昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

子どもたちで夕食を作る

夏休みの間、昇平は基本的に児童館を利用しないので、母が仕事の日には、おばーちゃんが夏休みを利用して昇平を見てくれている。
ところが、月曜日の夜、突然近所のおばあちゃんが亡くなって、お葬式の知らせが入ってきた。
火曜日には、おじーちゃんもおばーちゃんも午後から手伝いに行かなくてはいけない。ところが、その日母は仕事で、どんなに急いでも帰宅は6時頃になる。
午後は部活から帰ってきたお兄ちゃんがいるから、留守番の心配はないのだけれど、問題は夕食のしたく。子どもたちは6時にはもう、かなりお腹をすかせている。
さて、どうしよう〜・・・・・・

ひらめいた。
お兄ちゃんたちに夕食を作ってもらっていればいいんだ!
そうすれば早く食べられるし、彼らにとっても良い暇つぶしになるだろう。

我が家では小さい頃から折を見て台所の手伝いをさせてきたから、料理そのものにはあまり抵抗のない子たちに育った。
ただ、同居になってしまってからは、子どもたちの好きなようには台所仕事をさせることができなくて、「お手伝い」はできても、一食全部を「作る」ことは、なかなか体験させられなかったのだ。
ネックは、偏食の激しいおじーちゃん。子どもたちに作れるメニューは口に合わないから、せっかく子どもたちががんばって作ったものでも、全然食べてくれなくて、子どもたちががっかりするのだ。とはいえ、年代的な味覚の違いもあるから、これはどうしようもないのだけれど。
でも、そのおじーちゃんも、この日は葬式手伝いで夕食はいらない。
おお、チャンス!!

さっそくお兄ちゃんに話を持ちかけた。
「明日の夕食、全部お兄ちゃんに任せるから、自分で作ってみない?」
「え、ぼくに作れるかな。あんまりレパートリーないよ」
「お兄ちゃんに作れるものでいいんだよ」
「豚肉の生姜焼きなら、この間、おばーちゃんを手伝ったからできるけど、あんまり自信ないな」
「じゃ、今夜一度練習して、明日また作ってよ」
「二日連続生姜焼きになっちゃうよ」
「いいよ。お父さんもお母さんもそれで文句はないし、お肉大好きの昇平は、逆に喜ぶよ」
「あはは・・・」
というわけで、月曜日の夜、母の見ているところで予行練習してから、火曜日の夕方の本番に臨んだのだった。

   ☆★☆★☆☆★☆

この話を昇平にすると、昇平もたちまち乗り気になってしまった。
「ぼくもお料理する! お兄ちゃんのお手伝いをする!」
目がらんらんと輝いている。
お兄ちゃんも昇平と一緒のほうがいいようで「昇平も手伝えよー」なんて声をかける。
「うん!」
とますます張り切る昇平だった。

   ☆★☆★☆☆★☆

ここから先は、聞いた話になる。

夕方になると、昇平はまず4時頃「お料理まだ?」とお兄ちゃんに聞きに来て「5時からだよ」と言われ、4時半頃にまた「まだ?」と聞きに来て、さらに4時50分頃にまた来たのだという。楽しみで楽しみで、待ちきれなかったらしい。
お兄ちゃんが肉を生姜醤油に漬け込んでいる間、昇平はレタスをちぎり、キュウリを切り、自分が育てた黄色いミニトマトをのせて、サラダを作った。
途中、おばーちゃんが抜け出して様子を見に来ると、お兄ちゃんは昇平を上手に手伝わせながら、ちゃんと料理をしていたという。
お兄ちゃんは漬け込んだ肉をフライパンで焼き、焼き終わると、みそ汁に入れるジャガイモの皮をピーラーでむき始めた。
昇平は、サラダに一工夫したくなったようで、キュウリの上におろし生姜ものせて「生姜入りサラダ」なるものを作っていた。

というところへ、母が帰宅した。
昇平は台所から飛び出してきて、大声で報告。
「お母さん、ぼくね、お料理してたよ! 生姜入りサラダ作ったよ!」
「へぇ、すごいねー」
と言いながら台所に入ると、お兄ちゃんが「暑い〜!」と汗をかきながらジャガイモと格闘している最中だった。
皮むきと切るのだけは母が少し手伝ったが、その後の具と味付けはお兄ちゃんがしたし、昇平はキュウリのもみ漬けも作った。

そうやって子どもたちだけで作ってくれた夕食は、肉にはしっかり味がしみていてご飯によく合ったし、サラダも、キュウリはかなり分厚かったが、ポン酢しょうゆで食べるとさっぱりしていて、なかなかいけた。みそ汁も上手にできていた。
でも、なによりも夕食をおいしくしていたのは、「子供たちの成長」という隠し味だったんだろうと思う。

今回は最後を母が手伝ってしまったし、ご飯もあらかじめおばーちゃんがセットしていってくれたので、この次の機会には、ぜひ子どもたちだけで完全に一食分作ってもらいたいな、と考えている。

[03/08/07(木) 13:29]

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