昇平てくてく日記3

中学校編

テスト勉強で気づかされたこと

 来週の金曜日に中間テストがある。中学生になって初めての、定期テストだ。
 昇平は目標点数とテスト勉強の予定を書き込んだ予定表を学校で作って持ち帰ってきた。これはすごく良かった。本人が決めた目標に従って、家庭学習の計画を組むのを手伝ってあげられたから。
 本当は計画そのものも自分で立てて欲しかったけれど、なにしろ初めてのテスト。どんなふうに問題が出てくるのかもわからないし、何をどう勉強していいのかも本人にはわからないので、母がテスト範囲を確認しながら、「この問題集のこのページからこのページまで」「この暗記用の冊子ではこのページとこのページを覚える……」と目印に付箋を貼って手伝ってやった。やり方がわかったら、だんだん自分でも学習計画が立てられるようになるだろう。

 部活動をやって帰宅すると6時近く。すぐに夕飯を食べても、勉強をすれば大好きなパソコンタイムは減ってしまう。
 「遊べない!」「お母さんは遊びより勉強の方が大事だって言うのか!?」と、文句を言って騒ぐ騒ぐ。(ちなみに、「お母さんは遊びより……」と言われたときには、即座に「うん、あたりまえでしょう」と答えてやった母。勉強は学生の本分よ、昇平くん。遊びだってパソコンだって時には勉強になるよね、なんてことは、こんな場面では絶対に言ってあげません)
 それでも、部活を頑張ってきた分、パソコン時間延長に使えるクリスタルをもらったりして、なんとか目標に近いところで毎日テスト勉強を頑張っている。


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 ところで、テスト勉強に付きあいながら、ちょっと面白いことに気がついた。
 地理の暗記をしたから冊子に書いてある問題を出して、と言われたときのこと。
 「大陸全体がひとつの国となっている、南半球にある大陸はなにか?」という問題を読んだら、昇平が「え?」という顔をした。「……もういっぺん言って」。もう一度、問題文を読んでやると、さらに困惑した顔になって、「それってどういうこと?」
 この問題の答えは、オーストラリア大陸。地図で南半球にある大陸はオーストラリアと南極だと何度も確認して覚えたはずなのに、この問題を出してやると、そのたびに「え?」という反応をする。
 どうしてこんなに理解しにくいんだろう? たったこれだけの短い文章なのに。問題を出すたびに、答えがオーストラリアだというのも確かめているのに。

 私は毎晩、昇平に「フルートの冒険」を読み聞かせている。私が創作したファンタジーだけれど、その読み聞かせももう8話目まで来た。そろそろ物語も終盤。最終決戦、という場面。
 「フルート」をのぞいてみた人ならご存じだけれど、この物語は非常に長い。登場人物も多いし、設定もいろいろあるし、ストーリーだって、初期の作品はともかく、最近のものは決して単純ではない。
 でも、昇平はちゃんと理解して聞いている。登場人物たちの心情も、きちんと理解している。長いのに。ことばも非常に多いのに。……何故だろう?

 思わず昇平に聞いてしまった。
「大陸全体がひとつの国となっている、南半球にある大陸は? っていう地理の問題はよくわからないのに、どうして、こんな長い物語は理解できるの?」
 でも、昇平の答えは「えー。わかんない」。
 よくわからないけれど、地理の問題の意味は理解しにくくて、「フルート」の方は長文でもわかりやすい、ということらしい。

 何が原因かな、ともう一度、地理の問題文を眺めて考えてみた。
 ……イメージしにくいんだろうか?
 文章そのものは短い。でも、その短文には、「大陸」とか「国」とか「南半球」とか、頭の中に思い浮かべなくてはならないことばがいくつもあって、さらに、「ひとつの国になっている」とか、「南半球にある」とというように、イメージを重ねなくてはならない。言語面に弱さを持つ昇平としては、問題文からイメージを思い描きにくいのかも知れない。

 それに対して「フルート」の方は自他共に認める「超・視覚的文章」。読んだ誰からも、「物語の場面が映像になって頭に浮かんでくる」と言われるから、それは間違いないのだろうと思う。だから、どうしても描写量が増えて、長文になってしまうわけだけれど。
 言ってみれば、社会の問題文は抽象度が高く、「フルート」の文章は具体的。そこがわかりやすさの違いであって、文章の長い短いは関係ないのかもしれない。


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 私たちはよくこんなことを言う。
「どうしてこんな簡単なことがわからないの!?」
「こんな単純なことが、どうして理解できないの!?」
 なんて言ったりもする。

 でも、それは本当に「簡単」で「単純」なことなんだろうか。
 「人前ではきちんとしましょう」と言ったとき、文章そのものは短いし、言っている内容も単純ではあるけれど、それが具体的にどういうことか? というのを思い描くのは、決して「簡単」ではないかもしれない。
 人前、って、どこにいる誰の前のこと? きちんと、ってのはどうすること? お母さんの前でやりなさい、ってこと? それともおじいちゃんの前で? きちんと、って、自分ではきちんとしてるつもりなんだけどなぁ。別に床に寝っ転がってるわけでもないし……。
 子どもはそんなふうに考えて、とまどっているかもしれない。

 文章そのものが単純なことが、簡単なこと・理解しやすいこと、というわけではないんだな――と、テスト勉強に付きあううちに改めて気づかされた。 

[08/05/15(木) 10:18]

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