買い物とことば
火曜日の夜、昇平が突然「ぼく、お好み焼きが食べたい」と言い出した。
「お好み焼き?」と聞き返すと
「うん、ぼくまだお好み焼き食べたことない。お好み焼き、食べたい」。
そう、昇平は今までお好み焼きをほとんど食べたことがない。
お祭りやファストフードで見かけてはいるのだけれど、食べたがることはなかったし、うちの家族にもお好み焼きを好む人がいなかったので、作って食べたりもしたことがなかったのだ。
珍しいこともあるな〜、と思いながらも、翌日の夕食はお好み焼きにしてあげる、と約束した。
さて翌日、HPの掲示板でお好み焼きの材料を確認し、準備万端整えて(?)スーパーマーケットに買い物に出かけた。
「お肉は絶対入れてね。豚肉だよ」という昇平のリクエストがあったので、肉だけは忘れないようにして・・・えーと、まずはお好み焼き用の粉を買わなくちゃ。
売り場に行くと、粉も2,3種類並んでいた。どれにしようかと選んでいるうち、昇平が「お好み焼きの具ミックス」というのを見つけた。青ノリやかつお節粉、桜エビなどが最初からセットになって入っているらしい。
「うん、これがいいね」
と答えると、昇平は
「粉も買わなくちゃ。これがいいや」
とお好み焼き粉の大きな袋を一緒に手に取った。
「そっちはもういいんだよ。ミックスに粉も入っているんだから」
と言うと、昇平は
「えー、だって・・・」
粉の袋を手放そうとしないので、母と少しの間、押し問答になった。
埒があかないので、「こっちはいらないんだよ」と半ば強制的に棚に袋を戻すと、
「あー!」
昇平はいかにも悲しそうな声を上げた。
うん? と思って、「お好み焼きの具ミックス」の袋をよくよく見てみると・・・
ミックスに入っているのは、青ノリ、かつお節粉、桜エビ、揚げ玉の4種類だけ。粉は一緒には入っていなかった。
昇平は、すぐにそれを見抜いて「粉も買わなくては」と判断していたのだ。
あらら〜、ごめんね〜。
「そうかー。粉も必要なんだね」
とあわてて粉の袋も買い物籠に入れた。
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あとになってから考えた。
自分の言いたいことが母に伝わらなくて、昇平はどんな気持ちだっただろう、と。
昇平のことばは、いまだにあまり分かりやすくない。
早口だし、全体に舌足らずだし、話す内容も自分に分かっていることは省略して話し出すことが多いから、唐突で、状況と突き合わせながら判断しないと意味が分からないこともよくある。(だから、耳が遠くて察しのあまり良くないおじーちゃんには、昇平の話がほとんど聞き取れないらしい。)
そこで、母は、昇平の言いたいことが直感で分かっても、わざとそれをことばで言わせるようにしている。
「おかあさん、どこ?」
「どこって、何が?」
「どこにあるの?」
「どこだけじゃ分からないよ。何を探しているのか言わなくちゃ。何が見つからないの?」
「はさみはどこ?」
・・・こんな感じ。
でも、その母にも、ときどき昇平が言いたいことが本当に伝わらないことがある。
昇平も、説明したい、詳しく教えたいという気持ちはあるのだけれど、いかんせん、自分の言語能力がそれについてこない。
ちょうど、外国で私たちがどうしても伝えたいことがあるのに、英語やその国のことばでそれをどういえばいいのか思い浮かばなくて、片言でなんとかつうじさせようとするのだけれど、それでも分かってもらえなくて、立ち往生してしまう・・・そんな感じじゃないだろうか。
どうしても通じさせられない、と見て取ると、自分から「なんでもないよ」と言って、話すのをやめてしまうこともある。
最初から、話が通じそうにない相手には話そうとしないことも多い。
話すことをあきらめてしまう子にはなってほしくなくて、母はとにかく昇平の話を聞き続け、内容を理解しようとするのだけれど・・・たまに、先のような状況が起こることもある。
本人が言おうとしていること、伝えようとしていることを、勝手に判断して話を打ち切ってしまう。
ダメだよなぁ、これじゃ。
昨日は幸い、母の対応が間に合った。
もっとも、それで母が勘違いしたまま売り場を離れたら、昇平はなんとかして母に粉が足りないことを伝えようとしたとは思うけれど。(何しろ、それがなくてはお好み焼きが作れない。たぶん、必死で母にそれを知らせようとしたとは思う。)
でも、もしかしたら、普段の生活の中でも、こんなふうに勝手に昇平の話を打ち切ってしまっていることもあるかもしれないなぁ。気がつかないうちに・・・。
完璧な対応なんて、できるはずはないし、時々失敗したり間違ったりするのが子育てなんだと思うけれど、でも、できるだけそれをなくそうと思うことが、たぶん、大事なんだろうな、と思うから。
反省の気持ちを込めて、日記にこのエピソードをつづっておく。
今朝になって、なぜ昇平がお好み焼きを食べたがったか分かった。
今月末にある授業参観で6年生を送る会をやるのだが、そのとき、親子でお好み焼きを作ることになり、その話し合いを学校でしていたのだ。たぶん、材料とか作り方とかを予習しているのだろうが、そうするうちに「お好み焼きってどんなものだろう?」と思うようになったのに違いない。
「夢でおまつりに行ってお好み焼きを食べたの。だから、(本当に)お好み焼き食べたくなったの」
と言っていたので、きっと、すご〜く食べてみたかったんだろうな。
実際のお好み焼きはとてもおいしかったようで、残った分を今朝の朝食にも食べて行った。
これなら、授業参観でのお好み焼き作りも、きっと楽しくできるね。
[04/02/12(木) 10:06] 日常