昇平てくてく日記3

中学校編

県教職員の異動発表に

 県の教職員の異動が発表になりました。


 昇平の担任の岩沢先生、退職。
 介助の赤井先生、退職。
 協力学級の担任で、授業の工夫が抜群にすばらしかったE先生、異動。
 協力学級の音楽、技術、家庭といった実技系の授業を担当していた先生方、異動。
 そして、特支教育コーディネーターで発達障害の理解が深く、私が一番頼りにしていた教頭先生は隣市の教育委員会へ。


 あぁ〜〜〜〜っっっ!!!!!


 これは何かの悪夢ですか?(涙)


 いえ、岩沢先生は定年退職ですから、元々決まっていたことではありました。
 赤井先生も、介助の任期は1年間だから、今年いっぱいで終わる可能性は高かったです。
 教頭先生も力があるからこそのご栄転。
 どれも仕方がないことだし、めでたいことではあるのだけれど。

 残された昇平や私たちは、誰とどうやって学校生活を乗りきっていけば良いと?


  ☆彡☆彡☆彡☆彡


 中学生になってから、日記の更新が滞りがちでした。
 多忙のためもあります。ですが、一番大きな理由は、「日記に書けないことが、中学校にあまりに多すぎたから」です。
 思春期を迎えて難しい年頃になってきた子どもたちです。昇平が年相応に発達していないことは事実ですが、周囲の子どもたちにも、それを充分受け止め、受け入れる力がまだ育っていない子が大勢います。それが、昇平たち特別支援学級の子どもを「からかう」という形で出てきます。
 いじめの芽につながっていくので、学校には早い時点から申し入れて、気をつけて見守るようお願いしてきました。もちろん指導もしてもらっています。でも、子どもたちの心は、そう簡単には育っていきません。からかう子ども自身も何か理由やつらいものを抱えていて、それが弱者である昇平たちに向かうのかもしれません。からかいは簡単にはなくなっていきません。
 昇平は、自分がからかわれたときにも怒りますが、クラスメートの女の子がからかわれたときに大爆発を起こします。守ろうとして暴言を吐き、追いかけ回して手や足が出ます。パニック状態になっているし、体が大きくなって力も強くなっているので、女の先生や弱い先生では抑えきれないこともあったようです。生徒に怪我人こそ出ませんでしたが、いつ何時、そんな事故が起きるともわからない状況でした。
 自分がからかわれたときには、そこまでにはなりません。大爆発のきっかけは、いつも、友だちがからかわれたときです。
 それでも、もし相手に怪我をさせてしまったら、悪いのは手を出した昇平ということになります。

 大爆発の後、昇平はいつもとても落ち込みます。またやってしまった、俺はダメなヤツだ、と。
 彼の気持ちの落ち着いているときに、「自分に負けないようにしようね」と話してきかせます。
 素直な彼です。一生懸命、彼なりに自分をコントロールしようとします。実際、自分で自分を抑えて、爆発しそうな場面を回避したり、怒りを我慢したり、ということもしているようです。家庭の中でも、マイペース(自分勝手)な自分を良く変えようと努力する場面がしばしば見られます。
 そんな彼だから、学校も一方的に彼を叱ることはしません。彼が学校で落ち着いて過ごすにはどうしたらいいのか、どうすれば、彼だけでなく、周囲の子どもたち全員が良い方向へ成長していけるか、それを考え続けてくれています。

 今年一年間、正直、私たちは非常につらかったのです。
 家でトラブルが起きることはほとんどありません。起きるのは決まって学校の中。学校から電話がかかってくるたびに飛び上がり、大パニックの知らせに、とるものもとりあえず学校へ駆けつけていったことも何度もあります。
 それでも、なんとかここまで親子でがんばってこられたのは、理解して力になってくれる先生方がいて、私たちを支えてくれていたからです。
 その先生方の半数以上が学校からいなくなってしまうという事実。
 これはきついです。さすがの私でも――きつい。
 昇平も、口には出しませんが、不安な顔をしています。


  ☆彡☆彡☆彡☆彡


 救いは、校長先生と学年主任の先生が残っていらっしゃることです。やはりとても理解のある先生方です。ここまで異動になっていたら、私は本気で昇平の転校を考えたかもしれません。
 子どもの気持ちに寄り添うのがとても上手な美術の先生も続投です。
 昇平が好きな理科の担当の先生も残ります。来年度も教科担任になるかどうかはわかりませんが。
 その他にも、私の知らないところで昇平を理解して、支えてくれている先生方は残っているのかもしれません。
 新しく来られる先生方にも期待しています。
 こちらは、与えられた環境の中で、最大限学校と協力して、昇平にとって出来る限り過ごしやすくて意義のある学校生活を実現していくだけです。


 ただ、この一年、私がもう一つ思い知ったのは、教師の中には本当にどうすることも出来ない先生もいるのだ、ということでした。
 詳しくは書きません。個人攻撃をするつもりはないので。
 ただ、これだけは言っておきたいのです。
 教師というのは、子どものためにある存在。教師の役目は、子どもの成長と学習能力の向上を支援することです。その本分が理解できない人は、教師をするべきではないのです。
 どんな理由や背景があってそんなふうなのか、私にはわかりませんが、学校長にそういう先生を動かす権限がないことは知っています。事情がわかるからこそ、昇平に数学の家庭教師までつけて、忍の一字で今年一年を耐えてきたけれど。
 来年度も同じような体制になるのであれば、私は昇平の親として、自分に出来る行動をとるかもしれません。

 私は、ご存じの通り、どちらかと言えば学校擁護派の保護者です。一方的に要求するのではなく、双方のできることとできないことを見極めながら、変えられる部分から学校を変えていくべきだと思っているからです。その私がここまで書くのだから、よほどのこととお考えください。
 教師のために子どもたちがいるのではありません。子どもたちのために教師がいるのです。
 その大原則は、絶対に忘れてはいけないのです。


  ☆彡☆彡☆彡☆彡


 中学2年生という学年は、中学校生活の中では一番変化が大きく、それだけに大変なことも多い時期だと聞いています。発達障害を持つ子どもたちにはなおさら大事な年になる、とスクールカウンセラーをしている心理の先生から教えられたことがあります。

 昇平は昇平なりに、子どもから大人になるために、日々模索して努力しています。
 春休みの今日も部活動に行きました。他の子より早く帰ってきますが、部活動には参加するべきだと考えているからです。本当は真面目で努力家の昇平です。爆発して怒ってしまったとき、見通しが立たなくてパニックを起こしてしまったとき、誰よりもそれをつらく悲しく感じているのは昇平自身なのです。
 実際の人と人との関わりもまだあまりうまくできないけれど、家庭ではオンラインゲームを通じてグループを組み、そこで友だちになった人とチャットでしながら、人間関係の持ち方を勉強しています。相手を思いやること、勝手な発言はしないこと、あまりしつこくすると嫌われること、からかってくる子の発言はスルーすること……チャットという文字のやりとりを通じて、本当にさまざまなスキルを学習しています。まさしくSSTの実地版です。オンラインゲームも使いよう。決して馬鹿には出来ません。

 そんな今の昇平を理解して支えてくれる先生方が、来年度も学校にたくさん生まれてくれますように……。
 そして、昇平と周りの子どもたち全員が、良い学校生活を過ごしていくことができますように。
 子どもたちの持つ、知・体・心のすべての面が、支えられ導かれて、大きく成長していきますように。

 今日の教職員の異動発表を見ながら、心からそう願っています。

[09/03/25(水) 10:33] 学校

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