昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

トラブル続出・3〜家庭でできること〜

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今回問題になったのは、昇平が思い通りに行かないとき、しょっちゅう口にする「死ね!」「殺してやる!」「やっつけてやる!」というセリフ。もちろん、本人の不愉快な気持ちを表しているだけで、本当に手を出そうという気持ちがあるわけではない。でも、これは社会的に許されないことば。森村先生にもずっと厳しく注意されてきたのに、いっこうに改まる気配がない。
それと、祖母の入院以来また出てきた「泥棒さん」。これが出てきたときには、昇平は不安定な気持ちでいるのだけれど、でも、やっぱり普通の人には伝わらない。
同じ問題かな、と考えた。
どちらも、自分の気持ちを適切なことばで表せなくているのかもしれない。

「死ね!」「やっつけてやる!」は、本当は「そんなのはイヤだ!」「ぼくの言うことを聞いてよ!」という強い感情のことば。
「泥棒さん」は「ぼくは心配だよ」という不安な気持ちのことば。
誰かに叱られたとき、自分に落ち度があると感じたとき、昇平がしょっちゅう言う「ぼくを殺してください!」というセリフも同じだ。これの本当の意味は「ごめんなさい、すごく反省しています」だ。

ことばの置き換えに、本格的に取り組んでみようか、と考えた。
昇平ももう4年生。体も大きくなってきて、幼い子から見れば、だんだん「強い」存在になってきている。その「お兄さん」が興奮して「ぶっ殺してやる!」だの「やっつけてやる!」だの言っていたら、その子は本気で怖がるだろう。そして、昇平に「乱暴者」「悪い子」のレッテルが貼られるようになってしまう。まして、大人になってまで、興奮するたびこんなことばを言っていたらどうなるか・・・その結末は火を見るより明らかだ。
「殺してください」だってそうだ。こんな時代だもの。うかつにそんなことばを口にしていて、何が起こるとも分からない。
本気で、「死ね」や「殺してください」をどうにかしなくちゃいけない時期になったのだ、と強く感じた。

まずは、最近出てきたばかりの「泥棒さん」から、置き換えを試みることにした。
昇平が母を不安そうな目でひしと見ながら言ってくる。「泥棒さんって言わないんだよね?」
そこで言ってあげた。「そういうときにはね、『心配だよ』って言うんだよ。昇平くんは心配な気持ちになると、泥棒さんって言いたくなるんだから」
「泥棒さん・・・」 泥棒さんって言わないんだよ、と母に言ってもらわなければ、その先には進めない。望み通りのことばを返してやってから、もう一度言う。「こういうときはね、『心配だよ』って言うんだよ」
「心配だよ」
「うん、大丈夫だからね」 昇平の頭をなでてやった。 うん。この方がずっと自然だ。昇平の気持ちが、すっと素直にこちらに伝わってくる。
その日、何度かこのやりとりを繰り返すうちに、昇平が「泥棒さん」と言いかけてから、「心配だよ」と言い直すようになってきた。そうこうするうちに、入院している祖母から、退院許可が下りた、という連絡も入ってきた。
少し明るい材料が見えてきたところで、この取り組みについて、ドウ子先生にも報告しておいた。

すると、今日の連絡帳に、こんなことが書かれてきた。


6月2日(木) 記録者:ドウ子

今日、算数をやっているとき、私に「泥棒さん」のような声の調子で「心配なんだよ」と言いました。
教えられた正しいことばを選べたんだぁ・・・と思い、「何が心配なの?」と聞くと、「おばあちゃんが本当に今日、退院してくるかどうか」との答え。「きっと大丈夫だよ」と言うと、それ以降は言いませんでした。やはり、おばあさんのことで不安だったのかな、と思うと同時に、教えられたとおり言葉を代えられるなら、「死ネ〜」的な言葉も、言わないでコントロールできる時期に来ているのでは、と思いました。


実際に祖母が退院してきてからも、昇平はまだ「泥棒さん」を言い続けていた。
言いかけて「心配なんだ」と言い換えることもあった。
夕食時には、調子が外れてしまったように、1人で思い出し笑いをしてばかりいるので、祖父から叱られていた。
2階に連れて行って落ちつかせてから、膝に抱いてやって、「おばあちゃんがまた入院しちゃうんじゃないかと思って心配なの?」と聞いてみると、「うん」と素直に答えた。それまでくすくすと神経質に笑い続けていたのが嘘のように、ひっそりと母の膝に顔を埋めていた。「大丈夫だよ。おばあちゃんは先生に診てもらうのに病院には行くけど、もう入院はしないからね」と言ってあげると、急に元気になってまた台所に下りていった。その後は、思い出し笑いも「泥棒さん」もなくなっていた。
ふと、不安になるたびに、やっぱり頭をもたげてくる「泥棒さん」。でも、「おばあちゃんがまた入院するのかも、って心配になってきたんだね。大丈夫だからね」と言ってあげると、それで止まる。そうか、本当にぴったりくることばで自分の気持ちを言い表して、その気持ちを受け止めてもらえると、昇平は落ちつくのかもしれない・・・と思った。

[05/06/03(金) 01:02] 学校 日常

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