昇平てくてく日記2

小学校高学年編

12月(2)〜大パニック・不安定

12月10日(月)

 今日、昇平は町の企業の福祉財団からのクリスマスプレゼントを持って帰ってきた。毎年、クリスマスの時期に町内の特支学級の子どもたちにプレゼントをして下さるのだ。昇平は今年はQステアという、赤外線で操作できるモーター付きチョロQを希望。去年、L子ちゃんがプレゼントにもらったのを覚えていて、いいな、と思って今年は自分がリクエストしたのだという。白い小さなミニカーだけれど、意外なくらい本当によく動く。大喜びで遊んで、遊び終わってからは大事に箱に戻して、「クリスマスにはサンタさんからもう2台Qステアをもらうんだ」と手紙まで書いていた。

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12月11日(火)

(ドウ子先生の連絡帳から)

 国語の時間に、二学期の漢字まとめテストのべんきょうをしました。昇平くんと一対一だったので、「十問ずつ練習→ノートにテスト→まちがいを練習→プリントで十問ずつテスト」を繰り返しました。少しずつできていくのが自分でもわかり、とても張り切りました。「なんだかできるようになってきたね」と自信も持てたようでした。
 昨日やった算数の計算まとめテストは96点で合格でした。
 四校時目の協力学級での理科が終わると、宿題のプリントが出た、と言って怒りながら帰ってきました。「それがあるなら、いつもゆめがおかで出している宿題はなしにするよ」と言い聞かせても、いつもはない理科の宿題ということに腹を立てているのでおさまらず、給食中ずっと怒っていました。他の子たちが声を掛けると、さらに言い返して興奮するので、みんなには声を掛けないように指示しました。“やりたくない”ということではなく、いつもと違うことが受け入れられないようで、理科室でも机を叩いて怒っていたそうです。給食を食べ終わると、「怒ってごめんなさい」と落ち着きましたが、変化に弱いところも、経験と成長とで乗り越えてほしいと思いました。

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 学校でもひとしきり大騒ぎしてきた昇平だが、家に帰ってから本当の大パニックを起こした。
 昨日もらったばかりのQステアが、ちょっとしたはずみで前輪が外れてしまい、車軸が曲がってしまったのか、どうしても直らなくなってしまったのだ。私ではお手上げで、手先の器用なおばーちゃんがなんとか直してくれたけれど、直進しなくて曲がって進んでしまう。「操作にテクニックが必要な上級者向けの車になったね」と言って、一度はそれで納得しようとして笑顔も戻ったのだけれど、その後、寝る間際になってまた車輪が外れてしまい、今度はどうしても直せなくなってしまった。「せっかく○○(福祉財団の名前)からプレゼントしてもらったのに、たった一日で壊してしまった!」と大騒ぎ、そして涙、涙、涙……。あまり悲しむので、明日お父さんに新しいのを買ってきてもらおうね、となぐさめたが、その夜は泣き寝入りだった。

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12月12日(水)

(ドウ子先生の連絡帳から)

 登校してからずっと表情を暗くして、声を押し殺したしゃべり方で「笑ってはいけない」と言うなど、明らかにいつもと違う状態だったのですが、初めのうちは何とか綱渡り状態で、学習も少しはできました。でも、二校時目の協力学級での英語活動では(介助の西尾先生が一緒でしたが)途中から涙ぐんでいて、「サンタさんに壊れやすいものをあと2個もたのんでしまった。俺はバカだ」と、プレゼントにQステアを頼んだことを公開し、もうお母さんがサンタへの手紙を投函したかどうかを心配してパニックになっていました。三校時目は、昇平くんの声で勉強ができないので、他児に隣の1組へ移動してもらい、以前お母さんからお預かりしていたリスパダール(注:大パニック時に頓服する精神安定剤)を服用させました。いつもは服用を嫌がる昇平くんも、「飲んで落ちついたほうがいい」と言ったので、自分でも不安定な状態をどうすることもできなかったのだと思います。服用後、お絵かきしているように言うと、いつものゲームの絵を描いて静かになりました。四校時目は協力学級には行かずにゆめがおかで社会科のテストをしたのですが、そのテストを置きに6−2へ行ってもう一枚学習プリントを渡されそうになると、拳を作ってすごんで見せたそうで、私に自己申告してきました。
 態度が激変したのは給食時からで、「給食早く食わせろ! 食わせねえのか!」など数々の暴言。周囲の子たちは担任たちの指示で昇平くんの気に障らないように静かにしていたのですが、誰かが少しでもしゃべると「しゃべってんじゃねえ、この野郎!!」というようなことを言い続け、まるで別人格のようでした。食後の歯磨きの時には、今度はニヤニヤして、コップの入った袋を窓ガラスに向かって投げたり、椅子に寝そべって歯磨きをしたり……。明らかにやったことのない行動でした。
 五校時目の体育はバスケットボールだったのですが、今度は立ったまま眠りそうになるので危ない、と西尾先生に連れられて戻ってきました。教室に戻ってきてからもQステアの話をしていて、どうしても忘れられなかったようです。

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 さてさて。昨夜に引き続き、最近では最大級の大パニックを起こしたのがよくわかる。ちなみに、この記録の後も昇平の眠そうな様子は続いていて、「危険で自力下校させられないので学校まで迎えに来てください」とドウ子先生から電話がかかってきたほどだった。帰宅した後も、ボーッとした顔をしていてかなり眠そうだった。
 昇平の場合、リスパダールを服用することはあまりないのけれど、その少ない回数の様子を思い出しても、家では服用後に荒れたり、眠くなったり、ということはなかった。ただ、学校で以前服用したときに、やっぱりひどく眠そうになって椅子から落ちそうになった、ということはあった。リスパダールの副作用を見ると「眠気」というのが書いてあるから、これが出たのかもしれない。明日の木曜日は主治医のY先生が外来担当の日なので、臨時で相談に行くことにした。
 Qステアは旦那が同じ機種をおもちゃ屋で見つけて、「買って帰る」と携帯にメールを入れてくれた。ところが、夜になって昇平が「お腹が痛い」と言いだした。父が本当に同じQステアを買ってきてくれるかどうか心配――同じにものが手に入っても、また一日で壊れるんじゃないかと思って心配――と、とにかく心配でたまらなくなっていたらしい。夜寝る寸前に旦那が帰宅してQステアを渡したら、「今度は大事にするからね」と受けとって箱ごと大切に茶の間のコタツの上に置いて、後は落ちついて眠った。

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12月13日(木)

 昇平が登校してからサイトで検索したら、Qステアの分解修理の方法を書いているブログを発見。そのやり方でボディを外したら、故障は単に車輪が車輪受けにうまくはまっていなかっただけと判明、わずか5分で私にも修理できてしまった。かくて、昇平は同じQステアを2台一度に手に入れることに。
 放課後、修理できたQステアを本人に渡して病院へ。主治医にいきさつをざっと説明してから、連絡帳に書かれた様子を読んでもらった。
 眠気に関しては、リスパダールと昼の薬に若干処方されている別の安定剤(セレネース)が重なったために、相乗作用が起きて副作用が強く出たのだろう、と言われた。そういえば、家で飲ませるときはいつも夕方以降で、朝や昼の薬に処方されている安定剤もすっかり切れてからのことだった。以前、学校で眠くなったときには、朝の薬がまだ残っているところにリスパダールを飲んだために眠くなったのだろう。なるほど。今後、リスパダールを使用しなくてはならないときには昼の薬は飲ませないこと、もし昼の薬を飲んでしまった後でリスパダールを飲むことになったら、眠気を起こしても危険がないように気をつけ、場合によっては保健室などで一眠りさせると良いだろう、とアドバイスされた。
 給食時の「荒れ」はリスパダールによるものではなく、本人自身が(パニックの影響で)非常に不安定になっていたために、他児からの刺激(※注)に耐えられなくなっていたのだろう、という話だった。とにかく刺激に弱くなっていたから、6−2で新たに課題プリントを渡されそうになっただけでも怒って拳を握ったりもしたのだろう。
 主治医から「おもちゃはいつか壊れるものなんだよ。でも、壊れたっていいし、今回のように修理することだってできるんだし、修理する楽しみってのもあるんだからね。そんなふうに気持ちを切りかられるようになろうね」と言われて、昇平は「はい」とうなずいていた。ドウ子先生も連絡帳で「今回のQステアの件でまたひとつ貴重な学習経験をしましたね」と言ってくれて、本当にありがたかった。
 とにかく荒れに荒れた二日間だったけれど、この日はとても落ちついていて、漢字のまとめの再テストにも80点で合格したし、算数の体積のテストも95点とよく理解していたらしい。

※注
 「他児からの刺激」というのは、専門家が言う広義の「刺激」のことで、別に他の子たちが昇平にちょっかいを出していたとか、からかって刺激していたとか、そういう意味ではない。他の子が近くにいたり、自分の意に沿わない課題を出されたりすること自体が「気になる」「気に障る」ということを、「刺激を受ける」と専門家は表現しているようだ。もしかしたら誤解を招くかもしれないので、補足しておく。(追記 20:37)

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12月14日(金)

 午後、またドウ子先生から電話がかかってきた。学校で一日中不安定で、パニックを起こしては怒り続けていて、このまま下校させると周囲の子どもたちとトラブルが起きそうだから迎えに来てください、と言われる。朝、登校したときにはとても落ちついていたので、びっくりして迎えに行った。昇降口で西尾先生に付き添われて待っていた昇平、私の顔を見たとたん、開口一番「俺は自分が情けない!」。その声も表情も普通ではないので、とにかく車に乗っているように言って、西尾先生から学校での様子を聞いた。その後、本人の話を聞いたり連絡帳を読んだりもしたけれど、朝L子さんとちょっと口げんかのようになってパニックを起こしてしまったのを皮切りに、終日ずっと不安定で、昼の給食時にはまたかなりの暴言が出ていたらしい。他の子たちは相手にしないようにしていたので、“暴言のひとりごと”という感じだったようだ。今回はリスパダールは飲んでいなかったので、先日の給食時の「荒れ」がリスパダールの副作用などではなかったことが、これではっきりした。ドウ子先生は、スクールカウンセラーのA先生に相談して、来週教室での様子を見てもらうようにお願いしたらしい。
 こちらは、車の中で昇平の話を一通り聞いてから、「昇平くんはそんなふうに騒いでしまった自分を情けないと思ったんだね。そう感じたのは偉かったよ。この次からは、そんなふうに騒がないようにしようね」と言ったら、その後はすっと落ちついていった。学校では相当荒れていたはずなのに、家では静かで、いつもとあまり変わらなかった。ただ、ひどく疲れて眠そうにしていた。

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12月15日(土)

 私と一緒に散歩に行きスーパーでの買い物に付き合っただけで、一日家でのんびり過ごしていた。そうしていると、いつもとまったく変わらなく落ちついて見えるのだが、場面によって急に怒り出すことが何度もあった。例外なく、自分の思い通りにいかない時と、家族が怒ったような声を出した時。家庭学習の問題が長くて難しい、と言っては机を叩いて怒り、間違いを指摘されては怒り、家族の声がうざい、と言っては怒り……。夜の読み聞かせでは緊迫した場面だったのだが、いつになく激怒してものすごかった。実際に私を蹴ったり、おもちゃのバットで殴りつけたり(本当には当たらなかったけれど)。でも、「読むのをやめる?」と言うと「絶対に読め!」とまたすごむ。興奮ぶりが尋常ではなくて、なるほどこれが学校で起きていたのか、と思った。読み聞かせの後で、「昇平くんはちょっと変だよ、興奮しすぎだよ」と話して聞かせたら、「俺はダメだ!」とまたパニックになりかけたが、なんとか踏みとどまって、最後には「うん」と自分でもわかったようだった。とにかく、落ちついているように見えても実際には不安定な一日だった。

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12月16日(日)

 今週も旦那は日曜出勤。昇平は昨日に引き続き、散歩と買い物に行っただけで、家でおとなしく過ごしていた。日中はまだ時々怒り出す場面が見られたけれど、夜にはだいぶ落ちついて、隣町のイルミネーションを見に行く約束を延期しても(とても寒く風も強かったので風邪をひきそうだったので)すんなり納得したし、夜、読み聞かせの続きをしても、緊迫した場面にもとても静かに聞いていた。
 たぶん、昇平は週の始まりくらいから少し調子が悪かったのだろうと思う。最近ずいぶんいろいろ自分でがんばろうとしたから疲れがたまってきていたのかもしれないし、少し風邪気味だったから体調も関係していたのかもしれない。そこに大切なQステアが思いがけなく壊れてしまったものだから、大ショックを受けて大パニック、家でも学校でも自分がコントロールできなくなるくらい不安定になってしまったのだろう。学校で大きな騒ぎになっていたのは、主治医も言っていたとおり、学校の方が家より刺激が多かったからだと思う。
 週末に家でゆっくり過ごしたおかげで、なんとか落ち着きを取り戻してきたように見える。これでまた元気になって、来週は安定して過ごしてくれるといいな。あと一週間で二学期も終わる。もう一息だ。

[07/12/18(火) 05:21] 学校 日常 発達障害

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