昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

フリー参観・2

【2校時目―体育】

さて、2校時目は協力学級にまざっての体育。昇平は4年3組から体育館へ行ったが、私は直接体育館に向かった。
昇平はどこかな〜? ・・・ああ、いたいた。列に並ばないでふらふらしている子。あれが昇平だ。(笑)
体育は1組から3組まで合同なので、百人近い子どもたちが体育館に集まっている。どうやら3組が今日の準備当番らしく、マットを運んで敷いたり、跳び箱を協力して運んだりしている。が、昇平はどうも別のクラスのあたりをうろうろしていて、準備を手伝う気配がない。そのうちに、「ここじゃないぞ」というように、そこのクラスの子に押し返されて、「追い出された〜!」と母の元に訴えに来た。いや、それは母じゃなくて先生に言うことでしょ? それに、君がいた場所は違うクラスなんだから、追い出されて当たり前だと思うよ。
結局、準備運動が始まってからも、昇平は自分の場所がわからず、まわりの子どもたちに押したり引いたりされて、やっと自分の定位置につくことができた。

準備運動の次は、小学生に大人気のアルゴリズム体操。子どもたち、音楽に合わせて大喜びで体を動かしている。昇平も、体の動きそのものはあまり上手ではないけれど、笑顔を見せながら、皆と一緒に動いていた。
何度か全体で動いた後、今度は隣の子と二人一組になってアルゴリズム体操。これは前の人を後ろの人が少し遅れた動きでついていく、というものなので、ジャンケンで前と後ろを決める。「大きく動くと間が離れ過ぎちゃうから、小さく動くように」とR先生からみんなに指示があった。見ると、昇平は前の役。後ろに女の子がついていた。あら、あらら・・・昇平、動きが大きすぎるよ。どんどん女の子との間が離れてしまう。曲が終わったときには、ペアの女の子との間は十メートル以上離れていて、振り返った昇平は、誰が自分のペアだったかわからない状態になっていた。(注:昇平は人の顔を覚えるのが苦手なので、よほど親しい友人でないと顔の見分けがつかない。)
次は、前と後ろを交代してのアルゴリズム体操。昇平、誰とくんでいいのかわからなくて、うろうろ、うろうろ、うろうろ・・・。ここで、介助の西尾先生と担任の弓子先生が気がついて飛んできて、最初とは違う相手だったけれど、空いていた男の子と昇平を組ませてくれた。

この一部始終を見ながら、私は首をひねっていた。なんだかおかしいなぁ。いつもこんなふうに、昇平はうろうろしているんだろうか? 西尾先生もついていらっしゃるのに? 昇平がいつもこんなふうに困っていたら、見逃すような先生たちではないはずなんだけど・・・。

授業が終わってから、弓子先生と話をして、理由がわかった。いつも、体育の時間には男の子同士、女の子同士で組んできたのだけれど、今日は初めて男の子と女の子という組み合わせで授業をやっていたのだ。
昇平は自分の位置を把握するのがとても苦手で、すぐに居場所がわからなくなってうろうろしてしまうのだが、クラスの男の子たちは、そんな昇平の特長をよく知っているから、押したり引いたりして昇平のいるべき場所まで連れて行ってくれる。ところが、女の子たちはあまり昇平と関わったことがなかったので、そういう特性も、フォローのしかたも、今ひとつよくわからなかったのだ。
実際、男の子と組んでからの昇平は、場所がわからなくなっても、すぐに男の子たちに助けられて、自分の場所に移動していた。男の子たちは元気なので、見た目は、まるで突き飛ばされたり、乱暴に腕を引っぱられたりしているように見えるのだが、昇平自身が、そうやってみんなが助けてくれているのだとわかっているので、嫌がることもなく、むしろニコニコとしていたりする。・・・ホント、いつも昇平がお世話になってます。みんな、ありがとうねぇ。
今までは、そうやって男の子たちばかりにフォローしてもらってきたけれど、これから高学年に向けて男子と女子の組み合わせの活動も増えてくるから、女の子たちにも昇平くんのことを知ってもらうようにしていかなくちゃいけませんね――と弓子先生と話し合った。
非常によい場面を見学できたと思う。(笑)

この、場所がすぐにわからなくなる、という昇平の特長は、やはり困難の元になることがとても多い。そもそもの原因は、人の顔を覚えられない、という特徴から来ている気がする。体育館のように机も椅子もない場所になると、友だちの顔を覚えられない彼は、自分の場所の目印になるものを失ってしまうのだ。体育は、順番がどんどん回って、列が移動していくことが多いし、動きも多いから、絶対的な空間位置は、覚えても意味がないのだ。
どうしようもなければ、必ず昇平が組むべきバディを決めて、その子に目印でも背負ってもらうしかないのだけれど、今の所、まわりのお友だちがフォローしてくれているので、それでなんとか過ごせているらしい。
体育の授業を見ていると、活動そのものは、友だちがやることをよく見て、それを真似してやっている。長縄飛びも、マット運動も、跳び箱も、上手ではないけれど、ちゃんと参加できていた。昇平の順番が後ろのほうなのも、他の子がやることをじっくり観察する時間がとれて良いようだった。時々うまくできると、にこっと嬉しそうな顔をしていた。
集団の中というのは、昇平にとっては、確かに、居場所がわからなくなりやすい困難の多い場所なのかもしれない。
けれども、同じ集団が、昇平に「どうやったらいいか」という見通しを与えてくれるし、みんなと一緒に同じ活動をしていることで、昇平の中に自信も育んでくれている。
だとしたら、場所が見つからなくてうろうろしているだけで、「集団はこの子には合わない」なんて簡単に言うべきじゃないなぁ・・・と考えた。
集団のメリットとデメリットを天秤にかけて、メリットが多いならば、デメリットのフォローを考えながら進めていくのがいいんだろうな。

45分間の授業の間、昇平は最後まで、皆と同じように体育に参加していた。
チャイムが鳴って、全体が集まって、またR先生が指示を出した。「3組さんが片づけをしてください!」 すぐに3組の子どもたちが道具の片づけに走ったが、昇平はさっさと自分のクラスへ帰っていこうとした。あわてて西尾先生が追いかけて連れ戻し、マットの片づけをしているところを、一緒に手伝わせてくれた。
たくさんのお友だちや西尾先生に助けてもらいながら、がんばっているんだね。
うん、とてもいい授業を見せてもらったよ。

[05/09/30(金) 14:14] 学校

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