昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

とある自閉児と

先日、とある集まりで、高機能自閉症と思われるお子さんと一緒になった。これまでにも何度も会ったことのあるお子さんなのだが、パズルが得意、算数の計算が得意、でも自分特有のやり方があって、それ以外のやり方を教えられると強く拒否する、強要されるとパニックを起こす・・・と、かなり典型的。こだわりの行動もかなり見られる。

さて、その席で、わたしはたまたま部屋の中の人と話をしていた。もう帰るところだったので、話しながら後ろ向きで外に出ようとしたのだが、ちょうどそこへ、その子が外から部屋に入ろうとやってきて、私の背中にぶつかってしまった。
思いがけなかったのだろう。ぶつかった顔を手で押さえて、私を叩き始めた。けれども、その顔は笑顔・・・。
はっとした。その子はいつもニコニコ笑顔でいるのだけれど、よく見ると、普段の笑顔と違う。こわばって引きつった笑顔、とでも言うのだろうか。泣き笑いしているように、私には見えた。
「ごめんね、痛かったね。気がつかなかったんだよ」と謝っても、その子は私を叩き続ける。実際には、そう強くぶつかったわけでも、まして、ぶつかった拍子に転んだわけでもない。思いがけずぶつかったので、予想外のできごとにパニックを起こしかけていたのだ。
それで、その子の手を押さえながら「ごめんね。びっくりしたんだね、ごめんね」と謝った。
そうしたら・・・すうっとその子の表情が和らいだ。
そこで「痛いの取ってあげるね。イタイのイタイの飛んでけ〜!」とやってあげると、その子は「えいっ!」と最後にもう一発私を叩き、その手を上にあげて、「飛んでけ〜!」と言った。それでまた、いつもの穏やかな笑顔に戻った。
ああ、許してくれたんだな、と思ったら、私の口から自然と「ありがとう」ということばが出ていた。

その子は、喜怒哀楽すべての感情が、ほとんど笑顔になってしまう子だった。だから、怒っていても悲しんでいても、周囲の人間にはなかなか理解できなかったりする。ぶつかったときのショックだって、通常の感覚で考えれば「どうしてこのくらいのことで?」と首をひねりたくなる程度のことだ。

私も、その子に出会ったばかりの頃は、そういうことが分からなかった。何度も会って、様子を見ているうちに、最近やっと「こういうことかな?」と分かるようになってきたのだ。
その手がかりは、自閉児を持つお母さんたちのことばと、大人になった当事者たちの手記だった。ずっと長い間、いろいろな話を聞かされてきたけれど、「ああ、これがそういうことだったのか」とすごく腑に落ちて、それと同時に、それ以外のことまでも一緒に納得がいったような、そんな気がしている。

同じ軽度発達障害でも、ADHDと自閉症とではまた違う。昇平は、その子が何かというとすぐに殴ったりつかみかかってきたりするので、会うたびに「乱暴者だ!」と怒っている。「そうじゃないんだよ。あれはあの子のご挨拶なんだよ。ただ、その挨拶の仕方はよくないから、今、大人の人たちがいっしょうけんめい教えているところなんだよ」と、私は通訳にもなる。
なかなか周りから理解されにくい自閉症。でも、少しずつ分かってくれる人が増えたら、きっとその子ももっと生きやすくなるし、他の人とうまくやっていく方法も、きっと上手になっていくだろう。
あの子のサポーターがひとりでも増えていきますように。
明るくて優しいあの子の笑顔を思い出しながら、そんなことを考えている。

[05/06/17(金) 14:15] 日常

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