昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

一番困ること

昨日、ふと思いついて昇平に聞いてみた。
「昇平くんが学校や家で一番『困るなー』って感じることはなに?」

質問の意味がちょっと難しかったようだけれど、何度か繰り返して問いかけると理解して
「どうしていいのか分からないときが、一番困る」
と真剣な顔で答えた。

学校ではどんな場面で一番困るかたずねると
「国語。国語のテストのとき」
と答えた。
これは、どういう状況かだいたい分かった。
先日の学力テストで、昇平は国語の問題文の読み取りや質問の理解がうまくできなくて、かなり苦労したのだ。
森村先生から聞いた話によると、長文読解で問題に集中力を持続できなかったこと、長く複雑な構造の文章を理解することが難しかったこと、が主な原因だったらしい。
それでも、がんばって集中しよう、見直そう、としていたらしいのだが、国語のテストが終了するまでは、かなり苦しい時間だったらしい。頼りの綱の先生も、学力テスト中ではさすがに手伝ってはくれないし・・・。

どちらも、困る原因は同じだな、と思った。
専門用語を使えば、情報入力における困難。
簡単に言うと、「見たり聞いたりしても意味が分からないから、どうして良いか分からなくなって困惑することがとても多い」ということ。
自分自身でも、自分の持つハンディキャップを自覚していたんだねぇ。

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情報入力は、認知とも呼ばれる。
まわりで起こっている出来事を見たり聞いたりして理解する。話しかけられたことばから相手の言いたいことを聞き取る。文章を読み、その内容を読み取って理解する。
昇平は、そのすべてにおいて、かなりの困難を抱えている。
ただ、逆に言うと、そこさえクリアすれば、後は自分で考えながら、けっこうなんとかやってしまうのだけれど。

だから、私は彼が本当に小さい頃から、情報入力のフォローをずっと続けてきた。
本人に分りやすい幼児語を使ったり、擬音擬態語を多用したり、形のはっきりしたシンプルな絵本を読み聞かせたり。
伝えたいことは、彼の注意をひいてから、短いことばではっきりと伝えた。伝わりにくいときには、はっきりした動作と共に伝えたりもした。実際にやって見せて理解させることもあった。

当時は、昇平に入力困難があるから支援が必要なのだ、と分かっていたわけではなかった。
ただ、彼を育てていくうちに、「そんなふうにすれば昇平が安心して、上手に行動できるようになっていく」と分かったから、せっせとその方向でやっていただけだった。
後になってから、いろいろな検査などを通して昇平の特長が分かって、「そういうことだったのか〜」と納得した次第。

   ☆★☆★☆☆★☆

でも今、昇平は徐々に私の手元から離れつつある。
私のいない場所に行き、私のいないところで、自力で生活する場面が増えている。
年齢が上がるに従って、そういう場面はますます増えていくだろう。

そういうところで、昇平はまず、キーパーソンを探している。
自分が「分からなくなって」困ってしまったとき、「どうしたらいいか」を教えてくれ、自分を助けてくれる人。ヘルパーと言ってもいい。
このヘルパー探しの能力が昇平はとても高い、と見ていて思う。
スーパーで買い物をするときにも、いろいろなところに出かけたときにも、素早く「誰に頼ればよいか」を見取って、その人に頼っている。

昇平の情報入力困難というハンディキャップは、軽減はしても、おそらく一生涯ついて回るものなのだろうと思う。
人の話を聞いていても理解できなくて、ちょっととんちんかんな返事をしたり、文章を読んでいても「複雑で意味が分からない〜!」と悲鳴を上げたり・・・って、おや、これって私自身のことかな?(笑) まぁ、母の方が困難の程度はずっと軽いけれど。
でも、助けてくれる人、支援してくれる人を自分で探せる力がしっかり身に付けば、昇平もいつか、母がいなくても自分で生きられるようになっていくだろう。
自立して生きる、ということは、自分の力だけで生きていく、ということではない。
自分の力では及ばない部分には上手に他人の助けを借りながら、主体的に自分の人生を生きていく、ということだ。

今はまだ、母が昇平の周囲の人たちに「よろしくお願いします。困っていたら助けてやってください」と頭を下げる場面も多い。
でも、いつかは彼自身が「ぼくはこういうことが苦手です。どうか手伝ってください」と言える日が来るだろう。
そして、周りの人々も彼のような人間を理解して気軽に助けてくれる――そんな社会になっていってくれると良いな、と母は心から願っている。

彼らに優しい社会は、すべての人々にも優しい社会。
少しずつ、少しずつで良いから、そんなふうに変わっていってくれると、本当に良いな・・・・・・。

[04/02/16(月) 13:01] 療育 日常

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