昇平てくてく日記3

中学校編

見通しを立てるための支援

 今週から夏休みの部活が始まった。
 とはいえ、彼はパソコン部。運動系と違って、そうそうハードな活動をするわけではない。活動日は今週と来週にそれぞれ3日ずつと、夏休みの最後の週に4日。その程度。長男は卓球部で、夏休みはお盆の週以外はびっちり部活があったので、そのあたりの違いにちょっと驚いている。私自身も合唱部だったから、夏休みは合宿とかあったし、コンクールや定期演奏会に向けて一番忙しいときだったし。とはいえ、このくらいの部活動の回数で、昇平にはちょうど良いような気はする。

 パソコン部では今年、多くの部員が検定試験に挑戦するので、非常に真剣に練習に取り組んでいる。長男の頃のパソコン部というと、一部の部員は熱心だけれど、どちらかというと「お遊びの部」と見られることが多かった。それだけ、学校や顧問が力を入れているのだな、と思って見ている。そんな真剣な雰囲気の中で、昇平が集中力が持続しなくなって、活動時間を短縮してもらった件は、 「部活の早退を決める」 に書いたとおり。時間は短くなったし、たまに疲れて部活をさぼってくることもあるけれど、基本的には部活には毎日参加している。夏休みになっても、「めんどくさいから行きたくない」とは言わない。

 さて、夏休みの部活初日だった昨日、パソコン部の顧問の先生から突然電話がかかってきた。
「部活中なのですが、昇平くんが来て早々から、いつまでやればいいんだ、どこまでやるんだ、とずっと言い続けていまして……」

 先にも書いたとおり、今、部員たちは検定試験に向けて本当に真剣に活動中。静かな中で一生懸命頑張っているのに、昇平が大騒ぎするものだから困ってしまう――という雰囲気がありありと伝わってきた。わ〜、もうしわけありません。


 実は、こんなふうになるんじゃないかと予想はついていた。
 今までだって、昇平は毎日放課後に部活に行っていたけれど、夏休みの活動は初めての経験。時間が長いし、開始時刻や終了時刻だって違う。活動内容だって、今までとは違う。放課後の部活で何をどうすればいいのかはわかっていても、「夏休みの部活はどうやればいいのか」がわからなくて、見通しが立たなくて不安になっていたのだ。
 家であらかじめ説明してあげられれば良かったのだけれど、こちらもパソコン部は初めてだから、夏休みに何をどんな風にやるのかがわからないから、説明のしようもない。かくて――というわけ。

 先生としては、部活の静かで真剣な雰囲気に昇平が我慢できなくなっているのでは、とも考えていらしたようだったので、そうではなく、「見通しが立たないこと」で不安になっているのだ、ということを説明して、「自分がどういうことをすれば良いのかを指示してやってください」とお願いした。
 昇平は今回の検定は受けないけれど、将来検定試験を受けることを想定して、一緒に勉強をしている。それを「○時○分までやる」とか、「この問題集のここのページまでやる」というように、具体的な指示で示してほしいこと。さらに、それが終わったらどうしたらいいかを言ってほしいこと。そのまま帰宅するのか、他の部員たちのように涼しいパソコン室で夏休みの宿題をするのか。そのあたりのことは本人と顧問の先生で話し合って決めてほしいこと。

 結局、昇平はその日、検定問題集を先生に指示されたところまでやって、早く帰宅した。「明日もパソコン勉強がんばるからね」と笑顔で言っていたので、夏休みの部活に関して見通しが立ったのだろう。後はもう、そうそう騒ぐこともないのでは、と思う。疲れてきたら話は別だけれど、そういうときには途中で帰してもらっても良い、とお願いしておいたし。


  ☆彡☆彡☆彡☆彡


 この子たちには、「見通しが立たない」ことが非常に大きなプレッシャーになる。
 普通なら、人の話やその場の様子から、なんとなくやることがわかって、いつまでに何をどうすればいいか、の見当がつくものだけれど、この子たちはそうはいかない。なにしろ、人の話にも場面の様子にもわかっていない部分が非常に多いから。
 彼らの見る世界は、ちょうど曇りガラスと素通しのガラスが組み合わされたモザイクのようなもの。あるものに関しては非常によくわかるけれど、あるものはぼんやりとしかわからない、中にはまったく見えなく(聞こえなく)なっていることもある。
 そうなると世界は混沌としてしまうから、自分がするべきことがはっきりわからないと、不安で不安でしょうがなくなる。静かに自分の中だけで混乱して困っている子もいるけれど、昇平は不安になるとそれを口に出して訴えるタイプ。しかも、同時に怒りだしてしまうから、「どうすればいいんだ!?」「いつまでやればいいんだ!?」と大騒ぎを始める。果ては「一生やらなくちゃならないのか!?」……一生なんて長い時間やるはずはない、と周囲は思うわけなのだけれど、「見通しを立てられない」昇平にしてみれば、本当に、一生このままやらなくちゃならないんだろうか、と不安になったりするわけだ。
 それでも、何度か同じ活動を繰り返せば、「あ、またあの時と同じようにすればいいんだな」と見通しが立つようになるから、落ち着いて活動に参加できるようになる。でも、初めての経験に遭遇すると、また「どうすればいいんだ!!?」になってしまう。
 初めての活動に取り組むときには、できるだけ本人に見通しが立てやすいようにしてあげること。そういうことなんだろうと思う。

 ただ。
 見通しが立たないと不安になる、というのは、実は我々健常者も同じこと。
 「突然の事故で交通機関が麻痺しています。いつ復旧するか、今のところまったく見通しが立ちません。他の交通手段で移動することもできません。この後、もしかしたらもっと悪い事態になる可能性もあって、その場合、皆さんには避難してもらうことになるかもしれません。ただ、その際の避難所も、今はまだどこになるか予測できません」
 などというアナウンスを駅などで聞かされて、不安にならない人はいない。
 「いったいどうやったら家に帰れるのか!?」「いつまでここにいなくちゃいけないんだ!?」「避難って、どこへ!?」……社会的に地位のあるような大人たちだって、そんな場面ではそんなふうに怒り出したりする。
 夏休みの部活をどういうふうにやるか。
 たったそれだけのことと思えるかもしれないけれど、彼らにとっては、そういう事故現場と同じくらい、不安な状況だったりするんだよね。

 見通しが立つことは大事だ。そのことさえ支援してもらえば、今までよりずっとスムーズに集団や活動に参加できるようになる子どもたちは、本当に大勢いる。

 見通しを立てるための支援。
 ぜひご協力をよろしくお願いします。

[08/07/23(水) 05:54] 学校

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