昇平てくてく日記2

小学校高学年編

1月(3)〜リタリンが使えなくなる

1月14日(月)

 成人の日で祝日。日中は普通に元気でいたのに、夜寝るときになって「なんか頭が痛い」と言いだし、夜中に熱を出した。37.8℃。日中、疲れるようなこともしなかったのだけれど、風邪だろうか?

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1月15日(火)

 熱は朝には下がったけれど、まだ顔色が良くなくてだるそうにしているので、学校を休ませた。一眠りして起き出したら、ずいぶん元気になっていて、じきに「ゲームやってもいい?」「パソコン、何時からやろうかなぁ」などと言い出したので、「そのくらい元気になったのなら、これからでも学校に行けるね」と言ったら、「あっ、まだ具合あんまり良くないです〜!」とあわてて布団に飛び戻っていった。言いつけを守って午前中はおとなしくしていたら、昼にはもうすっかり元気になり、食欲も出たので、午後は普通に服を着て起きていて良いことにした。その後は熱が上がることもなかったので、明日は学校に行けるだろう。

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1月16日(水)

(ドウ子先生の連絡帳から)

 (熱が)大したことがなくて良かったですね。
 今日はいつもは見られない行動がいくつか見られました。
 朝の会では、1組の1年生が日直さんをスムーズにこなせなくて少し怒り気味になりましたが、その子の鼻が出そうになったら自分のティッシュを差し出したこと。給食の時、1年生が食べないのを気にするので、「昇平くんも1年生の時そうだったんだって」と言うと、「えーっ、そうだったの」と言って、その後気にしながらも何も言わなくなったこと。『マンガ家になろう』という本を見ながら、一つのリアルな絵を何回も描き直していたこと。カレーのグリンピースを食べなかったことを、「食べられるんだけど、こだわりだったんですよ」と言ったこと。“こだわり”ということは、私たちも言っていないので、自分で考え出したことばです。(ちなみに、母も昇平に対して使ったことはありません。:補足)
 他には何もなく、落ちついた一日を送れました。

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1月17日(木)

 診察日。
 福島県ではADHDの診断がある患者にはリタリンが処方できる、と前回の診察日に聞かされたけれど、先週の親の会の例会などで、福島県でもやはりリタリンが使えなくなったことは聞こえてきていた。指定医がナルコレプシーという睡眠障害にのみ処方できるのだけれど、その指定医の基準を満たせる医者は全国で百人程度。この福島県にはいないと聞いている。故に、福島県ではリタリンを処方できる医者はいなくなった、ということになる。
 大半の病院では、ADHD治療薬として新しく認定されたコンサータを使うようだが、主治医は当面コンサータは様子見で、とりあえずベタナミンという薬を使ってみることになった。効果はリタリンより下がるけれど、リタリンの代用薬として使える薬らしい。
 それにしても……と本当に思う。
 今まで、リタリンでADHDの症状が安定して、学習も生活も(その時々で問題は起きるにしても)全体的に安定して良い方向へ向かっていたというのに、それが突然「処方できません。ADHDには使えません」と来るのは納得がいかない。診察室で主治医とも話し合ったけれど、それを正しく使って助かっている人間のことを全然考えていない処置だ。
 ベタナミンは副作用として肝臓障害を起こすリスクが高いので、定期的に血液検査を受けなくてはいけない。でも、新薬コンサータの方はカプセル剤で量が2種類しかなく、その少ない方でも今の昇平には処方量が多くなりすぎる。薬価もリタリンよりずっと高くなる。しかも、18歳までしか使えないので、リタリンを使っていた成人ADHD患者はコンサータも使えない。
 リタリンの乱用なんて、ADHD患者のいる家庭では起きていないのになぁ。医者だって、できるだけ少ない処方量で最大限の効果を得ようと、苦労して薬の調整をしているのに。いろいろ背景があるのもわかってはいるけれど、それは我々患者やその家族、患者を診る医者の責任ではない。そのしわ寄せを我々患者の側が一手に引き受けなくてはならない、というのは、やっぱり全然納得がいかない。
 ベタナミンへの切り替えは、私が一日様子を見ていられる日曜日から始めようと思っている。

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1月18日(金)

 連絡帳によると、朝、ドウ子先生が教室に行ってみたら、泣いた後の顔をしていたらしい。他の子と喧嘩したわけではなく、L子さんが「なわとび」を忘れてきたことがわかったら泣き出した、という。当のL子さんは「今日の体育では使いませんよ〜。来週に間に合えばいいんですよ」とケロッとしているし、3年生のI君も「使うときにはぼくのを貸すよ」とL子さんに伝えていた、という状況の中、昇平だけが心配していたらしい。
 まあ、優しいと言えば優しい昇平なのだけれど、気にしすぎる、心配しすぎる、というのが難点。それが、給食をなかなか食べない1年生を気にしすぎての暴言などに発展したりもする。「(それについては)昇平くんは心配しなくていいんだよ」と声をかけると、「気にしないの?」と言って気持ちを切り離そうとはするものの、それはかなり大変なことらしい。気持ちの切り替え、切り離し。まだまだ本人の成長を待たなくてはならない部分だ。

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1月19日(土)

 福島市で親の会主催のC-SSTお楽しみ会。C-SSTとは、周囲の社会と円滑に関わっていくためのスキルを学ぶ訓練なのだけれど、その実践の場として、お楽しみ会が開かれた。親子合わせて二十数名で、チョコバナナを作り、会食をしながらビンゴゲームを楽しんだ。そんな内容の中にも、協力して作るとか、他の子やそのお母さんたちと関わるとか、ゲームのルールを守るとか、C-SSTの要素はたくさん含まれてくる。親も、この会の間は叱らずに良いところを見つけて誉めるという、ペアトレの実践の場になっていた。
 全体としては楽しくスムーズに進んだけれど、私が司会進行する中、昇平だけがしょっちゅう妨害するように発言してきて、まいった。いつもとは違う母だったのだろうと思う。たぶん昔取ったなんとやらで、「先生」の顔が出ていたんだろう。我が子がいる場所で先生をすると、我が子は母親を取られたような気持ちになって、荒れたり拗ねたりすることが多い、と昔職場で聞かされたけれど、本当にそうなるんだなぁ、と思っておかしくもあった。
 それでも、昇平は私の代わりをお願いしたスタッフと一緒に、「これはお母さんの」「お父さんにもお土産にしよう」とチョコバナナを作り、ラッピングも一生懸命考えていたようで、「とても優しい昇平くんでしたよ」とスタッフのお母さんに教えてもらった。
 会合が終わって母子二人で家に帰ったら、あとは嘘のように落ちついて安定していた。

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1月20日(日)

 旦那は出勤。長男は昨日今日と大学入試センター試験。私と昇平は日中散歩に出ただけで、後はどこへも出かけなかった。
 リタリンをベタナミンに切り替える。一日の処方量は10mg。それを1/2にしたものを、朝と昼に服用。
 午前中はあまり変わりなかったが、昼過ぎになって、今までのリタリンが完全に体の中から消えたと思われるあたりから、急に落ちつきがなくなって、なんとなく危なっかしい感じになってきた。今まで落ちついて歩いていた場面で小走りになる。ほんのちょっとしたモノに目を惹かれて立ち止まる、手を出そうとする。公園の沼が寒さで凍っていたのだけれど、「沼のそばに行って氷にさわりたい」というので、それはダメ! と禁止した。バランスを崩して沼に落ちそうな気がしたのだ。こんな心配をしたのは久しぶりのこと。
 その他にも、ファンタジーの世界に浸っていつも以上にひとりごとが多いとか、こちらの話しかけに反応がなんとなく鈍いとか、気になる変化はいくつも見られた。ベタナミンもすぐには効果が出てこないのだろうから、しばらく様子を見て、主治医と相談しながら量の調節をしていかなくてはならないと思う。
 それにしても、リタリンをADHDに処方禁止、というのはやっぱり納得いかない。厚生労働省では「禁止しているわけではない」と言っているらしいけれど、だからといって「ADHDに使ってもいいですよ」とも言わないで、調整のしにくいコンサータを勧めてきているわけだから、結果としては同じことだ。 

[08/01/22(火) 05:22] 学校 日常 療育・知識 発達障害

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