昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

相手の立場に立った説明

昨夜、昇平が急に私のところに来て言いました。
「○○ゲーム(ボードゲーム)を処分してちょうだい」
それは、しばらく前に昇平が「怖い」と言うようになっていたので、押入に片づけてあった。
「押入に入れてあるからいいでしょう?」
「え〜・・・」
あからさまに嫌な顔をする昇平。でも、それを処分しても、また次のものが嫌いになって「処分して」と来るのは目に見えているので、そこはOKできない。
「あれはお母さんのゲームなんだよ。だから、昇平くんには勝手に処分できないの」
すると、昇平はしばらく渋ってから
「ぼく、あの中のモンスターのカードが一枚どうしても怖かったから、捨てちゃった」
・・・なに?
昇平に言われて押入にしまったのは、もうかれこれ2か月近く前のこと。それ以来、昇平はゲームの箱にさわってもいないのだから、その前に勝手に捨てていた、ということになる。

実際のところは、カードが1枚なくても、ゲーム進行にはあまり支障はない。(もちろん、あった方は良いけれど)
でも、最近昇平がやたらと他人のものまで怖がって処分しようとしているので、これは言い聞かせる機会、と思って注意した。
あれはお母さんが自分のお金で買ったゲームであること、昇平くんは嫌いでもお母さんは好きであること、昇平くんのいないところでまた遊ぼうと思っていたこと、それなのに勝手にカードを捨てられていて、お母さんは怒った気持ちになっていること・・・。
「ごめんなさーい」
と昇平は頭を下げる。でも、その口調はあまり真剣みがない。叱られても、嫌いなカードを処分してしまった方が勝ち、と考えているのがわかる。
そこで、この言い方をしてみた。
「昇平くんは今、パソコンで○○ゲームをやっているでしょ? すごく楽しいでしょう? でも、誰かがあのゲームの中のモンスターが一匹怖いから、って言って、昇平くんのパソコンからあのゲームを消しちゃったら、どう思う?」
ちなみに、昇平はまだ「再インストール」という技術はよく分かっていない。
「いやだー!」
と昇平。
さらにたたみかけて言った。
「昇平くんは最近、ポップ○ミュージック(音楽ゲーム)のCDをいろいろ聴くのが大好きでしょう? でも、あの中の一曲が嫌いだから、って、勝手にCDを捨てられたら、昇平くんはどう思う?」
「絶対に、やだ!!」
「お母さんも、それと同じ気持ちなんだよ」

昇平は少しの間、返事をしなかった。
初めて、相手の立場を自分に置き換えて考えているのが、見ていて分かった。

「どうしよう?」
と昇平が言った。カードを捨てたのはもう2か月も前のことだから、今頃はゴミ焼却場で灰になってしまっている。
「弁償してください。まったく同じカードを買って返してちょうだい」
と私。
でも、実際にはそのボードゲームはもう絶版になっているので、どこでもまず手にはいるはずがない。それを教えると、昇平はますます困った顔になった。
「じゃ、どうしたらいいの?」
「まったく同じカードを作って返して。それならいいから」
「文字やなんかも、まったく同じ?」
「うん。まったく同じにして」
「できないよー」
昇平は困り切っていた。それはそうだ。怖いカードなど、暗記するほど見ていたはずがない。
そこで、このあたりで勘弁することにした。
「わかったかい? だから、他の人のものを勝手に処分しちゃダメなんだよ。処分された人はとても怒るし、それを返してちょうだい、って言われても、返せない場合がよくあるんだからね」
「はい」と昇平。
「たとえ嫌いなものがあっても、自分の見えない場所にあれば、それでいいことにしてちょうだいね」
「はい、わかりました!」
昇平の声が明るくなった。

ホッとしたように部屋を出て行く昇平の後ろ姿を見ながら、ついに『相手の立場に立った説明』が通用するようになってきたんだなぁ、とひそかに感無量でいた母だった。

[05/06/29(水) 09:29] 日常

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