昇平てくてく日記3

中学校編

がんばった夏休み

 連日の猛暑に「暑い、暑い」と言っているうちに、昇平たちの夏休みも明日を残すだけとなりました。福島県の公立小中学校は、水曜日から2学期開始です。

 この夏休み、昇平は体験型の日々を過ごしました。
 私と一緒に電車で福島駅まで行く練習をしたのは、前回のてくてく日記で報告したとおりですが、それ以外にも、フリースクールに週1回のペースで通って、先生や他の子どもたちと交流したり、同じくフリースクールで主催したキャンプに参加して、野外炊飯をしてテントで寝て湖で泳いだり。盆前には郡山市の私の実家へ泊まりに行って、年下のいとこと遊んだり、地元の夏祭りに行って花火を楽しんだり。


 毎日の勉強もがんばりました。
 受験のために塾や夏期講習に通う、ということはなかったのですが、学校から出された宿題は毎日計画的にこなしていったし、家庭教師との数学の勉強もきちんとやりました。私とは、英語の長文読解を一緒に勉強しました。自力で完璧に解くのは難しいのですが、前よりは少しわかるようになったかな? という感じです。

 面白かったのは、社会科の宿題に出された「スクラップブック作り」。自分なりのテーマを持って新聞を読み、テーマに沿った記事を見つけたら切り抜いてスクラップして、感想を書く、という内容です。受験の際の小論文の基礎にもなる宿題なのかな、と思いましたが。
 新聞などまったく読まなかった昇平が、この宿題のために、毎日新聞を読むようになりました。彼のテーマは「エコロジー」です。
 とはいえ、ADHDもある彼は、不注意がひどいので、なかなか紙面から目ざす記事を見つけることができません。先に私が目を通しておいて、「この面にエコの記事があるみたいだよ」と言って、そのページの見出しを読む練習をしてもらいました。
 記事を見つけたら、切り抜いて、音読してからスクラップブックに貼り付けます。この「音読する」という内容が、彼にとって良かったと感じました。意味が理解できる、難しい漢字や固有名詞に触れる機会になる、社会的な内容にも触れることができる、もちろん、エコロジーへの日本の動きもわかります。
 8月半ばあたりから、地元の夏祭り関連の記事が増えて、エコ関係の記事がほとんど載らなくなってしまいました。そういう日は、「なんでもいいから、自分で面白そうだと思った記事を見つけて、お母さんに読んで聞かせること」としたら、それはそれで面白い勉強になりました。食べ物や生活に密着した記事を読むことが多かったですね。それだけわかりやすかったのでしょう。
 昇平は、行事や課題を通じて伸びていくタイプの子どもです。目標達成までのステップをちょうど良い高さにして、一歩一歩前進できるようにしてあげれば、その経験を通じて、ぐっと成長します。この夏休みは、そういう体験をたくさんできたので、結果としてとても大人になったように、私には見えています。


 ただ、大人になる、ということは、同時に新しい混乱や困難も招きます。
 彼なりに社会に少しずつ興味を持つようになって、新聞やテレビも以前よりよく見るようになりましたが、その結果、そこで目にした出来事やコメントに激しいショックを受けることも増えてきました。事件や事故を報道するテレビを観て、一人でしくしく泣いていることもよくあったし、お気に入りの漫画のキャラクターが死んだことに大ショックを受けた日もあったし、ネットの動画サイトに書き込まれたコメント(悪口の応酬)に「こんなひどいことを言う人たちがいるなんて!」と、泣きじゃくったこともありました。感受性が強すぎるのですね。ネガティブな人間の感情に非常に敏感で、傷つきやすい心をしています。

 こちらは、そういう昇平の特長を踏まえた上で、一つ一つの出来事への対処法を教えてきました。
 基本は「誰にだって苦手なものはあるのだから、苦手は無理に克服しようとするのではなく、嫌なものに近づかないようにする」ということ。
 「そんな甘いことを言っていてはダメだ! がんばって苦手を克服しなくては!」という考え方もあるし、その言わんとすることもわかってはいるのですが、生来の過敏性というのは、その人の身長が高いとか低いとかいうことと同様、生まれつきのものだから、いくら努力したところでそう変わるものではないのですね。それよりは、「傷つかない程度の場所まで避難する」「安全な場所から観察する」「それで少しずつ慣れることができたら、その時には、少しずつ離れる距離を小さくしていく」というステップを繰り返していくほうが、「苦手に慣れろ、慣れろ」「精神を鍛えろ!」と叱咤激励するより、ずっと早く、苦手に対応できるようになっていきます。

 それを一つ一つの出来事へ。
「このテレビの見出しは人目をひくように、こういう書き方をしているけど、実際にはこういう意味なんだよ」
「このキャラクターが死んでしまったのは悲しいし、主人公もそれにショックを受けているけれど、きっと主人公はそれを乗り越えて、死んだ人の分までがんばっていくんだよ。お母さんはそう信じてるよ」(昇平が何のコミックにショックを受けたかおわかりですか? 超有名な少年漫画なのですが)
「ネットの動画サイトに悪口を書き込むような人は、何か面白くないことがあってイライラしているのかもしれないね。だから、すぐに誰かを批判したくなるのかもしれないね。それをたしなめてくれる人もいるんだけど、それよりも、悪口を言う人のほうが書き込む回数が多いから、それでネットをやっている人全員が悪口を言うように見えるのかもしれないね。でも、○○○(別のコミュニティサイト)には、そういう意地悪を言う人はすごく少ないでしょう? 全員がひどい人なんかじゃないよね。嫌なことばかり書き込む人が多いところは、見に行かないようにすればいいんだよ……」
 そんな感じに。


 最近、昇平はこんなことを言うようになりました。
「ぼくは判断は素早いんだけど、思考する速度が遅いんだよね」(だから早とちりしたり、間違えたりするんだ)
「ぼくは体力はあるけど、精神力がダメダメ。精神的に弱いんだ」(自分の過敏性について)

 表現はどうしてもネガティブな感じになっていますが、それでも、自分というものを自分なりに客観視して、自分の苦手を把握するようになってきたところは、成長でしょう。
 まだまだ先は長いし、大人になっていけばいくだけ、出会うものも増えるから、それと上手につき合っていくためのスキルも身につけていかなくちゃいけないのですが、それでも、あきらめることなく自分自身と向き合い、上を目ざし続けている昇平は、本当に偉いと思います。
 ネバー・ギブアップ。
 昇平を見ていると、そんなことばがしょっちゅう浮かんできます。

 
 そうそう。
 この夏休み、昇平はWiiのトレーニングソフトの「Wii Fit Plus(ウィーフィット・プラス)」で、体を動かすこともがんばりました。
 協調運動に困難のある昇平なので、バランス感覚もあまり良くなかったのですが、ゲーム感覚で体を動かしているうちに、いつの間にかバランスが良くなってきました。リズム感も少しずつ付いてきたし。
 感覚統合訓練を受ける場がなくて、じれったい想いをしてきたのですが、こんな強い味方があったのか! と感激しています。
 毎日体重測定もできるので、食べ過ぎ防止になって、夏休み中にお腹がすっかりスリムになりました。今日、新しい服を買いに行ったのですが、今までよりワンサイズ細いジーンズを着こなして、とてもかっこよく見えました。


 いろいろあった夏休みも、もう終わり。
 夏休み中に培ったものを力にして、2学期を乗りきっていってほしいな、と思っています。

[10/08/23(月) 17:06] 家庭

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