昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

地域との連携

昇平は地元の小学校ではなく、隣の学区の小学校に通っている。地元の小学校に障害児学級がないからだ。
障害児学級入学を決めたとき、一番気になったのが、この越境のことだった。
学校までは車で10分足らずの道のりなのだが、学校が違うと子ども同士の交流はほとんどなくなってしまう。
ずっと、この地域で生きていく子なのに、地域の人たちや子どもたちから存在を知られないまま育っていくようになるんだろうか。
将来、この地域で人と関わりながら生活するようになったとき、同じ学校に通っていなかったこと、同年代の子どもたちと知り合っていないことが、大きな損失になるんじゃないだろうか。
地域と一緒に生きることを理想にしていた私としては、そこが一番心配だった。
母が時々学校に付きそうとか、加配の先生を手配するとか、そういった対応で地元の普通学級に通わせるのが良いのじゃないか、とずっと考えていた。

ところが、入学前に地元小学校で行われた就学時健康診断で、昇平は先生の指示を聞き取れなくてうろうろし、知能検査のやり方が理解できなくなって、大声で母を呼びながら教室を抜け出してきた。
これは、普通学級ではとても無理だ、と即座に判断できた。
こちらが強く要求すれば地元校の普通学級に入学できるのは分かっていた。だけど、それではあまりにも本人の負担が大きすぎる。
負担が大きくなりすぎると、学校で無事に過ごしてくることだけがメインになってしまって、肝心の学校での勉強や学校で身につけてくるべき様々な体験がおろそかになる。
学校では、家では体験できないいろいろなことを経験し、学んできてほしかった。
それには本人が充分に理解でき、安心して生活できる環境を確保しなくては。
私たちはそれまでの方針をがらり転換して、隣の学校にある情緒障害児学級入学を決意したのだった。

そして、1年あまり。
昇平は毎日元気に学校に通っている。
学校は大好きで、勉強は面白くて、担任の先生や障級のお友だちが大好きで、もう楽しくてしかたないらしい。
昇平が「学校に行きたくない」と言うのを聞いたことは、(体調の悪い時を除いて)これまでただの一度もない。毎朝、張り切って登校していく。
安心して生活できる学校を選んだのは間違いではなかった、とつくづく感じている。

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でも、最近になって、もうひとつ、気がついたことがあった。
それは、昇平が実は地域から隔絶されていたのではなかった、ということ。

いや、実際のところ、地元との交流は非常に少ない。ほとんどないと言っても良い。
夏休みのラジオ体操のときには、地元の子供会にまぜてもらったけれど、それ以外には交流の機会はない。
近所に同年代の子どもがほとんどいないから、近所で遊ぶ、ということもできない。
でも、学校の中でのことを考えると。

昇平の通った保育園は今の小学校のすぐ近く。
昇平の学年の約1/5は、同じ保育園の出身者で占められている。
保育園は1学年1クラス。つまり、昇平の学年の子の1/5は、保育園時代から昇平とつきあっている子たちだった、ということ。
保育園時代の、指示も聞き取れず、集団行動にもなかなか参加できず、何をするにも手がかかってトラブルが多かった昇平の姿を、多くの子たちが知っていて、しかも、保育園の担任がどんなふうにそれに対応してきたかを、実際に見てきていたのだ。

学校で昇平とすれ違っても、声をかけてくれる子はごく限られていたけれど、でも、昇平を見て「ああ、昇平くんだ」という感じの反応をしてくれる子はとても多かった。
当たり前に、昇平の存在を受け止めてくれている。・・・そういう感じ。
中庭で同じ学年の子たちと遊んでいても、なにかトラブルが起こると(トラブルの相手は、他の保育園出身の子どもの場合がほとんどだった)、同じ保育園だったお世話好きの子たちが止めに入ったり、先生に知らせに行ったりしてくれていた。
週に2回利用している児童館でも、昇平を助けてくれているのは、同じ保育園出身の女の子たち。
ほんとうに、学校に関するいろいろな場面で、たくさんたくさん支えてもらっている。

地域との連携、交流というのは、地元とのつながりには限らないんだな、と感じている。
それに、昇平たちは中学生になると、町内すべての小学校から一つの中学校に進学することになる。(マンモス中学校なのだ)
私たちが希望している地元との連携を、その頃から始めるのも悪くはないかもしれない。
今は、小学校の中で1人でも多くの子に昇平という子どもを理解してもらうことと、1人でも多くのサポーターを増やすこと。
それがやがて中学校につながり、もっと広い世界につながっていくのだろう。
結局は、今あるこの環境を大事にして、少しずつでいいから働きかけを積み重ねていくことなんだろうな。
そんなことを考えている。

[03/06/21(土) 10:07]

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