昇平てくてく日記2

小学校高学年編

「見通しを立てること」の先にあるもの・2

 昨日は病院の診察日だったので、雨が降りそうなときに昇平が「雨が降ったらどうなるの?」としつこく繰り返して尋ねる件を、主治医に相談してみた。
 先日の「『見通しを立てること』:の先にあるもの」でレポートしたのは交流会の前日のことだったが、それと同じようなことが学校でしばしば起こっている、とドウ子先生から知らされたからだ。昇平は休み時間ごとに校庭のブランコで遊ぶのを楽しみにしているのだが、雨が降りそうな日になると(あるいは小雨が降っていると)、朝から何度も「雨は降るの?」「今日はブランコできるの?」と担任に尋ねるのだそうだ。

 まず、主治医に交流会の前日の様子を話し、雨天時のプログラムを説明したけれど、それでも納得していなかったので、雨が降ってほしくないという気持ちの表れなんだろうと思って天気予報を見せたら、それを見て安心したこと、それでも学校に行ったら雨が強く降り続けていたので、また不安になったらしく、学校でも何度も「雨が降ったらどうなるの?」と言い続けていたこと、を伝えた。
 何か楽しみにしている屋外活動があるときに、雨が降っていたり、降りそうになったりすると、「どうなるの?」としつこく言い続けて、いくら説明されても納得しないことへ、どう対応したらよいのでしょうか、と尋ねたら、主治医がこう答えた。
「ヒントはすでにお母さんの話の中にありましたよね」

 昇平が何度も「雨が降ったら……」と言い続けるのは、確かに、「雨が降って楽しみにしている野外活動ができなくなるのは、どうしてもイヤだ」という気持ちがあるから。だから、その気持ちのほうを受け止めて、「そうか、野外活動が楽しみだから、昇平くんはどうしても雨が降ってほしくないんだね」とことばにして言ってあげるといいですよ、と。
 気持ちの正確な言語化。それを相手が言ってくれることで、気持ちが受け止められた、と感じるだろう、と。

 でも、それでもやっぱり雨が降るのはイヤだから、たとえ言語化してあげても、同じように言い続けると思うんですが。そういう場合には、どうしたら……?
「気持ちがね、なかなか切り替えられなくなっているんですよ。だから、雨が降ったときのことは、次の朝、本当に雨が降ったら考えることにして、『今は晴れた時の、楽しいことだけ考えているようにしようね』と言ってあげて、翌日、雨が降っていたら、『雨になっちゃったから、今日はこれこれこういうスケジュールで活動するよ』と言ってあげるんです」
 なっ、なるほどっ!!!

 特に不安なことがあると、なかなかそこから気持ちが切り替えられなくなるのは、昇平の特長。その時に、「そのことは今は考えない」「楽しいことや自分の好きなことを考えていなさい」とは、私もすでに何度も言い聞かせていたし、本当に昇平もそうやって気持ちを切り替えることがある。だとすれば、雨が降りそうなときの不安な気持ちにも、この手は使えるに違いない!
 どんなにイヤでも、その状況が起きるということは、しばしばある。そういうときには、どうなるだろう、どっちだろう、と不安な気持ちを抱えながら、決定の時を待つしかない。
 そんな不安に人一倍弱い体質ならば、「とりあえず、うまく行ったときのことを考えていて」「ダメだったときには、それならどうするか、をイメージするといい」ということなんだろう。今からダメだったときのことばかり考えていたら、不安ばかり募って、本当に落ちつかなくなってしまうものね。

 これは、雨の時だけでなく、いろいろな不安の場面で応用できそうだな、と感じた。
 いや、もしかしたら、気がつかないうちに、すでに少しずつこのやり方を取り入れていたのかもしれない。先日「死後は無の世界になるの?」と不安がった昇平に、「お母さんは天国があって、そこに行けると思うよ」と言うことで、とりあえず不安を収めることができたように。
 今は母や担任のような、そばにいる大人たちが不安を収める手伝いをするけれど、やがてはそのやり方を身につけて、自分で自分の不安を抑えられるようになっていくのかもしれないね。……きっとそうだね。
 というわけで、「雨が降るの?」への対応については、連絡帳を通じてドウ子先生にお知らせした。

 今日は朝から本降りの雨。理科で校庭に水を流して川の働きの実験をするわけだったのに……と今朝も昇平はぶつぶつ言っていた。
「そうか、残念だったねぇ。でも、きっと次の理科の時間には晴れて、実験ができるよ」
 主治医のアドバイスを思い出しながら、そんなふうに話しかけたら、それ以上は文句も言わずに昇平は登校していった。(でも、やっぱり少し残念そうだったけれど。)
 こんなふうにして、少しずつ自分の不安との付き合い方も身につけていけるといいね……。
 傘をさして昇降口に向かう昇平の後ろ姿を見送りながら、そんなことを私は考えていた。

[06/10/06(金) 09:53] 学校 療育・知識 発達障害

[表紙][2006年リスト][もどる][すすむ]