昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

相手の気持ち

昨日のこと。
夕方、学童に昇平を迎えに行ったら、指導員の鴨原先生がこんなことを教えてくれた。
「昇平くん、今日もちょっとYくんとやりあっていました。でも、これも良い経験だと思って、やらせておいたんですが」
Yくんは昇平の協力学級である3−3の男の子。学童が変わったとき、昇平を一番よく面倒を見てくれて、昇平が一番最初に名前と顔を覚えた子なのだが、関わる時間や回数が増えたせいか、最近少しトラブルが起きるようになっていた。トラブルと言っても、とっくみあいになるとか、そういうものではないらしいが・・・。

夕飯の支度をしていると、昇平が台所に来たので、その時の話を聞いてみた。
「今日、Yくんとケンカしたんだって? どうして?」
昇平、一瞬、あっという顔をしたが、すぐにこう答えた。
「だって、森村先生に言うぞって言うんだもん」
はあ? ・・・意味が分からないぞ。
「それで? どうなったの?」
「おまえ、うるさいぞ! って言っちゃったの」
うーん、やっぱり場面がよく理解できないな。

昇平は、相手に理解しやすいように話すのが困難なので、こちらで順を追って状況を聞き出していった。
「えーと。Yくんが昇平くんに怒ったときの少し前、昇平くんたちは何をしていたの?」
「話してた」
「なんの話をしていたの?」
「RPGの話」
「誰が話していたの?」
「ぼく」
・・・・・・あ、少し状況が見えてきたぞ。
「それは、本当にあるゲームの話? それとも、昇平くんが考えたゲームの話?」
「ぼくが考えたゲームだよ」
やっぱり。
昇平は市販のゲームをやるだけでなく、最近では、それを真似たものを自分の頭の中で考えたり、パソコンや紙にゲームの場面を描いたりしている。時々、それを私にも説明してくれるのだが、何しろ、本人が頭の中で考えたものだし、説明のしかたも独りよがりなので、話を聞いていると、なにがどうなっているのか、さっぱり分からないことが多い。しかも、相手がどんなふうに感じているのか気がつかないから、相手の気持ちにお構いなしに、いつまでも話し続けているのだ。
「昇平くんがその話をしていたとき、Yくんは何か言った?」
「言った」
「なんて?」
「もういいから、って」
やっぱりね。
「そのとき、Yくんはどんな顔をしていた? 迷惑そうな顔だった? それとも、嬉しそうな顔だった?」
「迷惑そうな顔をしてた」
「それで、昇平くんはどうしたの? 話すのをやめた?」
「やめなかった」
「それで、Yくんが『もういいから』って怒ったんだね。どうして怒ったか、分かる?」
「わかんない」
あー・・・・・・やっぱりそうなのね。
もう一度、Yくんが迷惑そうな顔をしていたこと、もういいから、と言ったことを繰り返して、ヒントを出したけれど、やっぱり昇平は、何故Yくんが怒ったのかを理解できていなかった。
これじゃあ、トラブルも起こるはずだわ。

要するに、自作ゲームの話題を延々と話す昇平にうんざりしたYくんは、昇平に「もういいよ」と言ったものの、昇平が全然聞き入れないで話し続けるので、どうしようもなくなって「森村先生に言いつけるぞ」と言ったらしい。それで、昇平が怒って「おまえ、うるさいぞ!」と怒鳴り、それでケンカになったということのようだった。
さてさて。まったくもって、典型的なトラブルだなぁ。(苦笑)

と、笑ってもいられないので、昇平にその場面の意味を説明してやることにした。
まず、その時、Yくんがどういう気持ちでいたのか、を教えた。ゲームの話は、昇平自身には面白くて、いつまで話しても楽しいだろうけれど、聞いている相手によっては「たくさん聞いたからもういいよ」「今はもう聞きたくないよ」という気持ちになることがある、ということ。それでYくんは迷惑そうな顔をしていたし、「もういいよ」と昇平に言ったのだということ。でも、それでも昇平が話しやめなかったので、それで怒って「森村先生に言うぞ」と言ったのだということ。
そこまで説明して、昇平にまた聞いてみた。
「Yくんの気持ちはわかった? それじゃ、昇平くんはどうすれば良かったと思う?」
「おまえ、うるさいぞ、って言わないようにする」
いや、だから、それは最終的なことで・・・・・・(苦笑)

結局、昇平には、相手が迷惑そうな顔をしたり、「もうやめて」と言ってきたときには話をやめる、ということを教え、話をするときには、相手の表情やことばに気をつけるように、ということを話して、一連のやりとりを終えた。

   ☆★☆★☆★☆

今までは、昇平自身があまり友だちと関わりたがらなかったし、ことばも遅れていたから、あまり問題にならなかったのだが、やはり、人との関わりが増えて来るにつれて、この手の小トラブルが頻発してきたらしい。3年生も後半となると、まわりの子どもたちの社会性は飛躍的に伸びてくるし・・・。その中で、相手の気持ちに気がつけない昇平が、浮き上がってきたのだろう。

相手の気持ち、相手の様子に気を配りながら話をする、というのは、実際にはかなり難しい社会的スキルになる。自分が好きなことを話しているときには、なおさら相手の様子は目に入らなくなってくるし。
でも、将来社会で生きていくためには、相手の気持ちや都合に気を配る、ということは、どうしても不可欠な要素になってくる。学校や学童で起こる出来事に関しては、先生や指導員の方たちにお願いするしかないけれど、家庭でも、そういう場面に出会ったら、本人に分かるように説明していかなくちゃいけないなぁ、とつくづく思った。
相手は自分とは違う気持ちや考えを持っているのだということ。その違いは尊重しなくてはならないのだということを。
それが、昇平自身の持つ「違い」を守ることにもなっていくから。

先は長い。でも、できることをひとつずつやっていくしかないだろう。
いつかきっと君にもそれが分かる日が来るから。
いつかきっと、必ず・・・。

[04/12/14(火) 10:52] 日常 療育

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