昇平のゴールデンウィーク・1
特殊学級に通っている昇平は、社会科を学校で勉強していない。
ところが、毎日家庭学習で取り組んでいる「チャレンジ」には、社会科のページがある。学級の上級生には、協力学級で社会科を勉強している子もいる。昇平が『社会科って、どんなものかな?』と考えているのは、前々から感じていた。
加えて、昇平は隣の学区の学校に通っているので、自分が住んでいる地域についてあまり詳しく知らない。地元の学校に通っていれば、生活科や社会科で「町探検」と称して、地域の様子を観察したり見学に行ったりするのだが、そういう体験もしたことがない。(ただし、通っている学校周辺の公共施設などは見学に行っている。)
昇平にも社会科的な経験をさせてやりたいなぁ。近所を歩いて、何があるかを観察させたいなぁ。
しばらく前から、私はずっとそんなことを考えていた。
さて、GW。外歩きには良い季候になった。
私はGWのスケジュール表を作って、5月1日の午後の欄にこう書き込んだ。
「たんけん(地図作り)」
スケジュール表を見た昇平が、目を丸くした。
「たんけんって? どうするの?」
「家のまわりを歩いて、何があるかを地図に書き込んでいくんだよ。ほら、チャレンジにも載っていたでしょう?」
そう。今月のチャレンジの社会科は、学校のまわりを方角を意識しながら調べて歩いて、分かったことを絵地図にまとめる、という単元だったのだ。
最初はぴんと来ない様子だった昇平も、チャレンジを見るうちにイメージがわいたようで、自分で方位磁針をもってきたり、えんぴつを準備したりした。私は、住宅地図をもとにして家の近所の道路を書き込んだ白地図を作り、デジカメも用意した。
社会科の友のバインダー(首から下げられるひも付き)は、お兄ちゃんが小学校時代に使ったお古がある。
準備万端整えて、午後、2人で町探検に出かけた。
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まずは、家の門のところで方位磁針を取り出して、方角を確認した。目の前にある道路と白地図の道路を一致させてから、歩き出す。
歩き出してまもなく、昇平が行く手の交差点の先を見て目を輝かせた。
「郵便局だ! 郵便局がある!」
おお、良いリアクション。
さっそく昇平はバインダーに挟んだ白地図に郵便局の絵を描き込んだ。絵が得意な昇平のこと。作業は早い。
交差点を曲がって、さらに歩く。
「あっ、○○スーパーだ!」
昇平がまた歓声を上げた。
そのスーパーマーケットには何度も買い物に来ているのだが、こんなふうに町並みを意識したことがなかったから感動したのだろう。教育テレビの子役もかくや、という反応を見せてくれる。
道路の反対側から、店の写真もデジカメで撮った。
脇道に入って、またどんどん歩く。
家がとぎれ、田んぼや畑ばかりになる。田んぼに水をくみ上げるポンプがあったので、それも地図に描き込んで写真に撮る。
もっと歩く。
田んぼの間の道路には、両脇に雑草が生い茂っている。タンポポ、カラスノエンドウ、シロツメクサ、ヘビイチゴの花盛り。ハルジオンやギシギシはまだ若草色。雑草とひとくくりで呼ぶけれど、雑草にだってちゃんと季節はある。
特に、カラスノエンドウは赤紫の花が満開で、小さなサヤエンドウにそっくりなサヤをたくさんつけていた。昇平、これには大喜び。
「社会の次は理科にしよう!」
と言って、さっそくカラスノエンドウの豆つみを始めた。
カラスノエンドウの葉の上にテントウムシの幼虫も発見した。
「ぼく、テントウムシの幼虫は平気だよ。成虫になるとちょっと苦手だけど」
と昇平が笑う。
そう。昇平は成虫のテントウムシが苦手。でも、幼虫はギザギザした黒い体にどぎついオレンジの斑点があるから、こっちの方が苦手な人は多いと思うけどねぇ・・・。
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歩きながら、学校の社会科の授業の町探検だったらどんなふうになっているだろうな、と考えた。
友だち数人とグループで歩き回るか、クラス全体で並んで歩くことになるのだろうが、先生のそばにいなくては、昇平は自分が何を目的に歩いているのか、何を見つけ、何を観察するべきなのか、まずそこが分からないんじゃないかな、と思った。
それに、途中でなにか興味あるものを見つけてしまったら、そこから動かなくなるかもしれない。そうなったら、お友だちに迷惑をかけてしまうよなぁ。
「まわりを眺め、必要なものに関心を向けて、観察を行いながら、皆と一緒に歩いていく」というのは、昇平にはまだ課題設定が高すぎる気がする。
今は、こうして親子で社会科見学しているくらいがちょうど良いのかも・・・と、そんなことを考えてしまった。
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さて、そうこうするうちに、農道も終わりに近づき、建物や家々が並ぶにぎやかな道路に出た。歩いてきた時間は30分あまり。そろそろ昇平の集中力の限界も近づいている。
最終目的地は、ガソリンスタンドの隣のコンビニに決めてあった。その前に到着したとき、昇平が「やったー! やっとついたー!」と歓声を上げた。おいおい、遠足じゃないってば。
でも、昇平は「探検をやりとげた」という実感を感じているようで、とても晴れやかな笑顔をしていた。
・・・ま、いいか。
コンビニ近辺の町並みを地図に記入し、写真も撮って、無事、第一回目の町探検は終了。
小さな財布に300円だけ入れてきたので、その範囲で好きなおやつを買っていいよ、と言うと、昇平は大喜びでコンビニに飛び込んでいった。
帰りは約束通り、またカラスノエンドウの群生地に立ち寄り、思う存分豆つみを楽しんできた昇平。15分以上、冷たい風に吹かれて、おかげで母はすっかり風邪気味になってしまったが、昇平としては本当に楽しかったようだから、良しとすることにした。
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今日は連休二日目。
昨日描き込んできた地図を元に、絵地図を一緒に作っていこうと思っている。
写真はカラスノエンドウの群生地に立つ昇平。
[04/05/02(日) 11:24] 日常