昇平てくてく日記
幼児〜小学校低学年編
プライド・2
ふいに怖いモノを思い出しては、それをポイするというセリフは、相変わらず続いている。見ていると、ホッとした瞬間や、とても緊張したり不安になったときに、本人の意志とは関係なく口をついて出てくるらしい。「まるでことばのチックのようだね」とドウ子先生とは話し合っている。
学童に母が迎えに行くと、その瞬間にホッとするのか、必ずと言って良いくらい「○○ポイッ」のセリフが出てくるのだが、昨日はそれがちょっと違った。「○○ポイッ」は言ったのだが、そのあとで、妙にきっぱりと「ぼく、自分でポイするよ。自分で遠くに飛ばしちゃうよ」と言って、「○○ポイッ!! 30メートル飛んだよ」と言ったのだ。
初めてのことだったが、母にポイッの確認をしてもらわなくても、自分で怖いモノを本当に(心の中で)振り切ったようなので、「すごいね、自分でポイしたんだ。えらいねー」とほめた。
そのあと家に帰ったが、昇平は前の日にパソコンをやりすぎて時間オーバーしてしまい、いつもより30分以上も短いパソコンタイムになっていた。時計を前に置いて時間を守るように言い、今日の家庭学習(チャレンジ)を指示して、私は台所へ降りていった。
夕飯の支度をだいたい終わらせ、あとは家族が揃うのを待ってから食事にしよう、と2階に上がると、昇平が得意そうに言った。「ぼく、パソコン自分で終わらせたよ。ちゃんと時間を守ったよ」
本当に、時計は決められた時間のところで止まっていた。昇平の様子から見ても、本当に時間を守ったのは間違いなさそうだった。そこで、たくさんたくさんほめた。
「えらいねー。ちゃんと時間を自分で守れたんだねー。宿題は学童で終わらせてきたし、○○ポイッも自分でできたしね。今日はすごいね」
でも、そうほめながらも、昇平がチャレンジをやり忘れているのは横目でチェックしていた。でも、それを指摘すると、きっと嬉しくないだろうと思ったので、こう言ってみた。
「そういえばチャレンジはやったかな?」
「あ、忘れた!」
と正直に驚きの顔になる昇平。ところが、次の瞬間、こう言った。
「間違った。チャレンジもちゃんとやったよ。さっきやったんだ」
「あら、やったんだー。えらいねー」
でも、どう見てもチャレンジはやっていない。すると、昇平はさりげない様子でチャレンジを手に取り、「ぼく、あっちの部屋に布団をしいてくるね」と言って、部屋を出て行った。そのまましばらく戻ってこない。そう、隣の部屋の机で、チャレンジをやっていたのだ。(笑)
その間、私は洗濯物をたたんで、のんびりと待っていた。もちろん、向こうの部屋をのぞきに行ったりはしない。
すると、10分近くたったところで、昇平が部屋に戻ってきた。手にはまたチャレンジを持っている。
「お母さん、ぼく、さっきちゃんとチャレンジをやっておいたんだよ」
と手渡してくる。・・・いやはや、吹き出しそうになるのをこらえるのに苦労した。
でも、顔ではまじめくさって
「そうかー。今日は本当にえらいねー。どれどれ、すぐに答え合わせをしてあげようね」
1問間違いがあって、そこを指摘すると、ちょっとだけ怒ったが、すぐに機嫌を直して答えも直して、その日の課題をすっかり終わらせると、満足してテレビゲームを始めた昇平だった。
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今日になって、昇平がなぜそんなにいろいろがんばっていたのか、わけが分かった。
学童の鴨原指導員はこの日記を読んでくれているのだが、先日の「プライド」を見て、昇平をお兄さん扱いすると良いかもしれない、と考え、昨日はおやつの前にテーブルを拭くという仕事を「昇平お兄さん」に頼んでくれていたのだ。
最年長者ということで先生から仕事を任されて、昇平は鼻の穴を広げながら、張り切ってたくさんのテーブルを拭いていたそうだ。
その誇らしい気持ちが、帰り際の「自分でポイッするよ」のことばになり、さらに家でのがんばりにつながっていたのだ。
今日は鴨原先生は「昇平お兄さん」に、行儀の良い子が揃っているテーブルから、手を洗っておやつをもらいに行って良い、と言う役目を与えてくれたらしい。ちょうど全員にOKを出し終わり、昇平自身も手を洗いに行ったところへ、私が迎えに行ったのだが、私の顔を見たとたん、昇平がまた言った。「○○ポイッ・・・自分で遠くにぶっ飛ばすからね。○○ポイッ!・・・10メートル飛んだよ」 ちょっと誇らしそうに、ニッコリ笑って、それっきり、後はもう「ポイ」を口にしなかった。
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そういえば、連絡帳には、昇平が1年生のSちゃんと一緒にビンゴゲームをしたときに、やり方がよく分からないSちゃんのために出た数字の所に丸印をつけてあげたこと、でも、数字にでかでかと丸を書くのではなく、(Sちゃんが自分でもやれるように?)数字の下にひかえめに小さく○を書いてあげていたことが報告されていた。
「昇平くんのお兄さんぶりが、なんだかとても面白いです。」・・・と。
学童でお兄さん扱いされるようになり、学校で1年生の子にお兄さんらしく振るまううちに、本人の中にまた何かが育ってきているのが見える。それは、おそらく「プライド」だろうと思う。
自分を大したヤツだ、と自分で認められる心。自分を自分自身に胸張れる気持ち。
それが、行動のがんばりにつながり、不安な気持ちさえ薄れさせてくれるらしい。
なんだか、本当にすごいな・・・。
なんと表現していいのかよく分からないのだけれど、そう感じている。
[05/07/07(木) 21:19] 学校 日常