昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

昇平のゴールデンウィーク・2


さて、五連休も中日となった。
お兄ちゃんが郡山の私の実家に泊まりに行くというので、昇平と一緒に福島駅まで見送りに行った。
いつもなら車で福島駅まで送っていくのだが、そろそろお兄ちゃんに福島駅での乗り換えのしかたを覚えてもらいたかったので、阿武隈急行を利用することにした。
そういえば、昇平も移動といえば母の車ばかりだし、そろそろ電車に乗る体験をさせてみても良いかも。このGWはどこにも出かけられないし、よーし、「阿武急(あぶきゅう)に乗って福島駅に行こう」ツアーを決行するぞ!

こうと決まると、母は行動が早い。さっそくGWの計画表に書き込んだ。「お兄ちゃんを福島まで送る。あぶくま急行電車に乗る。」「福島駅で遊ぶ。」
お兄ちゃんは午前中部活があるので、出発は午後からになる。帰宅は夕方6時過ぎになるから、ついでに駅ビルで食事もしてしまおう。
「どこ夕食に食べたい?」
と昇平に聞くと
「マク○ナルド!」
と間髪を入れずに答えが返ってきた。
え〜、ハンバーガーを夕食にするの〜? もっと美味しいものが食べたいよ〜! と言いたくなる気持ちをぐっとこらえる。今回は昇平の楽しめるツアーにしたいから、リクエストの通りにしなくちゃ。

   ☆★☆★☆★☆

当日の午前中に宿題と家庭学習を終わらせて、お兄ちゃんの帰宅を待って、さあ、出発。
すると、昇平が急に落ち着かなくなってきた。
今まで電車になんてほとんど乗っていなかったから、どきどきしてきてしまったのだ。
母の車で阿武急の駅まで行って、駅前駐車場に車を停めると、昇平が心配そうに言った。
「車、盗まれない?」
「あっはっは。こんなボロ車、盗む人なんていないよー。ちゃんと鍵もかけておくから大丈夫」
そう言いながらも、そんな心配をできるようになったんだから成長したものだ、とちょっと思った。

自動券売機で切符を買う。昇平にも自分でお金を入れて自分でボタンを押してもらう。
今回はとても余裕のあるスケジュールを立てているから、何をするにも落ち着いてできる。
もう何度も一人で電車に乗っているお兄ちゃんは、ベンチに座って余裕でGBAなどやっている。昇平には母の携帯ゲームを貸したのだが、なんとも気持ちが落ち着かなくて、駅の待合室で立ったり座ったり。
そういえば、昔、昇平がずっと小さかったとき、電車に乗ったことがあったけれど、あの頃の昇平も落ち着かなかったっけ。ただ、あの頃は周りが全然見えていなくて、自分がこれから何をするのかも分かっていなくて、ただ落ち着かなかったからうろうろしていたのだけれど、今はもう違う。自分が何をするか分かっているからこそ、どきどきして、落ち着かなくなってしまうのだ。
やっぱり違う。ずいぶん自分のことも周りのことも見えるようになったんだね。

電車に乗ると、うまい具合にボックス席に座れた。ただ、昇平の隣には先客がいる。迷惑をかけるんじゃないかとちょっと心配したが、昇平は行儀良く座って、母の携帯でオセロの続きを始めた。母と交代で対戦する。やがて、お兄ちゃんが座っていた別のボックス席が空いたので、そちらへ移動したので、なお落ち着いて過ごせるようになった。
昇平とオセロをしているうちに、20分あまりの電車の旅はたちまち終わりになって、終点の福島駅に着いてしまった。
「だいじょうぶ? 降りられる?」
とまた昇平が心配する。
「福島は最後の駅だから絶対大丈夫だよ」
と答えると、後は何も言わなかったが、緊張した顔で母の手をぎゅっと握っていた。

駅に降り立って、また心配顔。いつも来ていた西口ではなく、東口の方に降り立ったので、駅の様子が全然違っていたのだ。
「ゲームコーナー、どこ? ちゃんとある?」
そう。彼の今回の一番の目的は、駅の西口にあるゲームセンターで遊ぶこと。そこにたどり着くまでは、何とも心配でしかたがないわけだ。
一方、お兄ちゃんの方も、阿武急から新幹線に乗り換えた経験がないから、
「どっちへ行けばいいんだ?」
と不安顔。
はいはい。二人まとめて一緒についてらっしゃい。
一度経験してしまえば、次は完璧にその通りにできるようになるのがお兄ちゃん。
見覚えのある場所にさえ来れば安心するのは昇平。
新幹線乗り場は西口方面。こっちへ行けばいいんだよ。

   ☆★☆★☆★☆

新幹線は定刻通りやってきた。
福島駅名物、東北新幹線と山形新幹線の連結シーンも見物して、お兄ちゃんは新幹線に乗り込んでいった。
昇平は、轟音をたてて走り抜けていった通過車両の音にびっくりして、その後はひんぱんに耳をふさいでいた。
連結シーンを見物するときには、ホームの端に寄ることをとても心配してくれた。「落ちるよ」と言って。
周りが見えるようになってきたからこそ生まれてくる心配や不安。だけど、その認識はやっぱりまだ部分的で、全体をトータルで見ることに関しては、まだ十分ではない。
だから、いつ通過車両が来るのか予測できなくて、常に耳をふさいでしまう。新幹線が停まっているときには白線を越えてホームの端によっても危険はないと、予測できない。
まだまだ不完全な昇平の認知認識能力を、改めて感じてしまった。
でもまぁ、これはやっぱり、いろいろ体験しながら成長を待つしかないことだしねぇ。母としては、「これこれこういう理由だから大丈夫なんだよ」と言っていくしかないわね。

さて、新幹線が走り出し、お兄ちゃんは無事に郡山へ出発していった。
向こうの駅には私の父が出迎えにでているから心配はない。
私と昇平は、いよいよ目的のゲームセンターへと向かった。

   ☆★☆★☆★☆

ゲーセンでの様子は省略。
ただ、とにかく昇平は強かった。
縦スクロールのシューティングゲームが気に入って、それを一番長くやっていたのだが、飛んでくる弾、ビーム、敵、障害物を、どうしてああも瞬時に判断して動いていけるんだろう?
同時処理が極端に苦手な母には、神業にしか見えないのだけれど。
AD/HDを持つ人間は落ち着きはないけれど、こういう、同時にあちこちに意識を向けるような作業にはとても合っているという。実際、AD/HDを持つ子どもたちには、アクションゲームがとても上手な子が多いような気がする。
AD/HDは遠い昔に森で獲物を追っていた猟師の末裔かもしれない、という文章を読んだことがあるけれど、なんとなく納得したい気持ちになってくる。

その後、本屋で好きな本を買い、百円ショップでおもちゃのような鉛筆削りを2つ買い、最後にお楽しみのマク○ナルドでハッ○ーセットを食べて、大満足の昇平だった。

   ☆★☆★☆★☆

帰りの阿武急の中で、昇平は席に座って静かに本を読み続けていた。
時刻はもう午後6時を過ぎている。リタリンはとっくに切れている。
それでも昇平が落ち着いていたのは、もう阿武急に不安を感じていなかったから。
体験することは大事だね。千の言葉で説明するより、たった一度体験することで、分かることがたくさんある。

帰宅は夜の7時。さすがに気疲れはしたようで、その後はごろごろして過ごしていた昇平だった。
ささやかな電車の旅。でも、きっと、彼にはちょっとした大冒険の気分だったんだろう。
お疲れ様でした。

[04/05/04(火) 17:46] 日常

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