昇平てくてく日記
幼児〜小学校低学年編
山の上の美術館 〜みお先生との再会〜
先の日曜日は気持ちの良い秋晴れになった。
旦那も久しぶりに仕事が休みになったので、かねてから計画していた福島市の美術館に行ってきた。
と言っても、目的は美術品鑑賞ではない。同じ敷地内に、犬や猫とふれあえる施設があるのだ。
ご存じの通り、昇平は犬が大好きなのだけれど、我が家では犬が飼えない。那須のどうぶつ王国まで犬と遊びに行ったこともあるけれど、あそこまで行くのには時間も費用もかかるので、そうそう行くわけにはいかない。
そうしたら、福島市内にも同じような施設があると聞かされて、いつか行ってみよう、ということになっていたのだ。
でも、今回の目的はもうひとつあった。
昇平が保育園時代の2年間、ずっとお世話になった「みお先生」が、この春保育園を退職して、この施設に再就職したという話を聞いていたからだ。
なんでも、みお先生は子どもの頃から動物が大好きで、動物と関わる仕事がしたいとずっと夢見ていたらしい。
実際に動物の中で働いているみお先生が見たかったし、久しぶりに昇平の成長した姿を見せたい気持ちもあった。
連絡は入れなかったけれど、会えるといいな、と心の中で願いながら、山の上にある美術館を訪ねていった。
☆★☆★☆☆★☆
美術館は、山の自然にすっぽりと包まれるようにたたずんでいた。
車を駐車場に停めて降りたとたん、ワンワン、キャンキャンと、にぎやかな犬の鳴き声。
昇平はもう張り切りモード。「ぼくも犬と遊ぶんだ!」と興奮しながら建物に走っていった。
美術館は個人の彫刻家の作品を集めたもので、私たちが住む梁川町にもゆかりの深い人物。町中にもこの人の作品があちこちに置かれているので、なんともなじみ深い感じがする。
そして、美術品を納めた建物の前に、犬小屋が置かれていて、いろいろな種類の犬が鎖でつながれていた。ダルメシアン、シベリアンハスキー、ゴールデンレトリバー・・・。小型犬は柵の中にいた。シェルティ、パピヨン・・・入り口脇の売店にはチワワがいた。
奥の方の建物は、そっくり一つ、猫のための施設になっていて、これまたいろいろな種類の猫がいた。ヒマラヤン、ロシアンブルー、アメリカンショートヘア、チンチラ・・・。こちらは檻の中にいて、時間ごとに屋内に散歩に放されるらしい。放されている猫は自由に抱いたりなでたりすることができる。
もともとは美術館だけの目的で建てられた施設だったようで、あちこち、若干ミスマッチな感じもあったけれど(猫館の中に立派なロビーとソファとか)、それはそれで面白かった。
昇平は犬に喜んで駆けよったものの、那須の時と同様、なかなかさわることができない。
犬に慣れていないので、好きだけれど怖くてさわれないのだ。
母と父は犬好きなので、犬をなでながら昇平を呼ぶのだけれど、へっぴり腰で近づいてきて、手を伸ばして、ちょこっと犬の毛にさわると、「なでた!」と言って、すぐに次の犬のところへ行こうとする。
あのね〜、それじゃなかなか犬とお友だちになれないでしょうが。(苦笑)
思うように犬と遊べなくて、だんだん昇平がごね始めた。
「これだけ? つまんないよー」
ちなみに、猫のほうは犬よりもっとさわれなかった。
母は猫も大好きだから、もっともっと猫と遊んでいたかったんだけどなぁ〜・・・ぶつぶつ。
☆★☆★☆☆★☆
すると、小型犬の柵の中で犬の世話をしていたスタッフの女性が顔を上げた。
私たちを見て、「あれっ?」という表情をする。
みお先生だった。
きゃ〜、嬉しい〜! お会いできた〜!!
みお先生も喜んで柵から出てきて挨拶をし、昇平に声をかけてくれた。
昇平も「こんにちはー!」ととてもはっきり挨拶ができた。
ところが、昇平、これ以上が続かない。先生に話しかけられて返事はするけれど、何をどう話していいのか、どう接すればいいのかわからないらしくて、落ち着かない様子。「あっち行こうよ!」と父の手を引いて、別の犬のほうへ行ってしまった。
その間も、母はみお先生と懐かしい話に花を咲かせてしまったが(仕事中だったのにごめんなさい)、やがて、好きな犬をレンタルできるらしいとわかったので、戻ってきた昇平に教えた。
昇平は、犬を散歩させられるとわかって大喜び。
「犬を借りるときには、みお先生にお願いするんだよ」
というと、もう迷うこともなくまっすぐみお先生のところへ行って、「こっちこっち!」とお目当ての犬のところへ先生の手をつかんで引っ張っていった。
小さくてかわいらしいパピヨンのオス。大きな耳と目が愛らしい。
「昇ちゃんはやっぱり小さくてかわいいのが好きなんだね」
とみお先生は笑って言うと、レンタル受付表に「昇ちゃん、書ける?」と昇平自身に名前を書かせてくれた。昇平が漢字で自分の名前を書いたのを見て、「上手だねー、昇ちゃん」と目を細める。
すると、昇平が小さな声で言った。
「昇ちゃんって呼ばないでよ」
そういえば、小学校に上がってまもなく、昇平は家族にもそう宣言したっけ。もう保育園の小さな子どもじゃないんだよ、と昇平なりに言いたかったのかもしれない。
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犬の散歩は30分。美術館裏の遊歩道を展望台まで上っていって、また下りてくる。
パピヨンは元気がよいので、思うように歩かせられなくて、最初は苦労していたけれど、そのうちお互いに慣れてきたようで、無事展望台までつくことができた。
犬は散歩しながらマーキング(おしっこ)をしていく。そのために立ち止まって待ってあげるように、と私が言うと、昇平、先に進みたい気持ちを我慢して、一生懸命犬を見ながら待っていた。
いつも誰かに配慮されている昇平だけれど、自分が誰かのことを思って行動する経験というのも貴重だな、とそれを見ながら感じた。
犬を連れてまた下の施設に下りると、昇平はみお先生に「ただいまー!」と元気に言って、犬を返した。
大役を果たしてほっとしたのと同時に、大満足! という顔をしていた。
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みお先生が退職してまもなく、一度だけうちに手紙をくれたことがあった。
そこには、あれほどお母さんから障害についていろいろ教えてもらったのに、保育士をやめてしまって申し訳ない、というようなニュアンスの文章が書かれていた。
でも、私は思う。
ああいう施設にはたくさんの子どもたちが犬や猫とふれあいにやってくるだろう。その中には、昇平と同じような子もいるかもしれない。
その子がみお先生に出会ったら、障害のことを何も知らない人に応対してもらうより、ずっと安心できるんじゃないだろうか。
障害のことを知っている人が、できるだけいろいろな場所に、ひとりでも多くいてくれた方がいい。昇平とふれあった人たちから少しずつ輪が広がっていくのなら、それで本望だな・・・と。
動物たちに囲まれて、みお先生はとても生き生きと仕事をしていた。
そして、犬を散歩に借りる子どもたちひとりひとりに、とても優しく案内をしてくれていた。
それを見たら、なんだかすごく嬉しい気持ちになった私だった。
生き物相手の仕事は決して楽ではないけれど、がんばってくださいね、みお先生。
山の上の美術館なので、冬の寒さも雪も、それはそれは厳しいらしいけれど・・・。
また昇平と遊びに行きますね。そのときにはまた、よろしくお願いします。
[03/10/22(水) 14:14]