昇平てくてく日記2

小学校高学年編

水泳記録会

 最近は一週間ごとに日記を更新しているのだけれど、今日はとても嬉しいことがあったので、臨時で単発記事をアップします。
 タイトルは、「水泳記録会」――。

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 私たちの住む町では、もうずいぶん前から町内の小学六年生全員が参加しての水泳記録会というのが行われている。昨年、町村合併で大きな市になったが、それでもこの伝統は続いていて、今年も町内八つの小学校から二百十名あまりの六年生が記録会に参加した。
 例年のことだから、六年生になると各小学校では水泳練習がいち早く始まって、まだ水も冷たい六月頃から泳ぎ始める。六年生も、「記録会に参加するんだ!」という意識があるので、練習に対する意気込みが違う。ほとんど全員の六年生が、最低でも25メートルは泳げるようになっていくのだから、伝統行事というものには力がある、と本当に感心させられる。

 昇平が泳げるようになったのは小学四年生の夏だった。夏休み中、学童に通って、毎日プールの指導を受けているうちに、顔をつけられるようになり、5メートルくらい泳げるようになった。五年生の夏は、翌年の記録会をにらんで学校で練習。父親もせっせと昇平を温水プールに連れて行ってくれたので、だんだん泳げる距離が伸びてきた。そして、今年。他の六年生と一緒に練習していく中で、昇平はドウ子先生の指導と励ましで、とうとう50メートルを泳げるようになってしまった。

   朝倉昇平。50メートル自由形。

 参加する種目を知らせるメモを見ながら、なんだか自分の目が信じられなかった。他の家族も、昇平が50メートル泳ぐと聞くと、全員が驚いて感心した。

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 なかなか梅雨の明けない肌寒い七月だったけれど、水泳記録会当日の25日は晴天。吹く風が少しひんやりしていて、絶好の水泳日和になった。
 六年生たちが泳いでいく。スタンドから他の子どもたちや先生や保護者たちが声援を送る。
 六年前に長男が参加したときにも見た風景だけれど、参加する子どもたちにとっては初めての挑戦。どの子もキリリと引きしまった良い顔つきをしている。

 自分の学校の子どもが競技で上位に上がってくると、同級生から応援の声が上がる。泳ぎや運動が苦手な子が頑張って泳いでいる姿にも、声援が飛ぶ。
 そう、昇平にもたくさんの応援があった。

 コースの後ろに座って次の出番を待っている間、昇平はバケツの水を体にかけていた。前に泳いだ子たちがやっているのを見て真似したのだろうけれど、応援席でそれを見ていたドウ子先生に、「おー、なんか選手みたいだよ、かっこいい!」と大受けだった。遠目ながら、気合いの入った顔をしているのがわかる。いよいよ泳ぐというときには、昇平はなんと、飛び込み台の上に上がった。
「さっき練習したときに、『上から飛び込みな』って言ったんですよ。そしたらできたから、飛び込みすることにしたんです」
 昇平たちの学校は朝一番の集合だったので、競技前に少し練習できたらしい。しかし、さっき初めて飛び込んだ? それで本番? うーん、ドウ子先生はやっぱり大胆だー。(笑)

 自由形と来れば、他の子たちは皆、クロールを泳いでいる。でも、昇平はまだ手のかきができない。両手は伸ばしたまま、バタ足で、顔を上に上げて息継ぎをする泳ぎ方。それでも本当に50メートルを泳いでいく。決して速くはないけれど、安定して泳ぎ続けている。
 学校プールで練習している間には、25メートルを20本も泳いだ日もあったらしい。25×20=500メートル。う〜ん、すごい。確かに本人、「今日はたくさん泳いだよ」と言っていたけれど、まさかそんなに泳ぎこんでいたとは。

 競技を見ていると、案外棄権が多いのに気がついた。わけを聞いたら、エントリーするのが割と早い時期なので、50メートル泳げると思って申し込むのだけれど、結局そこまでは泳げなくて、参加種目を変更する子が出るからだとかいう話だった。昇平の回の時も、昇平の他に、他の学校の子2人が一緒に泳いだだけだった。(ちなみに、コースは7コースまである)
 「昇平くんも、学校で初めて50メートル泳げた日に、『一度泳げたから後は泳げる!』って50メートルで申し込んじゃったんですよ!」とドウ子先生が笑って教えてくれた。あはは……やっぱりドウ子先生はすごいわ。その思い切りの良さ、惚れてしまいます。(爆)
 めだたないけれど、昇平はラストスパートもしていた。最後5メートルくらいは息継ぎなしで泳ぎ切ったのだ。それもドウ子先生の指導。「その位の距離、息しなくて死んだ人はいない!」と言われて、その気になったらしい。
 一緒に練習していたL子ちゃんも、決して泳ぎは得意じゃなかったのに、やっぱり50メートル自由形に参加していた。

 昇平が泳いでいるとき、スタンドの同級生の男の子たちが応援を始めてくれた。「昇平! チャチャチャ(手拍子) 昇平! チャチャチャ」 他の子たちも先生たちも、手を叩き声を合わせて昇平の応援をしてくれた。
 その中を泳ぎ続ける昇平。一緒に泳ぐ子たちから大きく引き離されているけれど、それでも自分のペースは崩さずに泳いでいる。ビリでもみんな、応援してくれる。「昇平! チャチャチャ 昇平! チャチャチャ」
 私は、他の子の応援はできたけれど、我が子の時には声も出なかった。ただただ見守るだけだった。みんなの応援の声を聞きながら、一生懸命泳ぐ昇平の姿をただ見つめていた。
 タイムは、確か1分41秒くらいだったと思う。遅いけれど、でも一番遅いというわけでもなかった。それに、なんと言っても、50メートルを泳ぎ切っていた。それが一番すばらしかったよね。

 スタンドに戻ってきた昇平が、得意そうに私を見た。「よく頑張ったね!」と声をかけたら、にやっと笑った。私の隣に座ったので、また「よく泳ぎ切ったね。飛び込みもしたなんて、本当にすごかったね」と声をかけたら、「練習の成果が出たか?」と、また得意そうな顔だった。頭から水泳帽を外したら、日焼けした額にくっきりと白く帽子の痕が残っていた。うん、本当に、頑張って練習してきた成果なんだよね。
 「泳いでいたら、なんか応援が聞こえたよ」とも言っていた。うんうん、みんないっぱい応援してくれたんだよ。

 本当はL子ちゃんの泳ぎも応援したかったのだけれど、都合があって、昇平の出番を見ただけで家に戻った。でも、最後に振り向いたとき、昇平は席でとても満足した表情をしていた。達成感の表情だった。

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 「結果はどうであっても、子どもたちが精一杯がんばる姿を応援してあげてください。そこまで頑張って練習してきたことをほめてあげてください。」

 こういう行事があるたびに、学校からはそんなお便りが来る。
 長男の時から見慣れていた文章だし、私自身もそんなふうに思ってはいたけれど、昇平という子どもの姿を見ているうちに、このことばの本当の意味を知るようになったな、とつくづく思う。
 大事なのは結果じゃない。子どもがそこまで頑張ったということ。頑張った自分を自分で感じ取ること。その事実を、親も先生も友達も、みんなで認めて応援してほめてあげること。
 それが何よりも大切なことなんだなぁ、と心から本当に考えた。

[07/07/25(水) 15:39] 学校 発達障害

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