昇平てくてく日記2
小学校高学年編
離任式に〜特別支援教育の広がりを願う〜
今日は県内の公立小中学校の先生方の離任式だった。
昇平に関わった先生方では、協力学級担任の岩幡先生と、「身近な特別支援教育」の記事に書いたN先生が異動になられた。岩幡先生はご栄転。とてもおめでたいことではあるけれど――6年生になってもぜひ受け持ってもらいたかったので、とても残念なことでもあった。
学校まで見送りに行った。
まず昇平を学校へ送ってから、去年通級していたHくんのお母さんを迎えに行って、改めて学校へ。
このお母さんとも、なんだかんだで、もう長いおつきあいになる。昇平とHくんの弟くんとの相性があまり良くない時期もあって、昇平が叩かれたり、かみつかれたり、逆に昇平がその子へ暴言を吐いたり……とトラブル続発の時期もあった。最近は、双方の子どもたちがずいぶん大人になって、親の方もゆったり構えていられるようになった。共に苦節を乗り越えた仲間同士? 腹を割った話もできるようになっている。子どもたちも大人になったけれど、我々親だって大人になったなぁ――と、見送りの時間を待つ間、Hくんのお母さんとおしゃべりをしながら、ふと考えてしまった。一生懸命なんとかしようと取り組んでいけば、時間はかかっても、必ずその成果は目に見える形で現れてくるんだね。
そして、同時に、親同士が理解し合えるように、と絶えず働きかけてくれていた、学校の先生方の陰の力も感じた。森村先生、ドウ子先生、弓子先生、岩幡先生……ご心配をおかけしましたが、私たちの子どもたちは、今ではこんなに仲良しですよ。親も仲間同士ですよ。(笑)
今日は朝から土砂降りの雨。離任式が終わる頃には雨も上がったけれど、校庭はびしょ濡れのぬかるみ。恒例のお見送りは校舎の中で行われることになった。
学校の廊下にずらりと二列に並ぶ子どもたち。その間を離任していく先生方が通り抜け、子どもたちと握手してはことばをかわしていく。親たちは列の終わりの、職員玄関の前あたりに並んでいたけれど、私は、昇平が並ぶ5年2組の子どもたちのそばにいた。
岩幡先生は、自分のクラスの子どもたちのところにたどりついた頃には、もうすっかり泣き顔だった。子どもひとりひとりと握手をして、ひとりずつに声をかけていく。本当に子どもたちをよく見ていた先生だった。かけていることばも、ひとりずつで違っている。昇平も先生と握手をして、たくさん何かを話していた。
そのあとで、岩幡先生は私にも手を差し伸べてくださった。
「お母さん、すみません。本当はもう一年間昇平くんを見たかったんです……。でも、昇平くんは本当に成長しましたからね」
ありがとうございます、本当に先生のおかげです――先生の手を握り返してそう答えるのがやっとだった。
5年生になって、授業中に暴言を吐いたりパニックになったりしていた昇平をどう扱ったらいいだろう、とドウ子先生とも一緒になって、真剣に考えてくれた先生だった。普段は西尾先生と一緒に授業を受けに来る昇平が、都合で昇平だけで参加したときには、「昇平くんが集中できる授業」というのを本気でやってくれて、授業が終わってから、ドウ子先生の肩にすがりつき、「気疲れした〜!」とおっしゃったという。ドウ子先生からその話を聞かされたとき、思わず笑って、それから、ああ本当にありがたいな、と思った。
二月の授業参観で見た理科の授業は、本当にわかりやすい内容で、子どもたち全員が積極的に実験に取り組んでいた。ちょっぴり実験に入りにくそうにしていた子には、岩幡先生がさりげなく声をかけ、その子に興味を持てる役割を振っている場面も見た。その子は、その後はニコニコしながら実験をしていた。障害なんて全然ない、ごく普通のお子さんだったけれど。
これだなぁ、とつくづく思った。特別支援教育っていうのは、昇平のような診断名を持つ子どもたちだけのものじゃないんだよね。障害がある子も、ない子も、どの子も理解のできる授業、生き生きと参加できる学校生活を目ざすものなんだよね。
特別支援教育っていうのは、全校生徒みんなのものなんだ。
昇平に掃除の時に箒の使い方を具体的に丁寧に教えてくださったN先生も、花束をたくさん抱えて通っていかれた。
ほとんど話したこともない先生だったから、心の中だけでそっと感謝しながら見送ろうと思っていた。
そうしたら、N先生の方で私を見つけて、手を握ってこうおっしゃった。
「ホームページ読みました。あんなふうに評価していただいて……ああ、こんな風に見てくださる方もいるんだと思って、身が引き締まる思いでした。あのページはプリントアウトして、ずっと取っておきますから」
本当に思いがけないことばを聞かされて、私の方も感激してしまって、思わず涙がにじんだ。
この学校には、本当に素敵な先生方が大勢いる。
それは、子どもひとりひとりをよく見てくれる先生。当たり前のことに丁寧に取り組んでいける先生。そして、ひとりだけで抱え込んでしまわずに、同僚の教師と力を合わせていくことができる先生。
これが特別支援教育の姿なんだと思う。
本当に、そう思う。
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ここまで来る間に、本当に大勢の先生方との出会いがあった。
良い先生方との別れは、いつもとてもつらいけれど、それは新しい先生との出会いの始まりも生む。
新しい先生との関わりの中で、子どもはまた、成長していく。
離任する先生方も、異動先でまた、培ってきた教育の力を発揮されていく。
学校って、すごいな、と思う。
平成十九年度から、全国の公立小中学校で特別支援教育が始まる。
それは、本当に当たり前なこと。派手でもなければ、目を見張るような素晴らしい成果を出すことでもない。
地味で、地道で、ささやかで――でも、とても暖かい関係を、教師と子どもとその親の間で作り上げていけるものなんだろう、と感じている。
Hくんのお母さんも、お子さんがお世話になった先生方に心からの感謝を告げていた。
一生懸命の気持ちは、必ず相手に伝わっていくね。
こんなふうにして特別支援教育が広がっていくといいな、と心から思った。
[07/03/30(金) 13:57] 学校 発達障害