昇平てくてく日記
幼児〜小学校低学年編
二つの別れ
3月は別れの季節。ゆめがおか森村学級にも、2つの別れが訪れる。
ひとつは、現在森村学級で一番古株のBくんが、来年6年生からは普通学級に所属することが決まったのだ。
「一度障害児学級に入れてしまうと、あとはもう普通学級に戻れなくなるんじゃないか」とか、「特殊学級に入れてしまったら、もう終わりだからね(何が終わり?)」などと言われたり聞いたりするたびに、「そんなことはないよ。特殊学級でも毎年1度必ずその子の状態を見直して、次年度はどの学級に所属するかを検討するんだよ。だから、特殊学級から普通学級に移る子だって出てくるんだよ」と答えてきたのだけれど、Bくんはそれを実証することになる。実際、Bくんは勉強でも生活でも、本当に落ちついていて、他の子たちのリーダー役としてしっかり活躍している。森村先生と協力学級(普通学級)の担任は、Bくんを普通学級に移籍することを見越して、協力学級での授業数を増やし、無理なく移っていけるように準備を整えていた。
学級のお友だちが減ってしまうのはとてもさびしいけれど、Bくんが普通学級に移っていくことは、それだけ実力が育ったということだから、とてもめでたいことだと思う。それに、国語だけはゆめがおかに通級してくることになっているから、まったくお別れ、という感じでもなくて、他の子たちも落ちついてBくんの移籍を受け止めていた。
とはいえ、普通学級に移ってからも、やはり大変なことは続くのだろうと思う。森村学級のときほどには、きめ細かい対応は望めないわけだし、自分自身の判断や力で乗り越えて行かなくてはならない場面も増えるのだろうし・・・。
おめでとう、Bくん。普通学級でもがんばってね。朝倉のおばさんは、Bくんと毎朝いろいろな話をするのが好きだったよ。Bくんは、歴史のことも他のいろいろなこともよく知っていたよね。それに、本当にがんばり屋さんだったね。6年生になってからも、ときどきまた話ができたら嬉しいな。
そして、もうひとつの別れは・・・森村先生の異動が決まったのだ。
新聞発表は今朝のことだったけれど、実はしばらく前から私はその気配を感じていた。なんとなく、急に先生が身の回りのもの整理を始めたり、子どもたちに春休みの宿題をまったく指示しなくなったり。
森村先生はすでに8年間この小学校にいる。6年までで異動になるのが原則なのだから、異例中の異例だったのだが、普通学級から特殊学級の担任に転向してからはまだ5年だったので、できればもう1年この学校にいてくれたら、と願い続けていた。もちろん、昇平が卒業するまでいてもらえたら最高だけれど、それはどうしたって不可能なこと。ただ、他の子たちのことを考えると、ぜひもう1年、ゆめがおかにいてほしかったのだ。
Bくんが普通学級に移ることは、少し前に親たちには教えられていたけれど、その後だって両学級の担任で話し合って、対応を考えていくことは多いだろうと思う。中学進学に向けた準備もある。森村先生には、ぜひBくんの卒業の姿を見送ってから、異動してもらいたかった。
それに、今年になって次々通級に来るようになった子どもたちのこともあった。やっと森村学級に登校できるようになったFちゃん。算数や国語に通級に来るようになって、学力がぐんと伸びてきた○くん、学校生活がとても落ちついてきた△くん・・・。どの子も、またその親も、森村先生と信頼関係を築き、その中で良く変わってきていた。森村先生が去った後も、この良い変化は続けられるんだろうか・・・? 信頼関係は、一朝一夕ではできてこないのだから、信頼できる先生が去っていくのは、本当につらい。
卒業式当日の朝、森村先生は子どもたちに成績表を手渡し、話をした。Bくんが来年度から普通学級に行くこと、春休みに注意してほしいこと、進級したらがんばってほしいこと・・・。
私は教室の後ろでその話を聞いていた。昇平は登校して1時間程度で下校になるので、「そのままお待ちになりますね?」と森村先生から言われていたのだ。・・・そう言われたこと自体、何を意味しているか分かる気がしたのだけれど。
森村先生が担任として「普通に」子どもたちと話せる最後の日に、先生は子どもたちに一番大事なことはなにか、を話して聞かせた。それは『絶対に、死ぬな』ということ。それが何より一番大切なことなのだ、と。そのために、事故に遭わないようにする。そのために、健康に注意する。そのために、他人を大切にする・・・。森村先生が何より大切に考えていることが、それ。先生が初めて担任した子どもを病気で亡くして以来、それは子どもたちに常に教えて続けているのだと聞いている。
ところが、その教えを聞きながら、昇平は何かを連想していたようで、にこにこ笑っていたらしい。たちまち、森村先生の雷が落ちた。たとえ親が後ろで見ていたって、森村先生は叱るべきときには本気で叱る。「こら!! これは笑って聞くような話じゃないぞ!!」 昇平はたちまち真っ青になって「ごめんなさい」と小さくなる。最後の最後に、また叱られたね、昇平。でも、それが森村先生が君に残していく最大のプレゼントであり、思いやりなのだということを・・・今の君にはまだ分からなくても、お母さんにははっきり伝わってきたんだよ。泣くまい、泣くまいとしていたのだけれど、涙がこぼれて止まらなくなって、どうしようもなかった。
その前日、最後の連絡帳に、こんなことが書かれていた。
「昇平くんは、たくさんの大きな変化の中、学校生活を送ってきました。学力の伸びはもちろんのこと、会話する力、状況に応じた行動等で、とても成長したと思います。鬼の森村の存在をやわらげてくださる、お母さん、おうちの方々のおかげと思っております。」
鬼の森村・・・森村先生は、よくこの表現を使っていらした。鬼のように厳しい存在、鬼のように厳しい指導。でも、それは、子どもたちが間違ったことを言ったりしたり、命に関わるような危険な行動をした時にだけ現れる鬼だった。
ほんとうに、なんて優しいなんだろう。なんて愛情深い、心の優しい鬼なんだろう・・・・・・
もう、今日はこれ以上、書き続けることができない。
涙でモニターがにじんで見えなくなってしまうから。
今夜はここまで。
[05/03/25(金) 21:01] 学校