昇平てくてく日記3

中学校編

あわてず、騒がず、じっくりと

 中学生になって家にいない時間が長くなり、学校での様子も小学校のころのようにはわからなくなってしまった昇平だが、それでも、時々、帰宅してからその日の様子を話してくれる。内容としてはいい話もあるけれど、トラブルを起こした報告もとても多い。それを冷静な顔で聞く私。トラブルに母がいちいち大騒ぎすると、学校でのことを話してくれなくなるような気がするから。


 今日もそんな報告だった。
 音楽の前の時間に交流学級の男子と大トラブルになったんだ。お腹を触られて、俺、怒って暴れたり「おまえなんか人間じゃない!」とか言って、その後、先生に「人間はひどい、信じられない」とか言ってたら、「音楽の授業に出なくていいです」って言われて、岩沢先生が来て教室に連れ戻されたんだ。先生も友だちも、誰も俺をなぐさめてくれないんだよ。

 は〜……なるほど。そういうことがあったんだ。
 と、落ち着いて聞ける自分はえらいかもしれない、と我ながら思った。いやはや、ホントにやってくれますねぇ。(苦笑)


 お腹を触られた、というのがどういうことかは、だいたい見当がついた。最近になって急に体が大きくなってきた昇平。身長だけが伸びるなら良いけれど、横にも大きくなって小太り気味の体型。それを「太った」と言うと、昇平がむきになって怒るものだから、面白がってからかう子たちがいるらしいのだ。
 確かにからかうほうが悪いのではあるけれど、それにむきになって怒るとますます面白がってやるようになるのが、この年代の子どもたち。そういうのは無視しなさい、それが一番いいんだから、と言い聞かせた。


 ただ、昇平の話はいつも、かなりわかりにくい。適切なことばがなかなか出てこなくて時間がかかる上に、周りがよく見えていないことが多くて、場面が把握しにくいのだ。何度も聞き返したり、ことばが出てくるのを待ったり、こちらから確認したり……を繰り返すうちに、だんだんその時の状況が見えてきた。
 昇平は授業が始まる前に、眠くて音楽室の床で寝ていたらしい。で、そこをいたずらな男子にお腹をつままれて怒った、と――。


私:寝てた!? あんたね、それはからかわれたって当然よ!

昇平:どうして?(むっとしている)

私:いくら眠くても、学校の床に横になって寝ていいと思う? 回りにそういうことする子が他にいる?

昇平:……いない。

私:でしょ? 学校では普通、そういうところで寝たりしないのよ。どうしても眠かったり、調子が悪くて起きているのがつらいときには、先生に言って保健室に行って休むの。そういうことをするから、面白がっていたずらされるんだから、そういうきっかけは作らないようにするのよ。


 説明しながら、こういう大元の部分がわからないで怒っていたりすることがあるから、話はよく聞かなくちゃいけないんだよなぁ、とつくづく思った。「同級生が俺をからかった! だから怒ったら、先生に授業に出なくていいって言われて、つまみ出された!」なんて本人の話の部分だけ聞いていたら、「先生方は何を指導しているんですか!?」と血相変えて学校に怒鳴り込むようになるし、たとえそのことで相手の子どもたちが注意されたとしても、「むこう(昇平)にだって落ち度はあるじゃないか!」と内心不満を持って、本当に解決にはならないだろうと思う。


 さらに話を聞くと、相手の子どもたちはちゃんとその場で注意されたのに、その後も昇平は音楽室で「人間はひどい!」などと騒ぎ続けて、とうとう「授業に出なくていいです」と言われることになった――という状況も見えてきた。
 それはねぇ、もうトラブルは終わっているのに、昇平くんがいつまでも怒り続けているから、うるさくて音楽の授業にならなかったんだよ。それで帰りなさい、って言われたのよ。当然でしょう?
 状況が見えて、昇平、「俺はバカだ! 最低だ!」といきなり自己反省に突入してしまった。

 ところが、自己反省しながらも、その中に混じってくるのが「先生も友だちもお母さんも、誰も俺のことを慰めてくれないんだ!」ということば。これこれ、君。それもちょっと思い違いだよ。
 もちろん、からかった相手は良くないよ。それに対して君が怒ったのだって、それは当然の気持ちなんだけど、そもそものきっかけは、君が床の上に寝ていたりしたからでしょう? しかも、もう解決した後まで、君がいつまでもずっと騒いでいるから、授業の邪魔になるって帰されたわけでしょう? そういう人を慰めてくれる人っていると思う? この次からはそうしないようにしようね、って励ましてくれても、よしよし、かわいそうに、君は悪くないんだよ、なんては言ってくれないよね。
 昇平、しばらく考えて、「そうか。俺をからかった連中が後で『よしよし、君は悪くないよ』なんて言われてたらおかしいもんな」とやっと納得していた。


 本当に、昇平が起こすトラブルの大半は、こういう「自分の状況や相手の気持ち、場面をうまく読めないこと」から起きている。ま、言ってみれば、自閉スペクトラム系のトラブルなのだけれど、それでもこんなふうに丁寧に場面を読み解いて説明してやると、少しずつ理解できるようになってくる。丁寧に丁寧に、時間をかける必要はあるけれど、それでも確かにわかってくるのだ。
 だから、こちらもできるだけ正確に状況を解説できるように、話は正確に聞くようにしている。昇平の話だけではわからないときには、担任などにも聞いてみる。そうすると、「なるほど、こういうことだったのか」とわかることがたくさんある。
 あわてず、騒がず、じっくりと。
 最近の私のスタンスは、そんな感じになっている。


  ☆彡☆彡☆彡☆彡


追記:
 同級生の男の子たちが昇平をからかう件については、担任に知らせて注意・指導と目配りをしてもらっているし、家庭でも、昇平の話を通じてエスカレートしていく傾向がないかどうかをチェックしています。なにしろ中学生、まだ12〜13歳の子ども同士ですからね。相手の子どもたちも昇平も、お互いとても未熟なので、自分を抑えて相手の立場を思いやれるようになるまで、成長を待つ時間も必要だろうと思っています。
 なんだか、本当に「冷静なお母さん」モードではあるけれど、これが解決と成長のための一番の近道かな、と考えているのです。

[08/09/10(水) 19:45] 家庭

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