学童と軽度発達障害〜学習会のご案内〜
今回のトラブルを日記に載せたのがきっかけで、学童指導員の鴨原先生と、軽度発達障害児の指導に関する話をしている。
発達障害の社会的な認知が広まるに従って、学童や児童館、放課後児童クラブにも、ADHDやアスペルガー、高機能自閉症といった診断を受けた子どもが入会してくることが増えているそうだ。そこで、学童(とひっくるめて呼ぶ)の指導員たちは、子どもの育ちの一環を担う者という自覚の下、よりよい指導と子どもたちの居場所作りを目ざして、発達障害についても研修を始めているのだという。ここ南東北では、今のところはまだ有志者による自主学習団体らしいが、(そして、他の地域でどんな研修・実践が行われているのか、私は知らないのだが)、この活動がどんどん広がっていってほしい、と心から願っている。学童は、そこに所属する子どもたちにとって、学校、家庭と並ぶ大きな社会になるわけだし、勉強もなければ家族もいない分、他の友だちと関わることが非常に多くなる場所だからだ。社会性の発達に遅れや困難を抱える発達障害児たちにとって、非常に有意義な場所だと言えると思う。
昇平を例にとろう。
彼は長い間、他人と関わることより自分自身の興味の対象を追求する方が楽しかったのだが、ここに来て、やっと他人へ関心の目を向けるようになり、面白そうなことをしている友だちがいると「まぜて」と行くようになり、他の子どもたちと一緒にお絵かきをしたり、共通の話題を話し合って(大抵はゲームの話のようだけれど)楽しんだり・・・ということをするようになってきた。
けれども、昇平はまだまだ人との関わり方が上手ではない。相手をする友だちも、まだ子どもなので、そんな昇平を上手にさばくことはできない。けれども、親がここに出しゃばってしまっては、本人の社会性を育てることにはならない。そこで、親ではない第三者が、責任と知識を持って子どもたちを見守り、必要な場面で仲介をしたり、声をかけたりする必要が出てくる。
昔ならば、どこの家でも遊びに来た子どもたちを指導したり、仲介してくれたりしたかもしれない。でも、今はもう、「よその子でも指導してくれる家」はとても少なくなった。まして、ADHDなどの障害を持った子どもたちだ。たくさん迷惑をかけるに違いないと思うと、親もよその家に我が子を送り出すのをためらってしまうことが多い。私も、昇平1人で誰かの家に遊びに行かせるのは、怖くてなかなかできない。
外で遊べば少しは迷惑が少ないかも、とも思うけれど、今時、公園で遊ぶ子どもたちの姿はほとんど見かけない。これは都会も田舎も共通だ。やっと外に送り出しても、同年代の子どもたちばかりで遊ぶ。昔のような異年齢集団ならば、グループ内でトラブルが起きても、年上のリーダー格の子が調停してくれて、上手に小さい子や手のかかる子を一緒に遊ばせてくれたけれど、今はそれも期待できない。それに、子どもたちがつくづく、子どもたちの社会性が育ちにくい時代になったなぁ・・・と思う。
そんな中、学童というのはとても貴重な場所だ。
遊びが中心の社会的活動をする異年齢集団。毎日学校からまっすぐそこに向かっては、夕方まで一緒に過ごす。しかも、指導員という大人が付き添っていて、必要に応じて調停をしてくれる。
単なる「親が仕事から帰ってくるまでの間、子どもを置いておく場所」ではない。今の日本社会に欠けてしまっている「子どもの社会性を育てる場所」になっているのだ。自分たちではなかなか社会性を伸ばしていけない発達障害児にとっても、とても意義のある場所だと言える。
ただし、そのためには指導員たちには発達障害の知識が絶対必要になる。学童の指導員たちが、発達障害について研修の必要性を感じてくれていることは、本当にありがたい、と心から思っている。
現実の学童の場では、「子どもがトラブルを起こしさえしなければよい」と考えられていることが多い、と鴨原先生は言う。
現に、鴨原先生自身が、去年は「昇平くんたち、発達障害を持つ子どもたちにパニックを起こさせることなく、安心して過ごせる場所作りをすること」を目標にしてきたのだという。
もちろん、それはとても大事なことだったと思う。特に、昇平は学年の途中で学童を変わって転入してきたので、そんなふうに安心できる場所を提供してもらえて、親子共々本当に助かっていた。今では昇平は自分の家の中にいるように落ちついて、学童でお絵かきをしたり、他の子と遊んだりして過ごしている。ちゃんと、宿題もやってくる。
けれども、発達障害児への対応は、そこで終わってしまってはまだ50%程度だと思う。
安心した環境の中で、さらにその先を目ざす。
友だちとなかなか上手に関われない。でも、一緒に遊びたい気持ちはある。では、どうやったら、本人も周りも無理なく楽しく過ごせるようになるか?
言われれば制服や鞄の始末などはできるようになった。宿題もちゃんとやるようになった。次は、言われなくても自分からやれるようになることだ。そのためには、どうしていったらいいか?
その子1人1人によって課題の内容は違うと思う。けれども、その子の将来を見越して、つまり、より良い「育ち」を考えて指導する、という意味では同じことだ。
今、鴨原先生はそんなふうに、発達障害児のもうひとつ上のステップを目ざした指導を模索しているところなのだという。
学童の指導は、学校とも家庭とも違った難しさを抱えるのだろうと思う。それだけに、がんばってください、と心から応援したい気持ちでいる。ありがとうございます、どうぞよろしくお願いします、と感謝の気持ちでもいっぱいになる。
そして、これは発達障害を持たない、「普通の」子どもたちにとっても同じように大事な指導になるんだろう、と考えている。
まだまだ社会での理解度が低い学童。
子どもの育ちの場としての認知と、社会的な支援がぜひ欲しい、と思っている。
【情報】
第2回 子どもの育ちを支援する人のための勉強会
「軽度発達障がいのある子どもの理解と支援のための学習会」
〜保護者と指導者の声を聞いて見ましょう〜
日時: 2005年6月19日(日) 10:00〜16:00
会場: 福島県総合社会福祉センター
内容: 午前の部 基調講演「軽度発達障がいと彼らの抱えるこころの問題」
午後の部 映像記録を見ながらのフリーディスカッション
対象: 教職員、児童館・放課後児童クラブ職員、子育て支援担当の方、保護者および関心のある市民・学生の方、他
参加費: 700円(当日申し込みも可)
連絡先: 「子どもの育ちを支援する人のための勉強会」実行委員会
TEL&FAX 024−544−1987
[05/06/07(火) 20:35] 日常 行政 療育