昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

複数の障害特性の考え方

私のホームページ「アサクラ・タウン」には療育部門があって「しましま島の男の子」というタイトルをつけてある。
そこの掲示板の名称が、そのものずばり「療育掲示板」。
昇平自身が自閉的な特徴も持っているために、療育掲示板に書き込んでくださる方のお子さんは、ADHDだけでなく自閉症の特徴を色濃く持っていることが多い。ADHDや自閉(アスペルガー)を持つ成人当事者の訪問も増えてきた。
そんな関わりの中で、私が最近ますます感じるようになってきたのは
「ADHDも自閉症も、LDや知的障害も、実際にはひとくくりの同じジャンルの障害なんじゃないだろうか?」
ということだ。

いや、実際それらの障害をひとくくりにして呼ぶ名称はある。
「軽度発達障害」。(ただし、この名称には知的障害は原則として入らないことになっているらしい)
でも、それはADHDや自閉症、LD(学習障害)といった複数の障害をまとめて呼ぶグループ名、という扱いになっている。
そうではなくて、「軽度発達障害」そのものが、実際の障害の本体なんじゃないだろうか? と思うのだ。
症状的にはそれぞれ違いはあるものの、脳の発達や機能がうまく働いていないのが原因という点では同じだし、症状の中にも似通っているものが多く、対応が同じになることもたくさんある。
自閉の本を読んでいても、ADHDの本を読んでいても、LDの本を読んでいても、書かれていることがとてもよく似ていて、「あれ? これって同じだよねぇ」とよく感じるのだ。
だから、療育掲示板でも、診断名の違いを超えて共通に話し合えることが多いのだと思うのだけれど。

ただし、似ている部分はあると言っても、それぞれの特徴はやっぱり違う。ADHDと自閉症は同じ障害ではないし、ADHDとLDも同じものではない。知的障害と自閉症も同じ種類の障害ではない。
ADHDのことしか知らない人間が自閉を持つ子を対応したら、うまく行かないことがたくさん出てくるだろうし、自閉に精通した人がLDの子どもをうまく指導できるかと言ったら、必ずしもそうとは言えない。

ということは、つまり、どういうことか?

1人の人間にひとつだけの障害があるのではなく、1人の中にさまざまな特徴としてADHDの要素、自閉の要素、LDの要素、知的障害の要素・・・などがあって、ひとりひとりその度合いが違っている、と考えたほうが納得がいく、と思うのだ。

   ☆★☆★☆☆★☆

分かりやすく言うと、こうなる。
ここにAくんという男の子がいる。学校でも家庭でも困難な場面が多くて、なにかしらの障害を持っていると思われている。
Aくんという子どもを「軽度発達障害」という面から分析してみると、ADHD度65%、自閉度80%、LD度25%、知的障害度10%・・・と出た。1人の人の中に複数の障害の特徴が入りまじっている、ということだ。
(注:現在はまだ、こんなふうに人の発達障害の度合いをパーセントで表すような検査は実用化されていません。たとえ話としてお読み下さい。)
この障害特性は、健常と呼ばれる人たちにもあって、普通は度合いがとても低い。
まあ、どこまでが「健常」でどこからが「障害」になるかは難しい問題ではあるのだけれど、たとえば50%を健常と障害の境目にするのであれば、AくんはADHD度と自閉度が「障害」レベルにあることになる。
現在の診断基準では、ADHDと自閉の両方の特徴があれば、自閉の方を優先するのが診断の決まりだから、Aくんが病院に行くと「自閉症」と診断される可能性は高い。
でも、実際のAくんの「軽度発達障害度」を分析してみると、ADHDの特徴も、決して無視できないレベルにある。
つまり、自閉症としての対応も、ADHDとしての対応も、両方が必要になってくる、ということなのだ。

また、こんなこともありうる。
Aくんは自閉度の方がADHD度より高いけれど、実際に生活していて困っているのが、部屋や机を片づけられなかったり学校の宿題を忘れたりする、ADHD特有の困難だったりすると、Aくんを診察した医者は(主に親や本人が訴える困難を判断材料にして診断を下すから)「ADHDですね」と言うかもしれないのだ。
これだって、決して間違いではない。AくんのADHD度も、りっぱに(?)「障害」レベルなのだから。
ところが、Aくんが訳あって病院を変えることになり、別の医者に診てもらったところ、こちらは自閉を最優先する医者だったので「自閉症です」という診断が下った。
前の病院では「ADHD」と言われたのに、病院を変えたら「自閉症」と診断名が変わった。いったいうちの子の本当の診断名はなんなのだろう? と親は悩むようになるかもしれない。
「どちらが」本当の診断名、なのではない。「どちらの特徴も」その子は持っている、と考えれば、別に矛盾はしないことなのだけれど。

   ☆★☆★☆☆★☆

実際、昇平はこのAくんに似たような子どもなのだろうと思う。
ADHDの特徴は確かにある。診断名も「ADHD」。でも、自閉症の特徴も持っていて、それも、決して無視してはいけないものなのだ。

そして、同じADHDの診断を受けていても、その子によって、必要な対応は違ってくるだろうと思う。
診断名は同じでも、1人1人が持つ障害特性の度合いは違ってくるはずだし、その特性同士が影響を及ぼしあって、また違った症状や特徴を生むはずだから。

今はまだ、さまざまな障害特性の要素が1人の中にあって、その度合いが違っている、という考え方は仮説の段階で、ましてやその度合いを測る検査があるわけでもないのだけれど(ただし、開発中のものもある)、よくよく子どもの行動を観察していれば、検査しなくても、必要なものは見えてくる。
だから、一番大事なのは、1人1人違っているというのを前提にして、その子をよく観察して、困難の原因やそれに対する対応を考えていく、ということになるのだ・・・と、私は思っている。

[04/03/20(土) 17:13] 療育 知識

[表紙][2004年リスト][もどる][すすむ]