昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

ビデオが壊れて

昨夜のこと。
突然ビデオの1台が壊れてしまった。昇平がお気に入りのテープをかけていたら、急にそれが取り出せなくなってしまったのだ。
原因は、ビデオの使いすぎ。
昇平は自分が部屋にいるときには、常にビデオをかけておきたがる。それがBGMなのだと自分で言う。
お気に入りは「学校へ行こう」や「トリビア」などを録画したものだが、夏休みに入ってからは、「ポップンミュージック」という音楽ゲームを録画したものを、それこそBGMがわりにひっきりなしにかけていた。気に入った曲は、何度も巻き戻して聴いていた。そのうちに、ビデオの調子が思わしくなくなってきていたので、これはそろそろ危ないな、と思っていた矢先、とうとうビデオが動かなくなってしまったのだ。

もちろん、昇平は大パニック、大泣き。
「ぼく、ビデオが見られなかったら死んじゃうよーーー!!!」と大騒ぎになった。
「新しいビデオを明日買ってきて!」とも。
「今、うちにはお金がないから、新しいビデオは買えないよ。向こうの部屋にもう1台ビデオがあるから、ビデオを見たいときにはそっちで見ようね」
と説明したが、悲しさとショックの方が上回っていて、なかなか頭に入っていかない。
実は、壊れた方のビデオは、昇平が一人で部屋にこもってお絵かきや一人遊びをするとき、お気に入りのテープをかける、いわばマイ・ビデオデッキだったのだ。
「ぼく、泣いちゃうよー」
と母の膝に泣き崩れるので、
「悲しいときには泣くしかないよ。思いっきり泣きなさい」
と言って、とにかく好きなだけ泣かせておいた。


ところが不思議なもので、「いくらでも泣け」と言われると、そう長いこと泣いてもいられないらしい。
そのうち、昇平はだんだん泣きやんできて、ビデオを買い直すのにはいくらくらいかかるのか、という話を始めた。
「そうだねぇ。1万円以上するのが多いけど、とりあえず、1万円あれば新しいのが買えるかな」
と答えると、
「ぼく、サンタさんにビデオをプレゼントしてもらう!」
と言いだして、サンタクロースに手紙を書き出した。
その辺にあった紙切れに走り書きのような文字で

『サンタさんへ
 ビデオデッキください。
        昇平より』

明日にはサンタクロースがビデオを持ってきてくれるような気持ちでいるのが分かったので、
「サンタさんがプレゼントしてくれるのは12月だよ」
と言うと、
「え〜っ!!!」
と昇平。

「お母さんもビデオが買えるようにお金を貯めていくけどね、そんなにすぐには貯まらないんだよ」
と教えると、昇平はしばらく考え込んでから、
「ぼくがお手伝いしたら、お金をもらえる? お布団敷きとか」
と言い出した。
どうやら、お手伝いのお駄賃を貯めてビデオデッキを買い直そうと考えついたらしい。
「いいよ。1回お手伝いしてくれたら10円だけどね」
「それで1万円貯めるのには、何回お手伝いすればいいの? ・・・電卓を貸してちょうだい」
しばし、昇平は1日何回のお手伝いをすれば1万円が貯まりやすいか、計算に没頭していた。
結論。
「ぼく、1日4回お手伝いできる? お布団敷きと、あと、他にもお手伝いできる?」
「できるよ」
「ぼく、洗い物とかする!」
「洗い物はまだちょっと無理だけど、洗い物した後の食器の片づけはできるよね。後は、みんなにお箸やお皿を配るとか、洗濯物をたたむとか」
「うん、ぼくやる!」
昇平は、がぜん張り切りだした。
「ぼく、お手伝いするよ! 一日4回お手伝いすれば、早く貯まるでしょう?」
「そうだね。一日10円よりは、ずっと貯まりやすいね」
と答えると、昇平は、よしっ! とガッツポーズをした。
ビデオデッキが壊れたショックからは、とりあえず立ち直れたようだった。

   ☆★☆★☆★☆

さて、一夜明けて、今朝のこと。
昨夜はああ言っていたものの、今日になったら、やっぱり「ビデオが見られない〜」とめそめそするんだろうな、と母は予想していた。
なにしろ、ビデオは彼の生活になくてはならないものになっていたから。

ところが、昇平、元気いっぱい起きてきたと思うと、顔を輝かせてこう言った。
「お母さん、ぼく、お布団たたんでおいたよ!」
えっ? と見に行くと、部屋の布団が全部たたんであって、タオルケットや枕は(くしゃくしゃになっていたけれど)ちゃんと押入に入れてあった。
「ぼく、お手伝いしたよ!」
と誇らしそうに昇平が言う。気が付くと、着替えもすっかりすませていた。

「偉いね〜! すごいね、助かったよ〜!」
と誉めて、
「はい。お駄賃の10円」
と十円玉を渡すと、昇平は「ありがとう!」と嬉しそうな顔で受け取って、さっそく空き缶の中にそれをしまった。
昨日の決意は、今日になっても少しも変わっていなかったのだ。

朝食を食べながら、昇平が言った。
「ぼく、ビデオが壊れても、心は変わらないよ」
「心が変わらない? ・・・悪魔の心になって、かんしゃくを起こしたりしない、ってこと?」
「うん!!」
にっこり笑ってうなずいた昇平が、気のせいか、ちょっぴり大人な顔つきに見えた。

   ☆★☆★☆★☆

本当のことを言えば、今回の故障の直接原因は、テープが絡まっただけのことのような気もしている。
ビデオデッキを電気屋に持ち込めば、とりあえず直るかもしれないのだ。
でも、ビデオデッキの調子が悪くなっていたのは確かだし、修理費をかけて直すより、新しく買い直した方が早いような安物なのも事実。
こうして、昇平が自分でなんとかしようとしているのなら、もう少し様子を見ていようか、と母は考えていたりする。

[04/08/11(水) 17:41] 日常

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