これから劇を演じてみせる、っていうことね。

昇平、4台のゲーム機をテレビの前に並べて、テレビのスイッチをつけた。
「チャイコフスキーと○○夫人の××な関係」とかいうテロップが画面に現れる。
アドバンス君がそれを読んだ。
「チャイ、コフ、スキーと○○未人・・・ちがった、○○夫人の、××な『かんねい』」
すると、キューブ君が優しく訂正する。
「違うよ、アドバンス君。チャイコフスキーと○○夫人の××な『かんけい』だよ」
なるほど、小さなアドバンス君が一番幼くて字がよく読めないわけね。

その後、キューブ君とスーパーファミコン君が将棋盤と駒を持ち出して、将棋を始めた。
駒を盤上に並べて、「さあ、始めよう」とスーファミ君が言うと、キューブ君が「ちょっと待って。今、コーヒーいれちゃうから」と母の小さなデミタスカップを持って行って、ポットからお湯を注いでコーヒーをいれる真似。
う〜ん、これって完璧に普段の母や父の行動の再現だわね。芸が細かいこと!
勝負が始まると、キューブ君には64君が、スーファミ君にはアドバンス君が応援についた。
ちゃんと交互に打っていって、相手の駒を取っていく。
やがて、大量に駒を取られてしまったスーファミ-アドバンス組が降参した。
「僕たちの勝ちー」とキューブ君と64君が喜べば、スーファミ君とアドバンス君は「あーあ、負けちゃった」と言う。

そこまで演劇鑑賞(?)して、私はまた掃除に戻った。
自分一人になっても、一人四役でセリフを言い分けながら遊んでいるのが二階から聞こえていた。

掃除を終えて部屋に戻ってくると、昇平が言った。
「ゲームキューブ劇場、終わったよ。面白かったねぇ」
「うん、すごく面白かったよ」
「どうして?」と意外そうな顔をする昇平。おや、そのあたり、予想がつくようになってきたのね。(笑)
「見ていて、すごく面白かったよ」と答えると、昇平がにっこりした。
「ぼくねー、全部をぼく一人でやったんだよ」
「うん、すごかったよね」
と言ってやると、とても嬉しそうな顔になった。

   ☆★☆★☆☆★☆

何故、こんな他愛もない人形ごっこ(の一種)を報告しているかというと、昇平がこんなふうに一人何役もやって見せてくれたのが、初めてのことだったから。
今までの彼の遊びは、あくまでも自分の視点中心。カービィ人形や犬のぬいぐるみを動かしてごっこ遊びをすることはあったが、それは自分自身の投影としてのキャラクターだった。
でも、今回は彼自身も言っていたとおり、一人で四役をやり分けていた。
視点の切り替えがうまくなってきた、ということなのだろう。

そういえば、心の理論で有名な「サリーとアンの課題」も、ずっと間違い続けていたのだが、3週間くらい前にこんなやり方で試してみたらクリアした。
「チョロQ君がミニトマトを食べようと思いました。でも、お腹がいっぱいだったので後で食べようと思って、ここに隠しました。(向かって左にある、伏せた器)チョロQ君が遊びに行ったら、いたずらカラスがやってきて、トマトをこっち(向かって右にある、伏せた器)に移しました。その後、チョロQ君が遊びから帰ってきました。『さあ、ミニトマトを食べよう』。さて、チョロQくんはどっちの器の中を見るでしょうか?」
ちなみに、実際の課題ではチョロQがサリー、いたずらカラスがアン、ミニトマトがビー玉になっている。

これまで昇平はこの課題を何度も間違い続けてきたけれど、そのたびに、私はあえて正答を教えないできた。
知識によってではなく、自然にこれが判断できるようになるのがいつなのか知りたかったから。
今回、昇平は、カラスがトマトを隠した器を選びかけ、『あれ、ちょっと待てよ』という感じで少し考え込んでから、最初にトマトを隠した器の方を答えた。
あのときにも、視点の切り替えができるようになってきたんだ、と思ったのだが、今回、キューブ君劇場を見て、それを確信したのだった。

最近、他人との関わり方に幅が出てきた昇平。
こんなところでもその変化を確認することができて、一人でうなづいている母だったりする。

[03/06/16(月) 05:50]

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