昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

歯の治療をやりとげる

やった、やりました!
昇平がついに、自分から虫歯の治療を受けることができました!!

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ことの発端は一週間ほど前。
食事中に昇平が「歯が痛い」と言い出した。
見てみると、以前治療した下の奥歯から、いつのまにか詰め物が外れて、そこに食べ物が詰まるようになっている。
すぐに歯医者に予約の電話を入れたけれど、母の時間の都合もあって、結局行くのは1週間後の土曜日となってしまった。
毎晩仕上げ磨きをしながら「大きな口を開けて。食べかすが取れないから」と言うと、今までになく大きな口を開けてくれて、協力的な態度。
お、これはいけるかも? と思い、「歯医者さんでもそのくらい大きく開けようね。そうすると、すぐに治療が終わるからね」と言うと、素直にうなづく。これはこれは。母としては、今回の昇平にちょっと期待してしまった。

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さて、当日、待合室で昇平はゲームやブロック遊びをして順番を待っていた。
何でもなさそうな顔はしているけれど、態度が少し落ち着かない。実は緊張しているんだな〜、と思いながら見ていた。
1才くらいの女の子が呼ばれてお母さんと一緒に治療室に入っていった。
たちまち上がる泣き声。
泣き声が大の苦手な昇平は、耳をふさいで母の脇に座った。ものすごく緊張しているが、以前のように自分までパニックになることはなかった。
その子が待合室に戻ってくるのと入れ違いに、昇平が呼ばれた。
泣いている子の脇を通り抜けなくてはいけないので、昇平は足が進まない。それでも、母に抱えられるようにして、なんとか待合室に入った。・・・傍目には、歯の治療が恐くてなかなか入れないでいるように見えただろうなぁ。(苦笑)

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治療台に座った後も、待合室から泣き声が聞こえてくる。
どうやら、その子は眠くなってしまったらしい。だんだん泣き声に間が空くようになり・・・
やがて、会計も終わって外に出たのか、泣き声は全然聞こえなくなった。
昇平の表情が少し柔らかくなり、持ってきたゲームで遊びはじめた。

すると、そこへ衛生士さんが来て「昇平くんの番ですよ」と言った。。
昇平、すぐにゲームを母に渡して椅子に横になり、口を大きく開けた・・・けれど、すぐに「おしっこ行きたい!」
緊張して急に催してきたらしい。あわててトイレに走って、仕切りなおし。
椅子に横になって口を大きく開ける。
先生に虫歯の状態をチェックしてもらう間、じっとしていた。
レントゲン写真も、母と一緒でなくても撮ることができた。・・・1回目は動いてしまって、撮り直しになったようだけれど。
やはり、詰め物が取れたところは少し虫歯になっていた。その他にも、上の奥歯に虫歯がもう一本。
まずは、下の奥歯を先に直すことになった。

いよいよ削るぞ、というときになって、昇平がやっぱり言った。「何回削るの? 3回にして」
今までは、この「○回削る」というのが、治療の見通しを立てるための重要なポイントになっていた。きちんと回数を言ってもらえないと、安心して治療が受けられなかったのだ。
ところが今回は、先生が「○回」と言わないで治療を始めても、昇平はパニックにならなかった。自分の要求として「3回で治療を終えてほしい」という意味であって、見通しを立てるための質問ではなかったらしい。
先生が削っている間、昇平はおとなしく口を開け続けていた。歯磨きをしていたときのように、大きな口だ。
ただ、多動のせいか、ときどき反射的に手が口の方へ行ってしまうので、それを防ぐために母は昇平の手を軽く押さえていた。
母の出番は、本当にそれだけだった。

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しっかり削った後、先生が言った。「はい、うがいしていいよ」
すると、昇平は涙目になって起きあがりながら言った。「長かったよぉ」
先生、ちょっと苦笑して「長かったかい? でも、昇平くんがしっかり頑張ったから、あと1回削っただけで終わるよ」
「あと1回だけ?」昇平がまた、積極モードになった。
先より短い時間、削ってもらって、それで終わった。

「はい、うがいしてね。今度は型を取るよ」
と衛生士さんが言った。その意味が分からなかったようなので、母が通訳した。
「削るのはこれで終わりだって。あとは型取りをするんだってよ」
すると、昇平はびっくりしたように「これでおしまい? (この歯は)もう削らないの?」と言い、満足そうに、にやあっと笑った。
「やったぁ! 俺は恐くなかったぞ。(さっきの)女の子は恐いって泣いたけど、俺は平気だったぞ。嬉しいから笑っちゃうぞ。わっはっはっは・・・」
治療室で突然大声で笑い出そうとしたので、母はあわてて昇平の口をふさいだ。
「笑っちゃダメだよ。まわりの人のご迷惑になるよ」
それで昇平は笑うのをやめたけれど、その気持ちはよく分かったので、
「笑うなら心の中で笑ってね。声に出さないで」
と母は言った。
心の中で昇平が笑い続けたかどうか、そこのところは定かではないけれど、自分なりに、やりとげた! がんばり抜いたぞ! という気持ちでいたのは、間違いなかった。

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昇平がなにかをクリアしていく過程は、本当に一歩一歩だ。
少しずつ少しずつ、分かるようになってきて、できることが増えてきて、そして、ある日とうとうそのこと全体ができる時が来る。
それがまた、本人の自信につながる。

こんなふうにしながら成長していくんだろうなぁ・・・これからも。
そんなことを考えながら帰路についた母だった。

[03/12/07(日) 10:44] 病院

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