昇平てくてく日記2

小学校高学年編

5月(2)〜気持ちを巻き込まれないために〜

5月7日(月)   天気:晴れ

「ドウ子先生の連絡帳から」
 今日はL子さんがちょっとしたことで機嫌が悪くなる出来事があったのですが、今回は、昇平くんは少々表情を曇らせはしたものの、反応せずにいられました。“友達の気分の変化に一緒になって怒ったり騒いだりする必要はない”(毎回、当の本人以上になってしまいますので・・・)ということが、だんだんわかってきているように感じます。

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 家でも、兄ちゃんが怒ったり機嫌を損ねたりするたびに、巻き込まれて怒ったり興奮したりしている昇平。
 そのたびに、
「キミには関係ないことだよ」「お兄ちゃんはお兄ちゃん、昇平くんは昇平くんだよ」
 と気持ちを切り離すように言い聞かせているのだけれど。
 それが少しずつ実を結んできたのならば、嬉しいけどなぁ。

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5月8日(火)   天気:晴れ

 今日は避難訓練があったが、去年は予告なしでもうまくできたのに、今年はいつベルが鳴るかと非常に不安がっていた、と連絡帳に書かれてきた。訓練そのものは上手に参加できたらしいけれど、事後指導にチビまるこちゃんの火災予防のビデオを見ようとしたら、また大抵抗。「本当は怖いんです」と言っていたらしい。実際に見始めたら、面白い内容だったので喜んでいたらしいけれど。
 帰宅してからも、「火事になったらどうしよう」と時々涙ぐんでいた。つい先日、近所で実際に火事があって、二階の窓からもくもく上がる黒煙も目の当たりにしていたから、なおさら怖くなってしまったのかも。でも、それでも、一番大事な避難の本番を頑張れたんだから、偉かったよね。

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5月9日(水)    天気:晴れ

 暑い〜! いきなり暑い〜! どうやら最高気温30℃を越したらしい。体がついて行かなくて、一日中頭痛。昇平も学生服の下に半袖のワイシャツを着ていった。
 今日は昇平は一日学校で落ちついていたらしい。勉強でも「こんなにやるの!?」などと騒がなくなったらしい。学校で落ちついている日は、家でも大抵落ちついている。穏やかに過ごしていて、特記するような出来事は特になし。

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5月10日(木)   天気:曇りのち雨

 昨日とはうって変わって涼しい一日。ホントに体がついていきませんって。
 この急激な気温の変化で、家族も少し風邪気味。昇平も「口が荒れた」と言うから何かと思ったら、「咽が荒れている」の意味だった。少しかすれ声になっている。

 今日、今年度初めてのクラブ活動があった。今年、昇平はイラストクラブに入った。ずっと希望していたのだけれど、人気のあるクラブなのでなかなか入れず、4年生の時には球技クラブ、5年生の時には科学クラブ、6年生になった今年、やっと念願かなったというわけ。「いよいよ俺の実力を発揮するときだ」などと張りきっていた。……まあ、頑張ってくれ。(笑)

 運動会が今月末にあるけれど、役割分担が決まったらしい。準備係だという。○番のプログラムの時には、△△の場所に××を出す、というように、仕事の内容や見通しが立ちやすいだろうという先生方の配慮から。
 昇平に準備係の仕事の内容を確認したら、まだあまりよくわかっていないようだったので、仕事の概要を説明した。でも、反応が今ひとつだったので、思いついて、こんなふうに聞いてみた。
「ねえさぁ、準備係の人がね、たとえば綱引きの競技の時に玉入れの玉を準備したらどうなると思う?」
 とたんに昇平が笑い出した。
「そんなのはダメ〜!」
「じゃあ、大玉転がしの時に大玉の代わりに騎馬戦の準備をしたりしたら?」
「ダメダメ!」
 昇平はいっそう笑いながら頭を振る。
「そうだね。だったら、準備係の人は、次は何の競技で、それには何を準備しなくちゃいけないか、ってことをしっかり気をつけていなくちゃいけないよね」
 と話したら、昇平は、うん、とうなずいた。やっとこちらの言うことが届いた感じ。
 運動会には、初めて郡山から私の親も応援に来ると言っている。それを教えたら、「えー」と言って、またちょっと張りきっていた。

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5月11日(金)   天気:曇り、風強し

 急に寒くなったせいか、家族みんなが風邪気味。昇平も旦那も兄ちゃんも咳が出る。
 自分の声が変わって、昇平は「大丈夫なの?」と不安になっていたが、風邪ウィルスを体の中の抗体がやっつけていくこと、そのためには栄養と安静と保温が必要なことを絵に描きながら教えると、納得して落ちついた。

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5月11日(土)   天気:晴れ時々曇り

 土曜日だけれど、昇平が風邪気味で咳をしているので、遠出はせず、先週同様、近所のコンビニまで買い物練習を兼ねて、自転車の練習に行った。ずっと何も言わずに後ろから自転車で着いていったけれど、時々気がちってふらふらする場面はあるけれど、転ぶほどのこともなく、交通量の多い場所ではちゃんと自転車を押して歩いていて、自転車の乗り方そのものは大丈夫そうだと感じた。
 今回は「お昼に食べたいものも一緒に買いなさい」と言って、五百円玉を預けてみた。ちょっと奮発。店の外で待っていると、やがて、ちゃんと自分で買い物して、袋を下げて出てきた。豚骨味のカップ麺とゆで卵、それにオーラルケア用チューイングキャンディ。キャンディが高くて、もらったお金をオーバーしていたけれど、それは自分のこづかいから出したらしい。予算内で買い物する、という課題は、まあまあというところかな。

 帰り道、一軒の家の前を通りかかったら、庭先で小さな男の子が大泣きしていた。その子のお父さんらしい人が注意している声も聞こえた。昇平が少し気にしながらもその前を通り過ぎていったので、家についてから誉めようとしたら、実は昇平は怒っていた。「あのチビ、なんで泣いてやがったんだ。許さん、ぶっ殺す」……何故かこういう時には本当にことばづかいが悪くなる昇平。
 そこで、尋ねた。泣いていたあの子と昇平くんは、関係があるかい? 関係ある、と昇平は答える。そう、実は昇平は本当にそう感じている。感情が巻き込まれるというのだろうか。まったく関係ないはずの人たちが激しいやりとりをしていると、磁石に惹きつけられるように、いつの間にかそこに引き寄せられて、その人たちの感情に巻き込まれて一緒になって怒り出すのだ。それが昇平の一番の改善点だと主治医からも言われている。
 それで、はっきり言い聞かせた。
「ううん、関係ないんだよ。前にお兄ちゃんの時にも言ったよね。泣いている子は泣いている子、よその人。昇平くんは昇平くん。泣いている子やそのお父さんたちが言ったりやったりしていることは、その人たちのことなの。昇平くんは、自転車に乗って買い物に行っていただけ。あの子が泣いている理由がどうであっても、全然昇平くんには関係ないんだよ」
 それでも我慢できない、関係ないとは思えない、と昇平はがんばる。そこでさらに教える。
「それじゃ、昇平くん一人で買い物になんて出してあげられないよ。一人で自転車で中学校にも通わせられない。高校生になったり、大人になっても、一人で電車に乗って出かけたり、とかさせてあげられないよ。知らない子がそのへんで泣いているのところに通りかかっただけで、怒ったり文句を言ったりするようじゃ、とてもじゃないけど、そんなおっかない人を一人で出かけさせるわけにいかないじゃないの。いつも、どこへ出かけるときにも、お母さんや他の人が一緒について行かないと、危なくて危なくて。――どっちがいい? 自分一人で出かけられる方がいいの? やっぱりお母さんたちにいつでもついてきてもらう方がいいの?」
 さすがに、常に誰かについてこられるような姿は嫌だと思うらしい。一人ででかけられるほうがいいよ、と答える。
「それじゃ、どうすればいい?」
「気にしないことにする」
 そう、気にしないこと。それができるようになるのが大事なんだよ。それができるようになれば、一人でどこへでも出かけられるようになるからね。
 ○○すれば△△できるようになる、という考え方は、未来に希望が持てるから、昇平も好きな言い方。やっと少し明るい顔になって、うん、とうなずいた。

 昇平を一人で自転車通学させるとき、一番心配なのは、実はこの「感情の巻き込まれから発生するトラブル」。これがクリアできないと、本当に一人で外出させられない。そのためには、丁寧に何度も言い聞かせて教えていくのが大事だ、と主治医にも言われている。
 これからも、そういう場面に出会うたびに、丁寧に教えて行かなくちゃ。それを思うと、次に自転車で遠出したときに、またどこかで子どもに泣いていてもらいたいかも。練習できるのは、教えられるのは、本当に今のうちだから。

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5月12日(日)   天気:曇り 昼過ぎから強風

 昇平は今日も咳。なので、自転車の練習はやめて、車で図書館と買い物に行った。
 スニーカーがボロボロになったので買い直す。24.5センチ。とうとう私と同じサイズの靴を履くようになってしまった。大きくなったよねぇ。これからますます大きくなって、兄ちゃんみたいに、母を軽く追い越してしまうようになるんだよね。

 ショッピングセンターの靴売り場でレジを待っていたら、小さな子が騒いでいる声が聞こえてきた。泣いているわけではないけれど、かなり甲高い声が響いてくる。とたんに顔をしかめて、「うぜえんだよ」と怒り出す昇平。おやおや、さっそくまたそういう場面に遭遇してしまったわ。
 「ほら、それだよ。そんなふうに怒っていると、君は外に出かけられなくなっちゃうんだよ」と注意したら、はっとした顔になって、あとは黙り込み、しばらくしてから、「すみませんでした」と謝ってきた。
 騒ぎ声や泣き声から気持ちを切り離して知らん顔できるようになるのが最終目的だけれど、そのためには、まず一つ一つの場面で、怒り出しそうになったときにそばの人間が声をかけること。そこで、はっと思いだして怒るのをやめ、反省することができたら、それを認めてあげること。その積み重ねがいつか、目標に届くんだろう。
 今回、昇平はちゃんと自分から怒るのを止められたし、謝ることもできた。 うん。とても偉かったと思うよ。


(この日記にはコメントがあります、)
 

[07/05/14(月) 10:00] 学校 日常 療育・知識 発達障害

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