昇平てくてく日記2
小学校高学年編
学習発表会への道〜よさこい編〜・3
さて、いよいよ10月21日の発表会当日。
私は体育館のかなり前の方の場所に座ってステージを見守った。カメラもビデオもなし。とにかく、昇平がやっていることを、自分の目でしっかり確かめてあげようと思っていた。
5年生ともなると、発表の順番はかなり遅くて、最後から2番目。でも、ゆめがおかには2年、3年、5年、6年と複数の学年に渡る子たちがいるし、友人のお子さんを見る楽しみもあるので、全然退屈しなかった。どの学年も工夫を凝らした舞台で、一生懸命練習をした跡がはっきり見えていて、ああ、いいな、いいな、と感激しまくっていた。見に来た保護者たちも、どの学年にも熱い拍手を送っている。
でも、この学校も昇平が入学した当時はこうじゃなかった。親はビデオを撮るのに良い場所が取りたくて早々と体育館の前に並ぶけれど、我が子の出番が終わるとどんどん帰ってしまって、最後の6年生の発表の頃には客席は閑散。6年生だって小学校最後の発表会のために一生懸命練習してきているのに、これではあんまりかわいそうだ、と思って、担任を通じて学校に訴えたほどだった。
同じような感想を持った人たちがいたのだろう。その後、学校からも保護者から、よその子どもたちの頑張りもしっかり見てあげよう、という動きが起こり、最後まで客席に残る人数はどんどん増え、とうとう今年は最後まで立ち見がずらりと並ぶ大入り満員になった。
後から聞いた話でわかったのだが、「今年の学習発表会は素晴らしい発表ばかりだ」「特に、5年生の群読や6年生の劇がすごくいい」という話が、子どもを通じて親たちに伝わっていたらしい。子どもたちと先生たちが一緒になって一生懸命良い舞台を作る、それを見て保護者が熱心に声援を送る、それがさらに子どもたちや先生たちを励ます――そういう良い循環が、この学校に生まれているんだろうな、と思った。
ちなみに、この学校では、子どもの出番の場面や位置について、ひとりずつ事前にプリントで保護者に知らせている。(位置に関しては、子どもが自分でそれぞれプリントに書き込むようになっている) これもとても親切で良いな、と思っている。
というところで、本題の昇平たち5年生の群読「おまつり」。
なんと、いきなり本物の笛、太鼓のおはやしから始まった。ステージわきで、子どもたちが本当に演奏しているのだ。これには仰天。すごい本格的!
すると、体育館の後ろのドアが開いて、手作りのおみこしが2台入ってきた。それに続いて、赤や青のそろいのはっぴを着て、豆絞りのはちまきをした子どもたちが、花やうちわや、よさこいの鳴子を手に入場。客席の両脇を通り抜けて、ステージに向かっていく。昇平の出てくる場所も、プリントでわかっているから見守っていたら――いたいた、いました。鳴子を手に歩いてくる。 ステージ下をみこしと一緒に練り歩いてから、ステージ上に上がっていく。その際に、昇平がきょろきょろしていた。私を捜していたのだ。なので、思わず『ここだよっ』と(声は出さなかったけれど)片手を上げて見せたら、一瞬にこっとして、あとはすました顔で舞台に上がっていった。
発表は本当に素晴らしかった。「わっしょい」のかけ声は迫力あるし、途中で全員で踊るよさこいも圧巻。大うちわのひとつを、ゆめがおかのL子さんが持っていたけれど、重いうちわに負けることもなく、本当にく一生懸命動かしていて、雰囲気は満点。昇平の姿も、私が前に座っていたおかげで、ドウ子先生が心配するほどうちわに隠れてしまうこともなく、よく見えていた。
昇平が踊るよさこいは、まあ、周囲の動きと比べれば、やっぱりピシッとは決まらないけれど、それでも本当に良く動いていたし、なにより、楽しそうな笑顔が素晴らしかった。
群読の部分でも、今日は全然耳ふさぎをしなかった。口も良く開いている。校内発表会で一度経験してきているし、その後にもまた特訓したから、本当に自信がついたのだろう。
昇平は全体の中でまったく目立たなかった。本当に、5年生の一員として、発表の中に混じっていた。このことのすごさ、素晴らしさは、昇平に関わった人間でなければわからないかもしれないな……。
発表会が終わってから、会場にドウ子先生を見つけて、心からお礼を言った。
「いや〜、ホントに最初、どうしようかと思いましたよ。よさこいを全員でやるって言われても、あのポーズも、このポーズも、片足ではねるこの格好も……なんにもできないんですからね」
だから、昇平くんも我々も必死でしたよ、と言うように、ドウ子先生が笑ってそんなことを話してくれた。
でも、そんな子どもがゆめがおかには5人もいる。その5人が5人とも、発表会ではきらきらと眼を輝かせて、自信に満ちた発表を見せていた。本当にどれほどの努力と苦労だったんだろう、どれほどの熱意を先生方は子どもたちのために注いでくださったんだろう、と、ただただ感心するばかりだった。
――うちの先生方は、ほんとうにすごい。
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発表会が終わってから、昇平たちは絵日記形式で思い出を書いた。昇平は、すらすらとこんな感想を書いたらしい。
「ぼくは、五年生の『おまつり』をやりました。最初は、おみこしをやりました。そして、群読を二回やって、よさいこいをやりました。とてもがんばったかいがあったのでよくできました。」
学習発表会などは、子どもによっては非常に負担になる場合があるから、どの子にもこんなふうに特訓するのが良い、などとは私は思わない。皆と同じにできることがなにより素晴らしい、とも思わない。
でも、その子がみんなと同じように自分もがんばりたい、みんなと同じように発表会に参加したい、と考えていたら、そのときにはその子の気持ちを汲んで、苦手な部分に手を貸して、皆と一緒にできる体験をさせてもらいたいと思う。
皆と同じが難しい子でも、何らかの形で一緒に参加する経験ができるとしたら、その工夫を考えてもらいたいと思う。
「やりとげた」という実感は、本人の中で自信に変わる。そして、自信は力を生む。
学習発表会の成功を境に、昇平の言動が、ぐっと大人びてきた。いろいろな面で積極性が出てきて、頼もしさが出てきている。時々、相手を思いやるようなことばも口にするようになった。
今年も、学習発表会の練習を通じて、一回りも二回りも成長した昇平だった。
[06/11/25(土) 07:40] 学校 発達障害