昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

叱ってもらえる幸せ

先週の土曜日に小学校の学習発表会があった。
どの学年も、短い期間に一生懸命練習を重ね、日頃の学習の成果を発表していた。
昇平たちの学年は、先日町の音楽祭で発表した器楽演奏と歌。少しアレンジが入っていたが、すでにかなりの時間練習してきた題目なので、落ち着いて発表していた。

とはいえ、発表会の当日、昇平は目の前にずらりと並ぶお母さんやお父さんたちに興奮。壇上から客席に手を振って、自分の母がどこにいるのか見つけようとした。私は昇平からほんの数列離れただけの場所にいたのだけれど、それが昇平には見つけられない。
1年生、2年生くらいなら、客席に手を振る子がいても、あまり不自然ではないけれど、さすがに3年生ともなると、そういう行為は目立つ。客席のおばあちゃんたちが「あら、手を振ってるよ」とつぶやくのが聞こえてきた・・・。
とうとう昇平は最後まで母を見つけられなかったけれど、演奏が始まると、あとは発表に集中することができた。演奏そのものは、音楽祭のときと劣らないくらい良くできていた。

全学年の発表が終わってから、控え室になっている教室に昇平を迎えに行った。同じ学年の子たちが、家の人の迎えを待ちながら、ビデオを眺めたりして過ごしていた。昇平も椅子に座って、ビデオを見ている。
すると、廊下からそれを眺めていた森村先生が、私を見つけて、ちょっとちょっと、と手招きした。
「すみません。私は初めて発表会の後で昇平くんを叱りました。発表のときに、昇平くんが約束を守れなくて手を振ってしまったものですから・・・」
森村学級では、発表会の朝、子どもたちと先生とで話し合って、「客席に向かって手を振らない」と固く約束していたのだという。ところが、昇平がそれを忘れて手を振ってしまったものだから、森村先生は、発表会をよく頑張ったね、と誉める前に、約束を守れなかったことを注意したのだ。
昇平は涙をぽろぽろこぼして「ごめんなさい」と謝り、先生と一緒に、それまでみんなとどれほど一生懸命練習してきたかを思い出し、最後にはぽつりとこう言ったらしい。
「みんなに、ごめんなさいの気持ちだ・・・」
昇平が自分からそう言ってくれて、とてもほっとしました、と森村先生は後で言っていた。

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発表会で手を振るくらいで、と思われる方もいると思う。
せっかく精一杯がんばって発表したのに、その直後に叱られるなんてかわいそうだ、と思う方もいるだろう。
でも、私としては、よくぞ叱ってくださいました、という気持ちだった。

その子が何をがんばり、何に努力するかは、その子一人一人で違っている。
この日、昇平たち森村学級の子どもたちは、「客席に向かって手を振らない」ということを大事な課題にしていた。
それを守れなかったという事実は、しっかり他人から指摘され、反省しなくてはならないことだったのだ。・・・なぜ、それをしてはいけなかったか、誰に迷惑をかけてしまったのか、きちんと理解する必要があったのだ。
本当は、よくできたね、といっぱい誉めてやりたい。でも、この子の今と将来を考えたとき、叱るべきことはしっかり叱ってやらなくてはならない。
自然にそれに気がついて身に付いていくことが、あまり期待できない子どもだけに、そこのけじめというか、見極めは、とても大事なことだと感じている。

昇平が私に気がついて、席を立って駆け寄ってきた。案の定、開口一番こう言った。
「ぼく、約束守れなくて、手を振っちゃったの・・・。どうしよう、4年生になれないよ」
本人なりにしっかり反省したのが伝わってくることばだった。
なので、私は受け止め役になった。
「大丈夫、なれるよ。4年生でもまた学習発表会があるから、そのとき、手を振らないように気をつければいいんだよ。来年はしっかりやろうね」
昇平の顔が明るくなった。
「はい!」
と返事をする。
「演奏はとっても上手だったよ。よくがんばったね」
と誉めると、昇平はますます明るい顔になった。
森村先生、ごめんなさい。先生ばかりが叱る役目の貧乏くじ。母親の私は、役得です・・・。

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子どもは本人なりに頑張っているのに、成果がそれに見合わないと叱ったり、他の子と比べて劣っていると叱ることは、障害のあるなしに関わらず、絶対にしてはいけないことだと思う。
発達障害を持つ子は、そういう叱られ方をする場面が多いだけに、関係書籍を読めば、必ずと言っていいほど「叱らないで誉めて育てる」と書かれている。それは、まったく正しいことだと思う。
だけど、その子自身の成長や発達の課題を考えたとき、場面によっては、叱る必要が出てくることもあると思う。
それは、厳密には「叱る」とは違うことなのかもしれない。「注意する」「指導する」・・・これもまた、彼らにとっては大事な「支援」になるのだ。

自分に自信がない、何をやってもうまく行かない思いにかられている子には、叱ることより誉めること、注意することより認めて上げることが、とても大事な支援になるけれど。
認められ、自分の力を伸ばそうとしている子どもたちには、ときにはしっかりと叱ってもらって、自分の何を改めていかなくちゃいけないか、自分の中で整理していく必要があるんだろうと思う。
その子を見つめ、その子の成長のために、叱ってくれる人がいることは、とても幸せなことだな・・・と思う。

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とはいえ、森村先生だって、いつまでも怒った顔をしているわけではない。
週明け、昇平は改めて、教室で先生から発表会で頑張ったことを誉めてもらったらしい。朝にはちょっと緊張した顔で登校した昇平も、下校のときにはいつものにこにこ顔になっていた。

行事のたびにたくさんのことを学んで成長する昇平。
今回もまた、大事なことを勉強したね。
よく、がんばりました。

[04/10/27(水) 10:21] 療育 学校

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