昇平てくてく日記2

小学校高学年編

歯を抜いてきた

 昨日の夕方、歯医者に行ってきた。乳歯が抜けきらないうちに永久歯が顔をのぞかせはじめていたから、乳歯を抜くために。
 「春休み(前)の日記」に書いたとおり、急なことで本人がパニックを起こして、「それでは来週」ということになったのだけれど、一週間の間に昇平も覚悟を決めていて、「大丈夫?」「麻酔の注射、痛くない?」と心配しながらも、ちゃんと診察台に上がっておとなしくしていた。私もその体を押さえている必要はなかった。
 先生も、今回は昇平にやることを声かけしていってくださった。「それじゃ麻酔を塗るからね」「麻酔(注射)をするよ」「さあ、それじゃ抜くからね」
 注射をするときだけ、昇平が聞いた。
「痛くない?」
「針を刺すとき、ちょっとだけチクッとするかもね」
「いやだぁ!」
 なので、あわてて私が口をはさんだ。
「大丈夫だよ」
 大丈夫。耐えられないような痛みではなかったので、昇平はまったく騒がなかった。痛みに顔をしかめることさえなかった。歯を抜くときもスムーズで、全然問題なかった。
 そう。気持ちさえ決まって落ちついていれば、キミはちゃんとできるんだよね。

 でも、と考えた。
 昇平はそんなふうに、あらかじめどういうことをするのかをわかって、それに覚悟を決める形で臨むのが一番スムーズに行くのだけれど、子どもによっては、そういうやり方が逆効果になる子もいるよねぇ、と。
 あらかじめ何をされるか聞かされると、それが逆に不安を招いて、怖くなってしまう子。予告されることで、逆にパニックを起こす子。どんなに覚悟するための時間を待っても、落ちつくことなく、抵抗し続ける子。それは本当に、その子どもによってそれぞれなんだろう、と。
 うちの子にはこのやり方が合う、という方法を、親、特に母親は経験でなんとなくつかんでいる。でも、先生の方は、本当にいろいろな子どもたちを見てきているわけだから、目の前にいる「この子」がどういう子なのか、どういうやり方が合う子なのか、それを瞬時に見極めるのは大変だろうな、と思った。

 学校の先生もそうだけれど、歯医者さんも同じだね。「これをすれば絶対OK」という正解はない。
 ただひたすら、目の前にいる「この子」を見つめて、短い時間の中で、「この子にはどうすればいいんだろう?」と考え続けなくちゃならない。ひとりずつで、適する関わり方は違うから。
 自分自身にそれができるだろうか、と考えたとき、「先生方、本当にご苦労さまです」と言いたくなってしまった。

 あっけなく歯が抜けて、気が抜けたような顔をしている昇平に話しかけた。
「ね、痛くなかったでしょう?」
「うん、全然痛くなかった」
「これをぜひ覚えておいてね。歯を抜くときには、麻酔をちゃんとするから痛くないんだ、って。きっとまた乳歯を抜くようなことがあるから、その時まで忘れないでいてね」
 そうすれば、思いがけず抜歯することを言われても、きっと、パニックを起こさずに治療してもらえるようになるから。

[07/03/31(土) 05:05] 日常 療育・知識 発達障害

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