昇平てくてく日記2

小学校高学年編

9月(1)〜宿泊学習

8月27日(月)

 今日から二学期が始まった。久しぶりにゆめがおかのお友だちに会えて、とても嬉しそうな笑顔だったという。新学期早々、昇平のお誕生会も開いてもらって、皆でかき氷を作って食べたらしい。バースデーカードに貼られてきた昇平は、とびっきりの笑顔でかき氷のカップを抱えていた。
 帰り道、今日もまたL子ちゃんと一緒だったらしいが、信号が変わりそうなところで昇平が走り出したら、L子ちゃんは走らなくて、そこで別れ別れになってしまったらしい。「さよならってL子ちゃんに言えなかった。悪かったなぁ」と昇平が言うので、母は密かにびっくり仰天。「悪かったなぁ」? さよならって言えなかったから?? 君がそう言うことを自分から口にする日が来るとは!!! ――対等なお友だちだからこそ気がつくこと、思いやれるようになることも、あるんだねぇ。

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8月28日(火)

 朝起きたら雨が降っていた。「宿泊学習で雨が降ったらどうしよう!」と心配になった昇平は、着替えもしないうちから不安定になって怒り出した。海辺での活動をとても楽しみにしているだけに、雨に降られれば全部キャンセルになって、雨天プログラムに切り替わることになる。雨の時は雨の時で楽しめるよ、と話して聞かせてもそんなことで承知できるはずもなく。ついに「雨になるのがそんなに嫌なら、宿泊学習に行くのはやめなさい!」と母の雷が落ちることになった。
 実際、それが非常に心配なところ。雨天で予定の活動ができなくなったことで、宿泊学習中ぐずぐず言い続けたり怒り出したりして、活動全体に影響を及ぼす可能性があるから。少しきついようでも、そこのところは、はっきり言い聞かせておかなくては、と思った。「雨で野外活動ができなくなって怒るようなら、みんなの迷惑になるから行くのはやめなさい! 雨でできなくなるのはみんな同じ。みんなと同じように、雨でも雨天のプログラムができるというなら、行ってもよろしい!」 久しぶりに、本気で『怖いお母さん』モードになった。実際、昇平は怖がったけれど、それでも「みんなと一緒に宿泊学習に行きたい。雨でもちゃんと参加してきます」と言った。……まあ、そう考えてくれるだろうと思ったからこそ、こっちもそんなふうに言ったのだけれどね。
 覚悟は決まったね? 週間天気予報では、雨の確率はかなり高いからね。それでも、みんなと一緒に宿泊学習をがんばってこられるね?
 予定通りに行かないこと、思い通りに行かないことは、世の中に山ほどある。それも乗り越えないと、生きていけないのが現実。宿泊学習は、そんなことまで教えてくれるのかもしれないね。

 とはいえ。
 お天気の神様。せっかく海辺へ行くのです。みんな、本当に心待ちにしていたのです。野外活動が全滅、なんてことだけはありませんように。それなりに海も楽しんでこられるように、どうか雨はちょっと控えてあげてください。
 ……と、母はこっそり祈っている。

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8月29日(水)

 いよいよ明日から宿泊学習。今回荷物を準備するにあたっては、次のような工夫をした。

1.着替えは種類ごとにわけて、種類をマジックペンで明記した透明なチャック付きビニール袋に入れた。全部、昇平自身に手伝わせて、確認させながら袋へ。野外活動用の靴も同様にチャック付き袋へ。

2.バッグは大きなものにして、ひとまとめにできるようにした。色もすぐわかる目立つ赤色にした。

3.衣類はがさばらないように、くるくると丸めて袋に入れるやり方を本人に教えた。ただし、実際にはあまり上手にできなくて小さくならなかったので、最初のパッキングは母が手伝った。

4.脱いだ衣類は「せんたくもの」と書いた大きなスーパーバッグへまとめて入れることを教えた。

 実際にやらせてみると、とにかく荷物の管理が大変。探し出したりしまったり、ということに著しい困難を示す。ADHDだねぇ、やっぱり。(苦笑)
 できるだけ探し出しやすいように、チャック付き袋を小さめなものにして(取り出して着ていけば中身は減るだけなので、袋に余裕はあまり必要ないと判断)、最初のパッキングを母が手伝って、どこに何があるかわかりやすいように詰め、本人にもやってみてもらった。宿泊先で自力でそれができるとは思えないけれど、初日に探し出すくらいの役には立つだろう。とにかく、あまり難しくないシンプルなパッキングを心がけた。

 そして、一番の懸案は夜尿症対策。最近は週に一度程度まで減ってきたけれど、それでも時々明け方に漏れてしまう。本人も気にするようになって、「どうして俺は失敗するんだ?」と言う。友だちに知られるのは恥ずかしいということも認識するようになった。夜尿症用紙パンツを持参することにして、担任にその旨相談。紙パンツは名前を書かない不透明なチャック袋へ。汚れたパンツは宿泊施設の職員に相談して処理してもらえることになった。それで安心したのか、本人もあまり心配しなくなくなり、今日の連絡帳を読んだら、「夜、○○(夜尿症用紙パンツの名前)をはきますから」と担任の耳元で笑いながら小声で言ったのだという。担任が「遠慮しないで、トイレの便器に座って寝れば? 裸で風呂場で寝るのもいいよ」と冗談を言うと、ひっくり返って大笑いし、担任がまた「先生たちのロッジではけば、誰にもばれないよ」と言うと、「ナイスアイディア!!」と握手して来たのだという。
 担任も連絡帳に書いていたけれど、本当に昇平は学校でも家でも落ち着いていた。自分でも宿泊学習をみんなとがんばってこようと思っているのが、はっきりと伝わってくる。この感じなら、三日間大丈夫かもしれない。

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8月30日(木)

 昇平は宿泊学習に出発していった。

 …………ああ、気が抜けた。(爆)

 今朝起きたら、かなり強い雨。天気予報では三日間雨が降るという。「海で遊べなくなる!」と怒り出した昇平をひとしきりなだめたけれど、それでもおさまらないので、「文句を言い続けて、あと3回お母さんに注意されたら、『宿泊学習には行かないことにします』と学校に電話するからね」と宣言したら、ようやく落ち着き、後は大好きなポケモンを考えたりやったりして、自分で気持ちを切り替えていた。
 体育館に大きな荷物を抱えて集合した頃には落ち着いたいい顔になっていて、「車を停める場所がなくて最後まで見送れないから、これで帰るよ」と言うと、「うん、いってきます!」としっかり返事をしてきた。なんだか、出発する前から大人になってきたみたいだ。
 でも、昇平を送った帰り道、車を運転していたら、突然涙が出そうになった。あらら。どうやら、この母の方が子離れできていないみたい。いけませんねぇ。母も大人にならなくては。(苦笑)
 天気は今ひとつみたいだけれど、いい思い出をたくさん作ってきてね、昇平。

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8月31日(金)

 昇平がいないと、とにかく家の中が静かで、家族全員が昇平の不在を痛感している。一日に何度も「昇平は今頃……」というのが話題に上がり、夜にほんの少ししか顔を合わせない兄ちゃんさえ、「昇平は今日もいないんだ? いつ帰ってくるの?」と言っている。存在感あったんだねぇ、本当に。
 昇平のいない生活は、時間も何もかも余裕があって楽だけれど、なんとも物足りなくて、調子が狂って仕方がない。

 そんな中、午前中、小学校のスクールカウンセラーと面談。今の学校生活に心配や不安があるからではなく、来年の中学入学を見据えて、これからどうしていったらいいか、中学校にどう働きかけていったらいいか、そのあたりの相談。
 昇平が通う小学校は、特別支援教育に関して福島県でもトップレベルにあると私は見ているから、その小学校と同等のものを、まだまだ立ち後れた状態にある中学校に要求してしまってはかわいそうなのだけれど、それにしても、せっかく小学校で積み上げてきた成果を中学校でなし崩しにされるのは本当に困る。思い切ってもっと良い中学校のある学区へ転居する、という選択肢もあるけれど、ずっと積み重ねてきた地域とのつながり、特に、保育園や小学校で出会ってきたお友だちやそのお母さんたちという存在は大切にしたい。これから後に続く子どもたちのために、地元の中学校に良く変わっていってほしい、とも思う。中学校の先生方に力がないわけではないと思うんだ。ただ、意識がまだそこまで育っていないだけで……。
 中学校の校長やスクールカウンセラーにお母さんの意向を伝えましょう、とカウンセラーのA先生は言ってくださった。私の方でも、中学校のオープンスクールを見に行って、その様子を元に、中学校の校長先生や教頭先生と話し合いを持とうと考えている。その時には、旦那にもなんとか仕事の都合をつけて、一緒に行ってもらうつもり。
 すぐには変わらない。でも、少しずつでも前進はしていけるはず。少しでも昇平にとってよい中学校になっていってくれますように。昇平が自分に自信を持って、その力を伸ばしていけるような――これからも昇平が自分を好きでいつづけることができるような――そんな中学校になってくれますように。

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9月1日(土)

 夕方、無事に宿泊学習から帰ってきた。解散前の校庭での閉会式にもしっかり参加していてびっくり。以前は「まだ終わらないのか!」なんて怒り出していたのに。他の子どもたちも皆、前で話す先生方の話をとても集中して聞いている。よそ見する子も、おしゃべりする子も一人もいない。宿泊学習は、どの子どもたちの心も大人にしてきたらしい。
 閉会式が終わって、そばに来た昇平を見たら、ぐっと大人びた顔をして、心なしか背も高くなったように感じた。もちろん、たった二泊三日で目に見えるほど背が伸びるわけはないから、たぶん姿勢が良くなったんだろうと思う。「やりとげた!」という自信が姿勢にも出ていたのかもしれない。
 天気が本当に心配だったのだけれど、活動直前まで雨が降っていても、いざ活動、というところで雨が上がって日が差す、ということが何度もあったようで、「これを○○小学校の奇跡と呼びたいと思います」と引率の先生が話すのを聞いて、子どもたちは大受け。結局、フィールドアスレチックだけが雨で貝の壁飾り作りに変わっただけで、あとは全部予定通りのスケジュールをこなせたと聞いて、出迎えに集まった親たちの間からは拍手がわき起こった。みんな心配していたんだよね。家族の祈りが天に通じていたらしい。(笑)
 夕方、ドウ子先生がデジカメで撮った活動中の写真をプリントアウトして届けてくださった。それを見ながら家族にどんな活動をしたのか説明する、というのが今日の宿題。ドウ子先生のこのアイディアとフットワークの軽さには、本当にかないません!(笑)
 写真には、バイキングでメニューを選んで嬉しそうに食べているシーン、活動部屋で同じ班の子どもたちとニコニコくつろいでいるシーン、野外炊飯でカレーを作っているシーン、イカダ作りをするために班の子たちと同じように材木を運んでいるシーン、できあがったイカダに乗って皆と一緒にオールをこいでいるシーン、波打ち際でボディサーフィンしているシーン、キャンプファイヤーで皆とゲームをしているシーン、磯遊びで夢中で岩場の生き物を観察しているシーン……。
 どの場面でも、昇平は本当に生き生きと嬉しそうな顔をしていた。他の子たちと一緒に同じ活動をしていたこともわかった。「宿泊部屋に様子を見に行く必要もなかったし、もちろん、活動のたびに『あれを持って、これを準備して』なんて手伝ってあげたりもしませんでしたし。それでもなんの問題もなくみんなと同じように参加してました」とは、ドウ子先生の話。
 そうかー。そうか、そうかー。本当によくがんばってきたね。充実した活動ができて、本当に良かったね。
 昇平は、またひとつ自信をつけたのだと思う。確かに、どこかでまた一歩大人になったのを感じた。
 とはいえ、帰宅してからはさっそくパソコンに向かい、いつものようにまったりと過ごしていた昇平だったけれど。(笑)

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9月2日(日)

 日曜日だけれど、旦那は仕事で出勤。昇平も昨日宿泊学習から戻ってきたばかりなので、今日は一日どこにも出かけず、のんびり過ごした。
 そういえば、宿泊学習で気になるのは夜尿対策のこと。「どうだった?」とこっそり聞いたら、やっぱり失敗はしなかったそうだ。紙パンツをはくときには先生のロッジを使わせてもらったけれど、「他の子たちには気がつかれなかった」そうだ。「そのときに先生がどこにいるのかわからなくて、どこでも大声で呼んで探したよ」と昇平。うむ〜。夜に大声で先生を捜し回る。さぞうるさかっただろうとは思うけれど、部屋の名前や場所をなかなか覚えられない彼にとっては、先生の部屋が見つけられなかったら一大事。大声でも何でも、自力で先生を捜し出して目的達成できたのはすごく偉いと思った。
 お風呂でもちゃんとボディタオルで体を洗ったり、海で遊んだあとにはシャンプーもしたという。入浴の仕方もしっかり身についていたようで、一安心。荷物も、なかなかバッグが閉まらなくてかんしゃくを起こしたことはあったと言うけれど、それほどひどい混乱もなく、忘れ物もなく持ち帰った。これもクリア。よかったね。ただ、洗濯物だけはスーパーバッグに入れていくうちに袋が破れてしまい、先生に相談して、衣類が入っていたチャック袋に入れるように、とアドバイスされたのだそうだ。
 本人に、何が一番楽しかったか聞いたら、最終日の磯遊びだったという。「イソギンチャクに棒を刺したら、キュッとつかまえたよ」「1ミリくらいのフジツボが岩にびーっしり付いててね!」「狭い岩の隙間には小さい巻き貝がいっぱいいたよ。それが生きていたんだよ」と報告も生き生きとしていた。
 うん、本当にいい経験をたくさんしてきたね。よかったよかった。
 今日は、家の中で兄ちゃんと一緒にゲームをしていたが、その誘い方や遊び方が、またぐっと上手になったのを感じた。時々口げんかが始まるけれど、本人たちに任せて放っておいている。勝手にいろいろやって、兄弟関係の方でもレベルアップしてくれ。(笑)

[07/09/03(月) 08:49] 学校 日常 発達障害

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