昇平てくてく日記3

中学校編

【新刊案内】「発達障害と家族支援〜家族にとっての障害とはなにか〜」

 久しぶりの日記ですが、今日は、私が受講しているペアレント・トレーニングの講師でもある、中田洋二郎先生の新刊のご紹介です。

発達障害と家族支援 〜家族にとっての障害とはなにか〜
  中田洋二郎・著/学研/税抜1,600円
 (アマゾンの書籍案内へリンクが貼ってあります)


  ☆彡☆彡☆彡☆彡


 「気になるお子さんがいるんです。ずっと様子を見てきたんですが、どうも何か発達に問題があるような気がするんですね。でも、お母さんがどうしてもお子さんのそういう困難を認めようとしてくれなくて。どうしても専門機関や病院には行こうとしてくれないんです」

 発達障害児の親の会の役員などをしていると、子どもの育ちに関わる人たちから、そんなふうに相談されることが時々ある。相談――いや、愚痴に近いかな。私に話したところで、解決策が見つかるわけでも、私にそのお母さんを説得できるわけでもない、というのは先方もわかっているから。
 専門家としては、一刻も早く専門機関に行って、子育ての助言を聞いたり療育を始めたり、子どものために動き出してほしいと思うのに、肝心の親が動き出さない。じれったくて心配で、その想いを誰かに話さずにはいられない――そんな気持ちなのだろう。私が同じ親だから、わかってくれる親に話を聞いてもらいたい、という心情もあるんだろうと思う。


 またある時には、逆に親のほうから相談されることもある。いや、これもやっぱり愚痴に近い。
「あの先生は熱心なのはいいけれど、厳しすぎるというか、なんでも自分の思い通りにいかないと気がすまないみたい。この前も『お母さん、がんばらなくちゃダメじゃない。お母さんがしっかりしなかったら、お子さんはどうなると思うの? 子どもの将来は親の育て方にかかっているんですからね』なんて言われちゃって。そんなの私だってイヤって言うほどわかっているのよ。でも、子どもはこっちの思い通りになんか育たないし、私も生活のために外で働いてるから、思うようには関われないことだってあるし。もう、その先生と話していると、つらくてつらくて……」
 こういう話では、最後にはたいていお母さんが泣き出してしまう。

 親だって先生だって、決して無関心なわけでも意地悪をしているわけでもないのになぁ、と話を聞きながら思う。
 むしろ逆で、我が子に障害がないと言い張る親は、我が子を大切に思うからこそ、そういう態度になるんだし、先生だって、子どものためになんとかしてあげたいと思うあまりに、お母さんにハッパをかける形になってしまうのだから。
 双方が子どもを大切に思っている気持ちは同じ。それなのに、双方の想いや姿勢がすれ違ってしまう。本当は手を取り合って、子どものために協力していかなくてはならない人同士なのに。


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 中田先生のライフワークのテーマは「発達障害と家族支援」だ。発達障害を持つ子を支援するためには、まずその子の家族を支えなくてはならない、という考え方。

 一番つらい想いをしているのは障害のある子ども本人なのだから、その子のために家族や周囲の人々が尽くすのは当然のことだ、と言い切る専門家にも時々出会う。そういう人から見ると、たいていの親は『子どものために尽くしていないダメな親』になってしまうらしい。
 でも……と、同じ親の立場として私などは思う。
 家庭の中には、障害のある子だけでなく、障害のない兄弟も、配偶者や両親といった他の家族も一緒に暮らしている。親自身にも自分の生活や仕事がある。それらをすべて犠牲にして、一人の子どものためだけに尽くそうとしたら、家族に大きなしわ寄せがいくことになる。
 障害があったってなくたって、我が子は我が子。親にとっては大切な子ども。障害ある子どものために、他の子どもを犠牲にするなんて事はできない。それ以外にも、病気を持つ年老いた親を抱えている家庭だってある。配偶者がリストラにあって家庭の中で落ち込んでいる家庭だってある。親自身が何か大変なものを背負いながら、子どものためにできる限りのことをしている場合だってある。
 子どものために、そういうもの総てを犠牲にしたら、最後には、家庭そのものが崩壊したり、親が追い詰められて、ある日突然最悪の結果に走る可能性がある。脅かしなんかじゃない。そんなふうにがんばりすぎた親が、力尽きて、我が子を手にかけたり無理心中したりした哀しい事件は、最近もいくつも起きている。


 発達障害は、子どもの成長を長い時間をかけて支え、見守っていかなくてはならない。
 それを見守るのは誰か?
 一番長い時間、すぐそばにいて子どもに関わるのは誰か?
 それは、その子の親と家族。
 だから、親が持つ「子育ての力」を支えることが、その家庭にいる発達障害児の育ちを支えることになる。
 そのためには、やっぱり、専門家が親の気持ちをよく知るところから始まるんだろうと思う。

 親が障害ある我が子をどう思っているか、子どもの障害を知ってどんなふうに感じるか、障害ある子どもとどんなふうに関わるようになっていくか。
 まずそこを知って、その上で親の「子育ての力」を支えていかないと、前述の熱血先生のように、熱意が伝わるどころか、逆にお母さんを泣かせて追い詰めるだけになってしまうだろう。それは、双方にとって、とても哀しいことだと思う。そして、障害を持つ子どもにとっては、本当に不幸なことだと思う。


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 この「発達障害と家族支援」の本の中には、そんな親の気持ちが、中田先生の経験から考察されて、深く詳しく描かれている。
 私自身が読んでも、違和感はなかった。確かにその通り――。私には当てはまらない事例でも、相談にのったあのお母さんみたいだ、療育のサイトで出会ったあの親御さんの話に似ている、と思い出せることばかりだった。
 そう、私たち親は、こんなふうに感じたり、考えたりしている。
 その上で、なんとか我が子を育てよう、愛し続けていこうと毎日悪戦苦闘している。
 その気持ちに専門家が寄り添って、その上で、専門家としての視点から援助の手を差し伸べてくれたら、これは本当に嬉しい。

 また、親のほうでも、自分自身の気持ちがよく見えていなかったりするから、それを見直して整理することは大事だろうと思う。周囲に理解を求めるときにも、「こんな気持ちでいるんです」とことばで伝えられれば、理解してもらいやすくなる。そのために親にもぜひ読んでほしい本だな、と思う。


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 「お母さん(お父さん)、あなたのその子育ての仕方でいいですよ。本当によくがんばってますね」
 専門家が言ってくれるその一言が、どれほど親を勇気づけ、その後の子育ての力に変わっていくことか。

 そんなふうに、親の「子育ての力」を支えてくれる専門家が一人でも増えることを願って、この本をお薦めします。

発達障害と家族支援 〜家族にとっての障害とはなにか〜
  中田洋二郎・著/学研/税抜1,600円 

[09/03/16(月) 20:23] 書籍

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